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祈り、剣に映る時(4)


「いいのか? セト」


トライデントのコックピット内部、足を組んだネフティスは溜息混じりに問い掛ける。

カメラに映るのはレーヴァテインを下りたリイドとオリカが少年と会話をしているシーンだった。

セトは腕を組み、いつもどおりの穏やかな微笑を浮かべたまま、その問い掛けには答えない。

リイドがどう考えているのかはともかく、ここはセトにしてみれば敵地。 一度は命を奪われそうになった戦場で、ああも容易く心を赦すとは。

しかしそうした考え方そのものが戦場を生きてきた人間とそうでない人間との間にある差であり、自分達とリイドはやはり決定的に違うのだと感じずには居られなかった。

褒められたものではないはずのその行動を、しかしセトはうらやましく思う。 そのリイドの不器用で幼い行動に、正しささえ覚えるほどに。

だが、それで一歩間違えれば何がどうなるのかもわからない以上、自分達はしっかりしていなければならないと思うのだ。


「彼は、僕たちが今までどんな事をしてきたのか知ったら、きっと・・・怒るだろうね」


「主義や思想の違いなんて下らないな。 人間は所詮理解し得ない存在同士だが、わがままを言っていられるのはこの星が残されているからだ。 戦場そのものであるこの世界で個人の主義主張など、下らないもんさ・・・そうだろう、セト」


「確かにね。 僕たちはこの世界を守らなくちゃならない。 自分の気持ちや理想なんてものは後回しにして」


出来れば誰だって争いたくなどないだろう。

特に、セトやネフティスはそう思う。

争いの中に身をおいてきたからこそ、それを強く願うのだ。

だが、祈りは戦場に置いてなんの意味も持たない。

だから力で叩き伏せ、ねじ伏せ、恐怖によって人に鞭打ち走らせるしかないのだ。

立ち止まってしまった者から死んでいくのがこの世界ならば、

ただ、走らせる事しか出来ないそれは、むしろ祈りの姿に似ていた。




⇒祈り、剣に映る時(4)




「ほれ、おいらお手製のサンドウィ〜ッチだぜ。 沢山あるから好きなだけ食べてくれよな」


「あ、うん・・・ありがとう?」


癖のある茶髪を揺らしながら八重歯を見せて笑う少年。

歳はリイドと同じ15歳であり、ボロボロのシャツに同じくボロボロのズボンを穿き、上着だけは新品の軍服を羽織っていた。

敵地での突然の施しに戸惑うリイドを全く気にもせず、本人が一番食事にがっついているという不思議な状況が成立している。


「ていうかあんた、誰?」


「お? おいらはシド。 そういや自己紹介がまだだったよな、たはは!」


「・・・ボクはリイド・レンブラム」


「あっちのおっぱいでっかいねえちゃんは?」


「おっぱ!? ・・・うー・・・私はオリカ・スティングレイだけど・・・」


「ホントでかいなー・・・さすがにルクレツィアには及ばないけどさ。 あ、ルクレツィアってのはエクスカリバーの干渉者の名前な。 あの騎士の」


「え? 適合者じゃなくて?」


「おうよ。 だって適合者はおいらだもんさ」


オリカは気にもせずもぐもぐとサンドウィッチを口にしている。 なぜなら少女は気づいていたのだ。 ルクレツィアが干渉者であることに。

しかし気づいていなかった人間が約一名。 リイドは目を丸くし、それから疑心を込めた目でシドを見つめる。


「ホントにあれ、お前が操ってたのか・・・?」


「そうさ! 槍ぶん投げたのも、おいらさ。 反省はしてるけど、でもあの時は勘違いしてて仕方なかったんよ」


「勘違いって・・・」


「んまあ、おいらたちを攻撃しにきたんかと思って。 でも話聞いてたら、お前いいやつだな。 だからさっきのこと謝ろうと思ってさ。 結構貴重なんだぞ、ここじゃ食べ物だってよ〜」


誰もが生きることに苦労を感じないではいられないこの枯れ果てた大地でこれだけの食料は余程貴重なのだろう。

故に持ってきた少年本人が最も嬉しそうにそれを平らげているのは特におかしなことではなかった。

味は確かによかったが、所詮はどれも品質の良くない食料だ。 リイドにしてみれば、こんなものはいくらでも食べる事が出来た。

だからそのパンズを一口口にしては思う。 自分達とこの世界との違いを。


「いいよ。 もう怒ってないし・・・それに、確かに突然だったのはボクらの方だ」


思えば何故、SICは突然事を起こしたのだろうか。

いや、事態が切迫しているのは実際にここを訪れれば判る。 だが、事前連絡くらいしてもよかったのではないか。

余り想像したくは無いが、仮にアレキサンドリアがここで起こる戦闘などを既に想定していたとしたら。

つまり、エクスカリバーとレーヴァテインを一度衝突させたがっていたとしたら。

そんな風に考えてしまうのは、それが結果的にいい方向に全てを転がらせるきっかけになったからである。

衝突はあったものの、これが最も和解への近道だったのだとリイドは思う。 うだうだ表面上でやり取りしても時間ばかりが過ぎていくだろう。

だからこそ、無謀にも敵陣に突っ込んでいくようなリイドの性格とルクレツィアの性格とを照らし合わせ、状況を想定した作戦だとしたら。


「ま、そこまで考えちゃいないよな・・・多分」


なによりそうだとしたら、手の平で操られていたなんて気に入らない。


「リイドが細かいこと気にしないやつで助かったぜ! ま、友好の証に食ってくれよ!」


「・・・・・・どうも」


食ってくれといわれても、既に大半はシドが平らげてしまった後だった。 そんなことに突っ込むのも面倒だったのでリイドはスルーすることにした。


「って、ああ・・・あっちの二人にも分けてあげるんだった」


「トライデントのパイロットか? だったら心配すんな、集落に来てもらえれば用意できるさ」


「そうなの? なんか悪いね、貴重な食料なのに」


「いやいや、いいんさ! エクスカリバーがおいらたちに見せた『虫の知らせ』が現実にならんかったから、全然いいんよ!」


「・・・虫の知らせ?」


「リイド、適合者なのに知らないんか? たまぁにな、エクスカリバーは敵の襲来や悪い予感をおいらに知らせてくれるんだ。 そのお陰で今まで町を守ってこられたんさ」


少年が見る未来のビジョン。

それはアーティフェクタに乗り込む適合者であれば誰でも見る事の出来る直感的映像。

例えばカイト・フラクトルも敵の襲来を察知する直感を持っていた。 それはスヴィアもセトも同じであり、無論シドもそうだ。


「アーティフェクタは意思を持ってる。 みんなそれぞれ個性があって、感情もあるんよ。 だから、たまに教えてくれるんさ。 だっておいらたち適合者は、エクスカリバーにしてみれば友達みたいなもんだからな」


「・・・・・・アーティフェクタが、友達・・・?」


理解出来ない表現だった。 口も利けない機械の塊が感情を持ち、人間に対して友情を抱くなど、ありえない。

そう考えるのはリイドがレーヴァテインの意思を感じた事が一度もないからであり―――レーヴァテインに心を開いた事も一度もなかったからである。

そもそも心を開くだのなんだの以前に、レーヴァテインを自分と対等な存在などと考えた事はなかった。

兵器であり機械であるレーヴァは自分に使役されて当然の存在・・・そうした感情がリイドの態度の全てであり、それをねぎらうような態度は一つとしてなかった。

シドは明るく笑い飛ばし、レーヴァテインの足に触れる。 なんら反応を示さないレーヴァだったが、シドは確かに感じていた。


「こいつはリイドの事を守ってやりたいってちゃんと思ってる。 エクスカリバーに比べるとちょっと我侭なカンジだけど、でもちゃんとお前のこと感じてるんだぜ」


「他人のアーティフェクタでもわかるのか!?」


「わかるもなにも・・・オイラ、こんな体だもんよ」


上着の袖を捲くる少年。 その腕には蒼い光の線が無数に刻まれていた。

蒼い光の線。 罅割れとも取れるその傷は、体がフォゾンに侵され朽ちて行っているという確かな証拠だ。

リイドにはそれがない。 だがリイドにはまだないだけで、フォゾン化の影響は誰にでも訪れる。

シドも例外ではない。 だが、そうして体の一部をエクスカリバーと同化させているが故に、その感情を理解出来る。


「人の気持ちを判ってやる為には、そいつと同じ立場になってやるんが必要なんさ。 少なくとも、おいらはそう思う」


「同じ立場になる・・・」


レーヴァテインを見上げる。 オリカが下りている為、素体のままのその機体を。

気持ちを理解するということはリイドにとっては大事件に等しい。 彼は自分以外の存在の感情を理解しようなど考えた事はなかった。

そう、そうして理解したいと願ったのは・・・かつて少年を導いた、先を行く焔の髪を持つ少女のみ。

心を重ね、シンクロすることで知った他人の心は―――リイドには想像も出来ないようなものだったのだから。

理解出来ないような、想像もつかないようなものを抱く人間と言うものを知る事は出来ない。 難しすぎる・・・知ったところでそれがよい事になるとは限らない。 リイドはそう判断し、気づけばシンクロによって学んだ他人の心を理解するという経験を完全に殺して閉まっていたのかもしれない。

だがそれも仕方のない事だ。 今なら自分の気持ちもはっきりとわかる。 リイド・レンブラムは、イリア・アークライドの事が、大好きだったのだ。

失ってしまうまでそれに気づけず、気づいたとしても、それをはっきりと認めるにも随分と時間が掛かってしまった。


「そっか・・・同じ立場、か・・・」


気づけばがむしゃらに望んでいたのは、彼女の気持ちだったのかもしれない。

カイトやイリアが望んでいる景色を見たい。 彼らと気持ちを同じにしたい。 それは、自分が他人を理解するために同じ立場に立ちたいと願ったからなのかもしれない。


「わかる気がする。 今更わかるっていっても遅いかもしれないけど」


「んなこたねえさ! リイド、判ってくれたんなら全然今からだっていい! 今気づけたんならそれでいいんさ!」


リイドの手を取り、両手でそれをブンブン振り回しながらシドは無邪気に笑っている。


「おいらたちのこと、少しわかってくれたらそれでいいんよ。 おいらたちも、お前の立場、わかろうと努力すっから。 せっかく同じロボットに乗る運命にあるんだから、仲良くしたほうがぜってーたのしいに決まってるさ!」


「・・・・・・ったく、楽しいかどうかで物を判断すんなよ」


「へへへ・・・ま、ともかくこれでおいらとリイドは友達だよなっ! 仲良くしよーぜん、リイドっ!」


「・・・と、とも・・・」


思わず恥ずかしくて顔が赤くなる。

だが、ソレも悪くない。 他人とこうして手をつなぐことも、きっと悪くはないのだ。


「・・・友達かどうかは保留するけど・・・ま、少なくとももう喧嘩はやめようか」


『リイド、お話中悪いんだけど緊急事態だ!』


トライデントが面を上げ、ゆっくりと立ち上がる。


「セト・・・!? 何があった!?」


『集落の方向に未確認機が接近してる。 タイプはヨルムンガルドだけど、所属部隊不明。 ついでにカスタム機が三機混じってる』


「カスタムタイプ・・・って、まさか・・・」


脳裏に過ぎるのはヴァルハラで遭遇した敵。

彼らは容赦なく民間人を攻撃し、それを人質にとろうとまでした集団だ。

そしてその狙いは―――。


「あの時はレーヴァテイン・・・ってことは、エクスカリバーか・・・! シド、さっさと戻れ・・・いや、レーヴァで送る! 乗ってくれ!」


腕を伝ってコックピットに乗り込むリイド。 その頭上を先行するエクスカリバーが飛翔していく。

シドを手の平に載せ、イザナギの光装甲を展開させながら駆け出す。

すぐさまトライデントに共有されたデータを確認すると、合計十二機のヨルムンガルドタイプがエクスカリバーに向かっていた。


「オリカ、どう思う!?」


「多分前会った人だと思う。 フォゾン反応が同じカンジ」


「シド! ルクレツィアはどこだ!?」


「多分もうエクスカリバーに乗ってると思う! コックピット上で下ろしてくれ!」


「了解!」


大地を駆けるレーヴァテインに先行していたトライデントは集落の前に着地し、オヴェリスクを取り出して戦車隊に下がるように促す。


「敵が近づいている! 戦車じゃ戦力外だ! 直ちに下がれ!」


外部通信をオープンにし、セトが叫ぶ。 しかし横一直線にならんだ戦車隊は全く引き下がる気配がない。

振り返ればその先には搭乗者のいないエクスカリバーが膝を着いている。 確かにここで下がってしまってはエクスカリバーが無防備になる。


「参ったな・・・」


「おいセト、敵のヨルムンガルド・・・カスタムタイプの進行速度が尋常じゃないぜ。 アーティフェクタ並だ」


「判ってる。 全く、これじゃあ間に合わないかもね」


レーダー上の速度を確認するだけでもカスタム機のスピードは従来のヨルムンガルドの三倍近い。

十二機ということは四小隊編成。 そのうち先行する三機がカスタム小隊ということになる。

それはあっと言う間に進撃し、三機同時に放ったフォゾンライフルの光は戦場を焼き尽くしていく。

燃え盛る戦車隊。 飛来する光線をオヴェリスクで薙ぎ払い、トライデントが前に出る。


「一発目で殆ど壊滅か。 使えねえな、旧世代兵器は」


「フォゾンライフルか・・・まだそれほど数は作られてないはずなんだけどな、あれ」


棺型のウィングユニットを正面に八つ並べ、その扉を徐々に開いていく。

再び飛来する第二派攻撃。 飛来する光の矢は開かれた棺桶に次々と吸い込まれていく。


「全く、厄介な事だよ・・・本当にね」


突き出す略奪者の賛歌オヴェリスク。 その周囲に広げた棺桶を接続し、超スピードで回転させる。

棺桶はフォゾン攻撃を吸収し、奪い取ったその力をオヴェリスクに還元する能力を持つ。

故に無数の光から得た力は全て一点、ランスへと収束し・・・解き放たれる。


「ハアッ!!」


渦巻く光の螺旋。 放たれた一撃は空中で拡散し、四方八方に広がるヨルムンガルドを次々に貫いていく。

カスタムタイプはそれらの攻撃を全て回避したものの、後続の機体は二機を残して壊滅。 圧倒的な力を見せつけ、その威力に思わず敵の足は止まった。

それがセトの狙いだった。 一瞬でも足が止まればそれでいい。 圧倒的速度で接近するエース機でさえ、先ほどの攻撃の威力なら一度は足を止める。


神聖象形ヒエログリフ


二本のオヴェリスクを空中に放り投げ、分解されたそれはトライデントの肩部で再構成される。

巨大なランスは長大な砲身に。 棺桶をそれに接続し、先ほど奪い取ったフォゾンの弾倉とする。

姿勢を低く構えるトライデント。 その槍の本質は、遠距離砲撃。

二対の長距離砲撃装備、神聖象形ヒエログリフ砲。 解き放たれたその砲弾の一撃は砂の大地を木端微塵に吹き飛ばし、光の柱を立ち上らせる。

足が止まればあとは狙い撃ち。 白兵戦闘は望むところではない、足の遅いトライデントならば。


「せいぜい時間稼ぎ序に・・・一方的に狙い撃たせてもらうっ!」


トライデントの砲撃が続く中、エクスカリバーに隣接したレーヴァテインはその手をコックピットに近づけ、そこでシドを降ろした。


「助かったよリイド! ありがとな!」


「そんな事を言ってる暇があったらさっさと乗り込め! ったく・・・」


振り返るとオリカは口元に手を当て小さく笑っていた。 それが気に入らなくて睨みつけると、オリカはウィンクして正面を促す。

今は確かに言い争っている場合ではない。 オリカの態度は気に入らなかったが、今は戦うべき時だ。

砲撃を中断したトライデントの左右にレーヴァテインとエクスカリバーが並んで刃を構えると、その光景は壮絶なものとなった。

世界を救える力が三機肩を並べて戦場を共有しているのだ。 現存するどんな兵器を持ってしても、この防衛線は絶対に崩せない。


「ごめんセト、遅くなった」


「構わないよ。 それで、エクスカリバーも協力してくれるのかな?」


「当然だ。 貴殿らにはむしろこちらが救われたのだ。 戦車隊は撤退完了した。 感謝する、トライデント」


「いえいえ。 さて、それじゃあどうしようか」


武器を構えるアーティフェクタ三機。 正面に滞空するのはいかにカスタムされていようが量産型のヨルムンガルド。

戦力は圧倒的に有利。 いや、三機も揃ってしまっては最早並大抵のゲートならばいくらでも攻略可能な戦力。 神をも圧倒するその力の壁の前に、成す術など存在しない。


『レーヴァテインまで揃っていたのか。 ふ・・・ご苦労な事です』


「あんたたちこそ懲りないな。 この間追い返してやったばっかりだって言うのに」


『ふ・・・確かに、アーティフェクタ三機を相手にこの戦力では勝利することは難しい・・・ですが、別に私達は貴方たちと戦いに来たわけではないのでね』


「どういうことだ・・・」


『アーティフェクタも所詮は人が操る神。 ならば倒す手段は一つではない・・・そういう事です。 貴方達のような未熟な人間が搭乗者ならばそれは尚の事』


「面白いじゃないか。 だったらその手段とやらを見せてくれよ」


『言われずとも。 ですが、その前に・・・名乗っておくとしましょうか』


ウロボロスは武器を納め、静かに頭を下げる。 礼儀正しい、紳士のように。


『我らはラグナロク。 世界をあるべき姿に戻す事を望む者。 神と天使に支配された愚かな大地を開放し、新たなる楽園を築き上げる・・・その為に、まずは世界に小石を投じるとしましょう』


世界とは水面のよう。

静かに全てを映し出し、そして波風が立たない限りその景色が崩れる事は無い。


『ならば、投じましょう。 我らが命を賭け、世界に波紋を与える・・・それこそ、我ら蛇に与えられし宿命』


「何言ってんだあんた・・・?」


『いずれまた、正面から刃を交えましょう、レーヴァテイン。 本日はこれにて失礼します』


「は? お、おいっ! 何しに来たんだよ!?」


ウロボロスは質問には答えず、左右に散っていく。 拍子抜けした三機は武器を納める。


「なんだあいつ・・・? 本気で何をしに来たんだ?」


確かに戦車隊は破壊されたものの、それは決定打ではない。 得られたものは確かに何もないが、失ったものも無い。

ならばそれは相手も同じ事。 今現在彼らが行ったのは戦車隊を破壊し、変わりにヨルムンガルドを失っただけ。

むしろ、高価なヨルムンガルドを破壊された分彼らのほうが損をしただけの話である。

何はともあれ脅威は退けられた。 ならば武装を解除し、話し合いの続きを・・・そう考えていた矢先だった。

三機のレーダーが同時に反応する。 いや、索敵能力に優れたトライデントのみは既に気づいていた。 腕を組み、静かに呟く。


「嵌められたみたいだね」


「・・・なんだ、この反応・・・」


レーダーには数え切れないほどの天使と神の反応。 赤い反応が津波のようにこの場所に迫っている。


「彼ら、ロシアゲートの周辺を飛んでからこっちに来たんだと思うよ」


敵はフォゾンに反応する。 無論、ヨルムンガルドにも。

そうしてヨルムンガルドを追跡してきた敵は、近づくにつれより強大な反応がこの大陸にあることに気づくだろう。

アーティフェクタ。 膨大なフォゾンの塊であり、敵にしてみればこれ以上ないご馳走だ。

だから敵はヨルムンガルドの追跡をやめ、新しい得物をかぎつけ追いかける。 三機も居ればなおさらだろう。

数え切れないような敵と戦うのは今までもそうだった。 だが、今回ばかりはスケールが違いすぎる。

大地の果てに天使の群れが見える。 それは夕暮れの空を黒く染め上げ、無数の羽ばたきと叫びを上げながら近づいてくる。


「何だこの数・・・!? これがロシアゲートの戦力・・・!?」


「の、一部だ。 私たちが戦いを挑んでいる相手は、そういう相手だ」


剣と盾を構え、エクスカリバーが前に出る。

引き下がる事など出来るわけもなかった。 無論、勝利出来ない事など目に見えている。

連戦連勝だった。 しかし、エクスカリバーは満足な整備も受けていない・・・ましてや先ほどイザナギにつけられた傷さえ修理できていない状態なのだ。

敵の嵐の中、無残に引き裂かれ、散る事だろう。 それは明白であり、避けては通れない未来である。

だがルクレツィアもシドも一歩も引き下がるつもりはない。 最早敗北が明白だったとしても、守るべき世界は確かに彼らの背後に存在する。

国を失い彷徨う民を、自分を慕ってついてきてくれた無力な兵を、しかしそれでも守りたいと願う愛しい世界を。


「守る・・・! その為に、私達はここに踏みとどまってきたのだ!」


紅くはためくマントは夕日の光を浴び、更に真紅に輝く。


少女は祈るように剣を構え、そして少年はにこやかに笑いながらエクスカリバーを前に歩ませた。


「リイド、悪いな。 おいらたちここまで見たいだ。 三機で掛かっても多分ありゃ倒しきらねーし、でもおいらたちは引き下がれない」


操縦桿を握り締め、振り返る。 自身が確かに友情を感じたなら、ソレは既にもう仲間であり・・・守るべき対象だから。


「だから、お前らはもう逃げていいぞ。 こんなことに付き合う必要はねえんさ」


シドは、逃げろと言う。

ルクレツィアも、思いは同じだった。

だが、リイドは・・・そうは思わなかった。


「ふざけるなよ」


左肩に納められたもう一つの太刀に手を伸ばす。


「あの程度の数でビビってんじゃねえ!」


月詠と同じ形状、しかし異なる色・・・そして能力。

イザナギが所持する三本の刀の中で最も破壊力の高いその太刀を抜き去り、白い影を引くその刃を正面に構えた。


「アーティフェクタを舐めるな! ボクたちは選ばれた英雄なんだ! こんなところで情けなく撤退なんか出来るかよ!」


オリカが目を閉じ、少年の心を呼び寄せる。

シンクロする。 非常に高い純度と錬度で。 深く深く、少年の心を理解する少女だからこそ、少年の力を、限界まで引き出せる。

二人の間にある境界線などあってないようなものだ。 少年が少女を拒絶したとしても、そんなものは少女にとってはなんの意味も無い。

なぜならオリカはリイドを理解しているから。 何があっても揺るがないオリカの強い精神と全てを包み込む優しさは、拒絶を超えてシンクロする。

最も、リイドに対して付加の掛からない、考えうる最高の相性で、少年の想いをレーヴァテインに伝える。


「自分一人でやろうなんて考えるな。 それはただの思い上がりだ。 そんなものに、他人を付き合わせるなっ」


背後に居る人々は、まだきっとエクスカリバーを信じているから。


「見せてやらなきゃいけないんだろっ!! 人類の希望ってやつを! アーティフェクタが持つ可能性ってやつをっ!!」


辛い時、悲しい時、絶望的な状況になった時。

それで俯いたところで何もついてこない。 そして、その思いが強くて引き下がれない時も、一人ではそれを成す事は出来ない。

自分が学んだ事を心に秘め、その思いの全てをこの一撃に込めて。


「オリカッ!」


「うんっ」



「「 天下抜刀! 灰燼―――天照アマテラスッ!! 」」



振りぬく刃は白き炎の一撃。

刃を振るうというだけの単純な動作に、膨大なフォゾンを使用し、その威力を増幅する―――!


少年の意志を反芻するように力を増大する刃の一撃は何もかもを引き裂く神罰の威力。


レーヴァテインは確かに応える。 僅かに成長し、しかし何かを成したいと自らの意思で願った少年の祈りに。


その力は限りなく解放され、その一瞬のみだが、限界を超えた力を発揮した。



放たれ増幅した刃は、一瞬で数え切れぬ数の天使を引き裂き、浄化し・・・迫っていた戦列を完全に停止させた。



遅れて飛んできた爆音と衝撃の中、転がっていく戦車を背に光の中でイザナギは振り返る。


「最初の勢いはどうしたんだ? ルクレツィア。 怖気づいて弱音を吐くなんて、騎士失格だな」


リイドの声に思わず少女は苦笑する。

ああ、そうだ。 今までだってそうしてやってきたんだ。

そして今は・・・こんなに頼れる相棒がいる。


「馬鹿を言うなレンブラム! 私は・・・まだ、ここにいる!」


「どうするセト。 やつらすっかりやる気だぞ」


「・・・まぁ、仕方ないね。 それに、エクスカリバーを守れって言うのが命令だから」


再び肩を並べる三機。 迫り来る敵の津波の中、ルクレツィアは小さく祈るように呟き、


「・・・すまない、感謝する」


それを皮切りに、三機は敵の嵐の中に突き進んで行った。



〜普通のあとがき〜


なんだか速いもので、もう30部行ってしまいました。

この間あとがきを書いた『翼よ、さようなら』がつい最近の気がするのですが。

さて、ここまで読んでくれている人にはとっても感謝しています。超感謝です。超感謝なのでその念を送りたいと思います。


とりゃああああああああああああ


・・・届きましたか?


さて、30部なので何か書こうと思ったんですがなんか書くことないですね。

ようやくエクスカリバーも出揃い、世界観の紹介が終わった頃でしょうか(遅)

今後はそれぞれのキャラクターが抱える問題をメインにレーヴァテインの謎に迫っていく展開になるわけですが、色々キャラが増えてきたせいでもうなんかめんどくさくなってきてるのはボクだけでしょうか。

というかなんか最近執筆のやる気が・・・やる気がなんか落ちてきてて・・・。

そもそも実はボク、『翼よ、さようなら』あたりの話までしか考えてなかったんです。

元々この霹靂のレーヴァテインという企画は随分前に考えて設定起こしてプロローグだけ書いて放置してたものなんですが、その間にも色々と考えて何となく翼よ〜のあたりまではまとまってたんですね。

でも最近は書きながら考えているので詰まると更新も止まります。詰まるとやる気が落ちてさらに詰まります。そんな悪循環。

こんな駄目な作者の小説を読んでくれてありがとうございます・・・っていうかでも最近読者数落ちてきてて落ち込んでるわけですが。まあ分相応な内容になってきてる気もしないでもない。

ああ、だめだ。なんかネタが出ないと落ち込んできますね。


ま〜それはともかく、まだ付き合ってくださってる方々には非常に感謝してます!ただぶっちゃけ何をどうすると面白くなるのかもうよくわかりませんが!

うーん・・・うーん・・・。


まあそんなわけなんですよ。


さて、次からようやくリイド君がヴァルハラに帰ります。色々な謎を絡めつつ、そろそろゆっくりと物語を終わりに向かって動かさねばなりません。

この話のメインヒロインはエアリオなんですが、てんで出番がないです。人気がないです。そろそろ出番を増やさないと不人気にも程があってメインヒロインと胸を張っていえなくなりそうです。

あーーーーほんとどうすっかなああああああああ!


悩んでます・・・。非常に悩んでます・・・。

誰か助けてくれないかなあ。

こんな作者に応援メッセージを送ってくださる方は以下のURLからどうぞ。


あれ、出てないですか。


そうですか。


ではさようなら〜。

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