心、擦れ違い(2)
「そう・・・そう。 だから、結局入手できた情報は大したことないわ。 ただ、例の件を裏付ける情報は手に入ったけど・・・」
生徒会室の窓辺に立ち、窓の向こうを眺めながら電話と続けるカグラ。
四階の校舎の窓から眺める景色は水平線の向こうの夕焼けに照らされ、紅く染まり始めている。
襲撃による騒ぎは一段落し、学園に留まっていた人々も散り散りに家に帰っていく。
そんな景色を眺めながら、カグラは自らの手にした拳銃を見つめ、目を細めた。
あの時。
『このまま生きてても辛いだけか・・・イリアにとっても・・・残された人間にとっても』
引き金に指をかけ、イリアを楽にしてやるつもりだった。
生きながらえさせたところで元に戻る保障は何もない。 時間経過でどうにかなることでも、手術でどうにかなることでもない。
だから、もう何をしても無駄。 尽くせる手ならばとうにジェネシスが尽くしているだろう。 だから、もうどうにもならない。
そうわかっているのに、気づけば銃をホルスターに戻していた。
らしくない行動だと自分でも分かっている。 ただ、きっと、少しだけ・・・ほんの僅かな気の迷いなのだと思いたい。
今後永遠に苦しみ続けていく事になる彼女を、殺してしまう方がいいとわかっているのに、そうできなかったのはなぜか。
「え? ああ・・・聞いてるわ。 ん〜・・・ま、収穫はそっちに送るけど。 もう少し滞在して調べてみるわ」
電話向こうの相手に苦笑しながら返答する。 拳銃はさっさとトランクに戻して、銀色の蓋をパタンと閉める。
「そっちも例の件、調べておいてよね? わかりませんでしたじゃ済まないでしょ、もう」
通話を終了し携帯電話を上着のポケットにしまう。
後どれくらいここでこうしていられるかはわからないが、何はともあれ今はリイドの無事を祈るばかりだ。
「きみはどうしてるのかね・・・この夕日の下で」
鉄板の街から見渡せる景色では、彼の姿を捉える事は到底出来ないから。
ただそんな下らないことに想いを馳せ、少女は生徒会室を後にした。
⇒心、擦れ違い(3)
「で・・・その格好はどうなの?」
目の前の兄は上着を脱ぎ、ワイシャツの上にピンクに花柄のエプロンをつけて真顔で冷蔵庫を漁っていた。
振り返ったその顔は余りにも真面目すぎてとても冗談でやっているようには見えない。 というか、まあ、スヴィアは冗談ではなく真面目にやってるんだろうけど。
長身の美形男子が花柄エプロン。 それも仏頂面のスヴィアがやると、どう贔屓目に見てもアンマッチばりばりだった。
たまねぎと包丁を片手に首を傾げるスヴィア。
「エプロンだが?」
「いや・・・もういいよ。 ボクも手伝おうか? 何作るの?」
「クリームシチューだ。 手伝おうという気持ちは嬉しいが、たまには兄らしいところを見せたい。 任せてもらおうか」
「ああ、そう・・・じゃあボクはどうすればいい?」
「適当にスレイプニルを歩いていても構わんぞ。 その許可もさっき貰ってきた」
流石仕事人。 やることが速い。
どうせスヴィアのことだから恐ろしくこだわって作るつもりだろう。 そうなればこの部屋で待っているだけでは少々暇をもてあますかもしれない。
キッチンを後にすると、壁に耳をつけてオリカが楽しそうな顔をしていたのでとりあえず頭を叩く。
「ふぐ! なんで叩くのー・・・おこられたー・・・」
「何でお前は聞き耳を立てているんだ?」
「え・・・? いやぁ、だってなんか仲良さそうな兄弟だったから、もしかしてなんかその先まで発展しないかなあと思って・・・」
「お前が何を言いたいのかはわからないが、とにかく出るぞ・・・」
「そなの? あ、置いてかないで〜・・・」
無視して部屋を出て行くと慌ててついてくるオリカ。 しかし、流石は同盟軍の空中母艦。 とんでもない規模である。
装甲重視のためか窓は殆どないため外の様子は伺えない。 とりあえずハンガーまで戻り、並べられたヨルムンガルドとガルヴァテイン、レーヴァテインを眺める。
ジェネシスにもこれだけ人型機があれば壮観なんだろうけど、あそこにはまだまだここまで戦力が揃いそうもない。
格納庫は整備班が動き回り、忙しそうだったのでとりあえず隅にあるガルヴァの前に立つことにした。
「こうして素体だけみるとほんとに同じだな・・・。 この間見たトライデントってやつはもう少し形状が違ったと思うけど・・・ん?」
よく見たら奥にはトライデントの素体も並んでいた。 つまりこの戦艦にはアーティフェクタが三機も存在するという事になる。 ちょっとすごい事態だ。
やはりトライデントはレーヴァとは形状もデザインも違いすぎる。 特にあの顔とか。 そういえば、パイロットもこの船にいるのだろうか。
それに何よりやっぱりさっきのエンリルとかいうエアリオそっくりの子も気になるし。 思えば同盟軍のことなんて何も知らなかったわけで。
「ていうかお前、そろそろ色々ボクに言う事があるんじゃないか?」
「え? なあに?」
「イザナギのこととか、あとお前がレーヴァを動かしてた事とか・・・色々聞きたい事が山積みなんだよ! 一向に説明が入る雰囲気がないじゃないか!」
「う〜ん・・・? イザナギの事はね、夢で見てたの。 だから動かし方は知ってた。 なんで動かせるのかはよくわかんない」
「また夢か・・・。 そういえば夢でボクに会ったとか言ってたけど、それは―――」
「おーい。 そこの二人」
せっかく問い詰められそうだったのに格納庫に入ってきた男女二人組に声をかけられる。
同盟軍の軍服を来た少年と、同じく軍服の背が高い女。 声をかけてきたのは女の方だったらしく、ボクの目の前に立つなりじろじろとボクを舐めるような目で見る。
「ほー・・・。 スヴィアに似てんな」
女はボクの髪をわしわし弄り、肩や腕をベタベタ触ってくる。 いい加減鬱陶しくなったのでその手を払い落とし、後退した。
「何なんですかいきなり?」
「ゴメンゴメン・・・ネフティス、いきなりそんなことしたら彼に失礼だよ」
「そうかい。 そりゃ悪かったな」
両手を挙げてひらひら。 まるで反省しているようには見えなかったが、その二人の声と名前には聞き覚えがあった。
「確か、トライデントの・・・」
「あ、覚えててくれたんだね。 僕はセト。 こっちはネフティス。 前に会ったときはあんな状況だったから満足に自己紹介も出来なくて申し訳なかったね」
朗らかな笑顔を浮かべる少年、セト。 ネフティスは湿気た煙草を口にしライターで火をつけていたのでとても友好的には見えなかったが、対照的な二人がトライデントのパイロットだった。
二人とも肌は褐色であり、同盟軍が各国から集まった人間で構成されているという事を物語っている。
セトの白い髪も、ネフティスの黒い髪も、あんまりヴァルハラでは見る事の出来なかったものだ。 一体どこの出身ならこんな色になるのか。
何はともあれとりあえずセトが差し伸べた手を取り、握手とする。 前には助けてもらった恩もあるし、これくらいは当然だろう。
「そっちは君のパートナー?」
「あ、いや・・・パートナーっていうか・・・成り行きでレーヴァに乗ってるヤツ」
「オリカ・スティングレイだよ。 よろしくね、セト君、ネフティスさん」
「よろしくオリカ。 それで、どうしてまた急にスレイプニルに?」
その疑問はもっともだろう。 しかし、まさか何も考えず家出してきた結果だとは言えない。
対応に困っていると、オリカが笑いながら前に出る。
「ヴァルハラがね、ヨルムンガルドの襲撃を受けたの。 その追跡途中でここについてね。 ヨルムンガルドは同盟軍さんの主力機みたいだったから、スヴィアさんに話を聞いてたの」
「ヴァルハラが・・・成る程ね。 そういえばそっちはレーヴァしかアーティフェクタがないんだし、色々大変なんだ」
なにやら都合よく誤解してくれた・・・いや、オリカが誤魔化してくれたと言うべきか。
ウィンクを向けてくるオリカの顔が何かむかついたのでとりあえず叩いておいた。
「でも、こうして直に会える日が来るとは思っていなかったよ。 そういえば、このまま行くとこの戦艦は米国の同盟軍本部基地に向かうんだけど、君たちはそれでいいの?」
「そ、そうなの!? え、えーと・・・まあ・・・」
「アーティフェクタなら、本部からヴァルハラに戻るのは苦労しないだろ? 顔合わせも住んだ事だし、オレは部屋に戻って休ませて貰う。 ルーキーの訓練につき合わされてこちとら疲れてんだからな」
ネフティスはそう言って格納庫を去っていく。 そんなネフティスを見送りながらセトは苦笑を浮かべていた。
「彼女、結構任務に対してストイックだからね・・・。 あんまり気にしないで。 誰にでもああなんだ」
「ふうん・・・」
確かに同盟軍とジェネシスとでは組織体系もその性質もあまりに異なっている。
本来なら部外者であるボクたちがうろついていいような場所ではないのだ。 けれど、搭乗者は・・・やっぱり子供なんだな、と思う。
セトの年齢はボクよりは上だろうけど、とても成人には見えない。 ネフティスもそうだ。 ボクが知っているアーティフェクタパイロットで成人しているのはスヴィアだけ。
「トライデントも、パイロットはみんな子供なの?」
「うん? ああ・・・トライデントのパイロットはね、僕とネフティスだけなんだ。 ガルヴァテインもそうだよ」
「え? そ、そうなんだ」
「僕らは専属パイロットって事になるね。 トライデントはボクとネフティス以外には動かせないし・・・ガルヴァテインはスヴィアがエンリルしか乗せないから」
「あ・・・そういえば、あのエンリルって子は?」
「もう会ったみたいだね。 彼女はスヴィアのパートナーで・・・一年前、彼が同盟軍に入ってきた時には既に一緒だったみたいだよ」
「そうなんだ・・・」
と、いうことは・・・ヴァルハラを出た時には既に彼女を乗せていたのだろうか。
だとしたらエアリオとエンリルは面識があるのか? いや、しかし・・・まあ、考えたところでその答えはわからないが。
エンリルとエアリオ。 余りにも似すぎている二人。 何か事情があるのは間違いないだろう。
そんな考え事をしていると、セトは腕を組んで微笑みながらボクを眺めていた。
「え・・・っと、何?」
「やっぱり少し珍しいからね。 レーヴァテインは全三機のアーティフェクタの中で最強と呼ばれているから。 その適合者は余程の才能が必要とされる。 そのレーヴァテインを動かしているのが若干十五歳の少年となれば、興味を抱かないパイロットはいないんじゃないかな」
「そ、そうなんだ・・・」
「うん。 君はきっと・・・いや、間違いなく天才なんだろうね」
真正面からそうやって微笑んでいるセトの顔が直視できなくて視線をそらした。 なんとも恥ずかしいやつである。
最近は恥ずかしいやつにばかり会う気がする。 何はともあれ・・・カイトとかとは違う感じで、不思議な居心地のよさだった。
「そういえば、アーティフェクタが全四機って・・・?」
「アーティフェクタは『レーヴァテイン』、『エクスカリバー』、『トライデント』の三機がオリジナルといわれているんだ。 量産されている機体は厳密にはアーティフェクタではないからね。 ただ、呼称する際に量産型もアーティフェクタと。 その代わりレーヴァテインやトライデントを『オリジン』と呼ぶ事はある」
オジリンという言葉には確かに聞き覚えがある。 たしか、ヨルムンガルドのパイロットが叫んでいた言葉だ。
だとするとやはり彼女は同盟軍なのだろうか? それにしてもぎゃあぎゃあ喚くわ取り乱すわでまるで軍人らしからぬ行動だったなあ・・・。
「って、ちょっとまって? ガルヴァテインはどうなの?」
アーティフェクタが全三機なのだとしたら、ガルヴァテインは一体なんなのだろう。
とてもではないが量産されたものとは思えない。 その形状はレーヴァに酷似しているし、恐らくは性能も。
「ガルヴァについては実は僕もよく知らないんだ」
「知らないって・・・?」
「あれはスヴィアがジェネシスから持ち出してきたものだからね。 一体どこであんなものを手に入れたのかは、ジェネシスのほうが詳しいんじゃないかな」
「そう・・・なんだ」
ということは元々ジェネシスにはこの機体があったという事なのだろうか。
だとすると余計に分からなくなる。 元々あそこにいたエンリル。 そしてガルヴァテイン。 そんなものが一体どこにあったというのだろう。
カイトやイリアはその事を知っていたのだろうか。 いや、それ以前にスヴィアは何故ジェネシスを出たのだろうか。
ボクの知らない場所できっと様々な出来事があり・・・想像も出来ないような本当にたくさんの事が、世界を動かしているのだろう。
途方もないそれらの事実を全て知る事は難しくて、だから断片的な情報の中からボクらは都合のいい出来事を取捨選択する。
けれど、今のボクはそれでいいとは思えない。 知らないからといって何かを傷つけていい理由にはならないから。
だからそれを知る事でもしも何か守れるものがあるのであれば・・・ボクは、それを知りたいと思う。
関わらないわけにはいかないのだ。 そこにいて、それに乗っている限り。 同じ道に続く何かを、無視する事は決して出来ない。
「そういえば夕飯はまだかな? よければ一緒にどう?」
「あ・・・いや、スヴィアがなんか夕飯作ってるみたいだから・・・セトも来る?」
「じゃあそうしようかな? ネフティスも一応誘ってみるから、僕はこれで。 またね、リイド」
優しく微笑んでセトは去っていった。 間違いなくあいつはいい人なんだろうと思う。 オリカもあれくらいすっきりしていればいいんだけど。
そう考えながら振り返ると、オリカはなぜか目をきらきらさせながらボクをみていたので、まあとりあえず頭を叩いた。
しかしまるでへこたれない。 しぶといやつだ。
「リイド君て〜、美男子と並ぶとすごくいいと思うよお〜」
「何が・・・?」
「男の子同士の絡み、みたいなあ〜」
だから、何が?
それからしばらくオリカは分けの分からない事を言い続けていたが、耳を塞ぎながらスヴィアの部屋まで戻る事にした。
やがて余りにも無視されていたせいか落ち込みながらついてくるオリカを見て苦笑しながら部屋の扉を開く。
テーブルには既に皿が並べられており、スヴィアは片手で古ぼけた文庫本を読みながらボクらを見た。
「戻ってきたか」
「うん。 セトとネフティスに会ったよ」
「そうか」
短いやり取り。 ベッドの上に腰掛けると、スヴィアが読んでいる文庫本に目をやる。
えーと、何々・・・古ぼけているのでちょっと読みづらいけど・・・死神といっしょ!2n・・・・・・・んんっ!?
「す、スヴィア・・・何読んでるの?」
「ああ。 中々面白いぞ。 読むか?」
「え、遠慮しとくけどさ・・・」
「ちなみにこれはシリーズで、前作の方も・・・」
「スヴィア!! シチューできてるよ!!」
「ふむ。 鍋を見てくる」
そのまま文庫本を目の届かない場所に置いて冷や汗を拭う。
しかし、スヴィアが読んでいる本としては意外だった。 確かによく読書はしていたけれど、まさか部屋にあった大量の本みんなあんな感じなんだろうか。
ちょっと知りたくなかった兄の一面に戸惑いを隠せないわけだが、何はともあれシチューは到着した。
ちょっとしたプロが作ったような相変わらずの出来栄えに思わず笑ってしまう。 そう、スヴィアは家事全般をカンペキにこなせるのである。
そんな兄の影響からか、ボクも随分家庭的なスキルが身についたと思うけれど、まだまだこの人には追いつきそうもない。
「うわあああ、おいしそー! スヴィアさん料理上手なんですね〜」
「ああ。 日夜研究しているんだ・・・不味いと言われたら逆にショックだ」
そんな真顔で言わなくてもいいのに。
その後、遅れてやってきたセトとネフティス、それにエンリルを加え食事が始まったのだが、
「狭いな」
スヴィアの言うとおり、この部屋は流石に六人入るには狭すぎたとさ。
さてまあ、この食事シーンは割合する。 色々あったが、色々ありすぎて全部思い返すのは中々難しいからだ。
事態は食事の後、スヴィアの一言で急変する。
「そうだ、リイド」
「うん?」
「同盟軍に来ないか?」
「え?」
その誘いは余りにも唐突で、スヴィアは相変わらず文庫本を読んだまま。
だからそれが本気なのか冗談なのかもよくわからない。 だってスヴィアはいつでも真顔なんだから。
「お前はジェネシスに居るのが嫌になってここに来たんだろう?」
「・・・それは」
「言わずとも分かる。 弟のことだからな」
同盟軍に入る。 それは想像もしていなかった選択肢だった。
ボクにはジェネシスしかなくて、ヴァルハラという街しかなくて。 いくつかの作戦でその街を出たとしても、それは命令だからだった。
けれど同盟軍はどうなのだろうか。 今も世界を取り戻す為に戦って居る人類を守るための軍隊。
思えばジェネシスは何故レーヴァテインを他の人々の為に、世界の為に使わないのだろうか。
レーヴァなら出来る事が、守れるものがたくさんあるはずだ。 それこそ、ここからヴァルハラに戻るのなんてすぐだし。 あちこち飛び回ってもエネルギーが切れることもない。
そんなレーヴァテインを一つの企業が所持し、行使する・・・その今までの状況の方が、不自然だったんじゃないか?
だからガルヴァもトライデントも、セトもスヴィアも世界中を駆け回って神と戦い続けている。
人類はそこから神を模造し、神に対抗できる力を蓄え、着実にソレに対抗しようとしている。 だというのに、ジェネシスは何をしただろうか。
ヴァルハラを守るだけ。 金になる仕事をするだけ。 ただそれだけだ。 いや、ボクは今まではそれでよかった。
けれど、イリアやカイトと出会って、この力で守らなきゃいけないものは自分達だけじゃないんだって分かった今・・・それはおかしいと思ってしまう。
いや、彼らもそれでよかったのだろうか? 彼らこそ、レーヴァをもっと他の何かの役に立てたいと願っていたのではないだろうか。
同盟軍に入れば、それが守れるかもしれない。 もっと多くの人を、世界を、救えるかもしれない―――。
だが、いいのか? それはヴァルハラという街を見捨てるということになる。 だが街一つがなんだと今は思ってしまう。
全世界と一つの街・・・どちらか選べというのなら誰もが世界を選ぶだろう。 ただそれをあっさり選択出来ないのは、きっと彼女たちの顔が頭にちらつくからなのだろう。
みんなはまだ、ボクを待ってくれているだろうか。 いや、そんなはずがない。 どうせ今頃、裏切り者扱いされているだろう―――。
戻ったところで、なんになる。 戻れないなら、もっと多くのものを守れば・・・いつかは、彼らにも顔向けできるのではないか。
しかしそれは完全にこの道を、彼らとは違う道を行くということだ。 だから、ボクは・・・。
「・・・ごめん。 すぐに決められそうにない」
「だろうな。 それもわかっている。 とりあえずしばらくは本部で考えるがいい。 次の作戦には、お前も参加してみろ」
「同盟軍の作戦に・・・?」
「そうすれば私達の戦いが見えてくるだろう。 何が正義で、何が悪で、何をすべきか・・・主張も考えも違う人々がこの世界を支配しているのなら、その中からお前が取捨選択した正義の在り方を見つけるしかあるまい」
「・・・・・・スヴィア・・・」
「お前も直に大人になる。 大人になったとき後悔するのは決まって昔の決断だ。 お前もそうならぬよう、私は出来る限りの選択肢を提供したい。 ただそれだけのことだ」
再びページを捲るスヴィア。 本当に読めているのだろうか? いや、読めているんだろうな。
きっとスヴィアにとってボクのやることなんかお見通しで・・・だからこそ、何も聞かずにココへつれてきてくれた。
その優しさも・・・洞察力も・・・全部、ボクには足りないものだ。
「もう少し、考えてみるよ・・・」
食べ終わったシチューの皿を片付けながら立ち上がる。
「自分が、何をどうすべきなのか・・・」
戦艦は夜の闇を突き抜けていく。
どんどん離れていく自分の故郷を思いながら、成すべき事を考えよう。
彼女の死から学んだ事を、無駄にしてしまわないように―――。
〜用語解説・・・もうわかんない〜
*SICのメンバー編。お兄さんと愉快な仲間たち*
『スヴィア・レンブラム』
年齢:21 性別:男 髪:黒 目:赤 180強
無表情なリイドの兄貴。
元ジェネシス所属。 レーヴァテインのエースパイロットとして活躍していたが、ある理由から離脱した。
離脱後はSICに入社。 ガルヴァテインの専属適合者として同盟軍で活動している。
ヨルムンガルドの基本設計に関わるなど、リイド同様の天才肌であり、彼の戦いは最早芸術的でさえある。
あらゆる事をカンペキにこなす超人だが、時々間の抜けた事を本気でやってのける。
非常に弟思いで、一見すると冷たく見えるが本人はリイドの事をよく理解しているつもりである。
様々な謎を抱え登場人物たちそれぞれの中でも重要な位置を占める彼の存在は、非常に重要である。
冷静に見えるが実は意外と熱血漢で突拍子もない行動をする事もある。
『エンリル・ウィリオ』
年齢:14 性別:女 髪:白 目:金 身長:130強
寡黙で従順な少女。 SIC対神特別室所属。
エアリオに酷似した姿をしており、肌の色が褐色である以外はほぼ同一人物だと言える。
エアリオ以上に他人に心を開かず、誰かを言葉を交わす事を極端に嫌う。
非常に優秀な軍人であると同時にガルヴァテインの唯一の干渉者であり、スヴィアをマスターと慕う。
その出身は何もかも不明だが、かつてスヴィアがジェネシスを抜ける時につれてきたという説がある。
一切合財謎であり、天使や神に対して異様とも言える強烈な敵意を持ち、敵を認識すると冷静ではいられない。
スヴィアはそうした彼女の感情をコントロールする薬を与えられており、常に彼女を管理する義務がある。
エアリオに比べるとしっかりした口調だが、好きな事は食う事か寝る事であることは同じである。
『セト』
年齢:16 性別:男 髪:金 目:青 身長:180弱
トライデント唯一の適合者。 SIC対神特別室所属。
誰に対しても笑顔で接する朗らかな性格で同盟軍でも非常に人気がある。
リイドも彼に対してだけはわりと素直であり、セトもリイドを理解したいと願っている。
見た目や年齢よりも思考が大人びているため、他の少年少女を導いていく存在になるのかもしれない。
褐色の肌を持ち、出身などは不明。 ネフティスと外見上の特徴が似ていることから二人は同じ国の出身だと思われるが・・・。
苗字は存在しないわけではなく、セトというのは彼のコードネームであり、本名ではない。
趣味は人間観察。 放浪癖があり、どこでもウロウロしてしまう。
とはいえ何をやっても他人には迷惑をかけず、キャラクターとしては少し面白みのない完璧少年。
『ネフティス』
年齢:19 性別:女 髪:黒 目:赤 身長:170強
トライデント唯一の干渉者。 SIC対神特別室所属。
元軍人であり、現在でも同盟軍で戦って居る。 アーティフェクタ操縦者としてはスヴィアに続き高齢。 とはいえ19だが。
一人称は『オレ』であり、態度や振る舞いもかなり男っぽい。 髪は短く、軍服がお気に入り。
大雑把に見えて実はかなり器用であり、趣味はパズル。 部屋は常にきちんと生理整頓され、読書も嗜む。
家事全般も得意だが、キャラクター的にらしくないと言ってやりたがらない。
他人に冷たい印象をもたれがちだが、実際はそうでもなく、ネフティスにとってはそれが普通。
ただしセトに対してだけは友好的で、非常に馴れ馴れしい。
元々他人に敬語を使われたり気を使われたりするのが嫌なタイプなので、さん付けなどは好まない。
彼女のみ同盟軍での軍籍も持ち、少尉階級を所持している。