例え、意味などなくとも(1)
三十分くらいでかきました。
バレンタインなのでおまけです。
しばらくしたら消します。
目が覚めたら最初に行う日課が突然なくなっていた時、ボクは一日の異変に気づいた。
⇒例え、意味などなくとも(1)
リイド・レンブラムの場合
「あれ、エアリオ・・・今日は妙に早いね」
制服に着替えてリビングに下りるとテーブルに突っ伏して眠っているエアリオの姿があった。
ボクが起きてきた事にすら気づいていないのか、すやすや気持ちよさそうに眠っている。
起こすのも可愛そうなので、しばらく起こさないでいてやることにした。
その寝顔をぼんやり眺めていると何となくボクまで眠くなってくるから危険極まりない。
「エアリオ・・・ほら、起きて・・・学校行くよ」
「んんんん・・・・」
こうなったエアリオを学校まで引っ張っていくのは骨が折れる。
何とか着替えさせ、半ば引き摺るような勢いで学校へ向かうエレベーターへ飛び乗った。
教室の前でエアリオと別れ、中に入った途端ボクは何か強烈な違和感を覚えた。
それがなんなのか分からず首をかしげながら席につく。
まあ、違和感があったからってどうというわけでもない。
ボクの一日はまた、今日も退屈なままに過ぎ去るはずだから。
「・・・・・・・・おかしい」
それはともかく、いくらなんでもおかしすぎるだろうと思ったのは昼休みになった時だった。
いつもなら真っ先に飛んでくるエアリオがいつになってもやってこない上に、カフェに向かってもそこに誰も居なかったからだ。
いくらなんでもエアリオかカイトくらいはいてもいいような気がするのだけれど・・・。
「うーん・・・・なんだ、この違和感は・・・」
頭を抱えながら教室に戻る。
そうしてあっと言う間に放課後になり、廊下を歩いていると正面からイリアが走ってきて告げた。
「リイド! これあげるからっ!!!」
「え? え?」
手渡されたのは綺麗にラッピングされ・・・・ていたのだろう。 包みにくるまれた恐らくはチョコレートのような何か・・・。
「ああ・・・・・そっか、今日はバレンタインか・・・」
と、そこで思い出すボク。 そういえば結局チョコレートなんて一つも貰ってない気がする。
まあだからなんだっていう話なんだけど。 つかこんなみっともないぐしゃぐしゃなの貰うくらいなら貰わないほうがいいと思う。
いらないので断ろうと思ったけれど、イリアの表情が何やら鬼のようなものになっていたことに気づいたボクは笑顔でそれを受け取った。
「一体なんだったんだ・・・」
嵐のように去っていったイリアと別れ玄関へ。 下駄箱を開けて見ても入っているわけがなく。
「お、リイドみっけ〜! ほい、これアタシからね」
「生徒会長なのにいいの?」
駆け寄ってきたカグラはボクの下駄箱にチョコレートを突っ込み、『セーフ』とかなんとか言いながら額の汗を拭うモーションを見せた。
「別に食べ物の持込はこの学園OKでしょ?」
「うん、そうなんだけど、なんていうか、読者の疑問的にさ」
「アンタが何を言いたいのかよくわからないけど、まあとりあえずあげたからね」
カグラはそのまま走り去っていった。 下駄箱に目の前で突っ込まれたチョコレートを回収する。
走り去っていった少女の両手には数え切れないほどのチョコレートが抱えられていたので、恐らく関係者に配って周っているのだろう。
「ご苦労なことで」
今日は別に本部に出頭しろとかも言われていない。
ボクは音楽プレイヤーにつながれたイヤホンを耳につけて学園を後にした。
カイト・フラクトルの場合
「理不尽だ・・・・」
何が理不尽かと言うと、この世界観が理不尽だと思う。
リイドが学校にやってくるよりも早く、俺は二年生の玄関にやってきていた。 この日のために早起きして、わざわざやってきたのである。
寝ているイリアを起こさないようにしながらこっそりと学園に向かい、やっていることは後輩の下駄箱をあけているというちょっと犯罪ちっくな事だったが。
リイドの下駄箱を開けるとそこには早朝だというのに既にいくつかのチョコレートが入っているではないか!
まあ確かに顔はいいし成績優秀だしと言うか何をやっても人並み以上に出来るあいつがモテないほうがおかしいのだが・・・!
しかし主人公補正というのはいいものだ。 性格関係なく人気でるもんな。 まったくけしからんのでチョコレートは俺が頂戴することにした。
序にちょっと嫌がらせのためにリイドの上履きを逆さまにしておいてやった。
「そういえばこの世界観なのに上履きが存在するんだな・・・」
とか思いながら階段を上りリイドの教室へ向かう。
既に何名かの生徒が教室にはいたがそんなの関係ねえ。 リイドの机からチョコレートを引っ張り出す。
当然のように机にも入っているのが不思議だが、どうせあんな性格のリイドに直接渡すような勇気のある子はいないはずだ。 これでリイドがもらえるチョコレートはせいぜいガグラの一つくらいだろう。
「あっはっはっはっは! 我ながら天才的アイデアだぜ! ・・・・ん、なんか涙出てきたけどでもそんなの関係ねぇ」
両手にチョコレートを抱えたまま教室に戻る。 それを自分の鞄に突っ込んだ後、教室に送れてやってきたイリアと合流した。
そうしてしばらく時間が過ぎ、昼休み。
「カイト〜、これチョコレートね」
同じクラスである事もあり、教室中にチョコレートを配って回っているカグラに俺もおこぼれを頂く事になった。
というか別にカグラに貰ってもうれしくない。 面はいいが、面がよければいいというものでもないのだ。
「それにしてもカグラ・・・それ全員に渡すつもりなのか?」
「そうだよ? 関係者各位にね〜・・・生徒会長として、色々お世話になってるし」
それは権力の不正利用の口止めというのではないだろうか。
まあなんでもいい。 カグラに利用されている連中が少しでもコレで幸せになれるなら悪いこともないだろう。
で、結局俺は昼休み中リイドが貰うはずだったチョコレートを食いまくることになった。
時間は過ぎ去り放課後。 もうチョコレートは食いたくない・・・と思っていたところ、イリアに手を引かれ廊下の隅っこに連れて行かれる。
「カイト、チョコレートもらった・・・?」
「ん? いや・・・」 なんていえばいいんだろう? まあ確かにもらったような、もらってないような・・・。
「一個ももらえないんじゃ可愛そうだから、あたしも作ってきてあげたわよ。 ホラ」
と言いながらイリアが差し出すチョコレートの包み紙を見た瞬間、俺は両手でバッテンを作って首を横に振った。
「カンベンしてくれ・・・・(もうこれ以上)チョコレートは食いたくない・・・」
「・・・・(あたしが作った)チョコレートは食べられないっていうの!?」
「もう限界なんだ・・・・(色々な意味で)」
「・・・・・ば、バカーーーーーッ!!!!」
思いっきり顔面に向かってチョコレートを叩きつけられる。 しかも跳ね返ったそれを空中でキャッチしてイリアは走り去って行った。
なんでこんなことになったんだろう? もうわけがわからない。 バレンタインなんてこりごりだ・・・。
エアリオ・ウィリオの場合
「・・・・・・ハッピーバレンタイン」
とりあえず口にしてみたものの、何をするのかわからない。
イリアに訊いても教えてくれない。 でもとりあえずチョコレートをつくるってことはよくわかった。
テレビでやっていたからだ。 イリアは教えてくれないし、リイドはきっとこういうことは知らない気がする。
でもチョコレートなら普段から食べているので別段特別でもなんでもない気がする。
バレンタイン前日、ユカリに聞いてみることにした。
「エアリオは好きな男の子とかいないの?」
「いない」
「そ、即答ね・・・・・じゃあ普段お世話になっている人にチョコレートをあげたりすればいいと思うわ」
「なるほど」
しかも手作りのほうがいいとのことで、ユカリにレシピを教わってリイドに内緒で作ってやることにした。
「他にもカイト・・・ヴェクター・・・・ルドルフ・・・・・んん・・・結構いっぱいいる・・・」
でも、チョコレートをあげておけばあとで三倍になって帰ってくると聞いたので悪くはない。
早起きしてリイドが寝ているのを確認してからチョコレート作りを開始した。
始めての割には上手に出来たのだが、それを見ていたらだんだんおなかがすいてきて・・・。
「・・・・・いただきます」
もぐもぐ。
で、食べたらおなかいっぱいになって眠くなってきて・・・・。
「・・・・おやすみなさい」
眠ってしまった。
しばらくするとリイドがおきてきて制服に着替えて学校に向かって。
そうしてようやくチョコレートを自分が食べてしまった事実に気づく。
まずい事をしてしまったと思った。 なんだか怒られそうな気がしたので昼もリイドから逃げることにした。
しかし冷静に考えてみたらおかしいと思う。 お世話になっている人にチョコレートを送るなら、リイドもわたしにチョコをくれなきゃ変だ。
そんなわけで校門前で放課後に待ち伏せすることにした。 リイドは音楽プレイヤーの電源をオフにして苦笑する。
「そうだ、エアリオ」
「んっ?」
「チョコ、食べる?」
手に持ってあるいていたチョコレートをリイドがくれる。
それはきっと、たぶん、わたしにくれるために持っていたに違いない!
「食べる」
喜んでうけとろうではないか。
バレンタインというのも悪くはない。
それにしても片方は妙に形が悪い。 まるで何かに叩きつけたみたいだ。
なんにせよ食べてしまえばみんな同じだ。 わたしは包み紙を開けた。 すると、
『いつも素直になれなくてゴメン。 これからもパートナーとして仲良くしてね(はぁと)』
と、書いてあった。
なんだろうこれは。 リイドが書いたのだろうか。 それにしても可愛らしい文字だ。
「ん? 食べないの?」 リイドはいつもどおりだ。 別段変わったところはない。
「・・・・たべる」 だからわたしもできるだけ普段どおりを装った。
なんだかこんなことをされると少しどきどきしてしまう。 心臓の動悸が治まってくれるのを祈りながら口にするチョコの味。
それはなんというか、ヘタクソだったんだけれど、でもなんだか温かい味わいだった。
「おいしい」
「そう? ならいいけど・・・形変じゃなかった?」
「へたくそでもいい・・・感謝の気持ちが篭っていれば」
「そ、そうだね・・・・でもなんでそんな真剣な目でボクを見ているんだろう・・・」
リイドのやつは恥ずかしいのかわたしから目をそらしていた。 なにげに汗とかかいているようにみえるし。
しかし、そうなると三倍返ししなければならないらしい。 首をかしげながらチョコレートを飲み込む。
「三倍か・・・・」
こんな可愛らしいメッセージの三倍のメッセージなどわたしはちょっと恥ずかしくて出来そうになかった。
だからリイドの手をとって、寄り添いながら歩くことにした。
「え・・・・何・・・・何がおきてんの・・・・」
と、困惑するフリをするリイド。 わかっているくせにいじらしいやつだ。
今日はこのまま帰ることにしよう。 そうすればきっと、伝わるだろう。
この胸のどきどきも、温かさも。
「リイド・・・ハッピーバレンタイン」
「え・・・・あ、うん・・・・?」
おわり。