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ボクは覚えていない。 見渡す限りの花畑。 どこまでも広がる幻想的な景色。

目に映る物全てが蒼と白に彩られ、何もかもがやわらかく涼しく爽やかだった。

耳に聞こえるのは誰かが演奏しているヴァイオリンの音。 眠気を誘い、少しだけ気だるさを齎す。

何もかも、全身から力を抜いて眠りについてしまいたい――。


得られる物全てや、失くした物全てに、ボクは何かを返す事が出来るのだろうか。


白い、白い景色。 何もかもが美しく、儚く、雄大で、全てが、ボクのためにあるような。

ああ、だったらまるでここはボクという一つの世界のようだ。 何もかもがボクの指先、爪先、あるいは頭の天辺から繋がっているボクという感覚の延長。

全てのものは愛すべき己であり、憎むべき己だった。

今はもう全て遠い出来事のようだ。 何もかもが遅く、しかしそれでもかまわない。

気づけた時、世界は開ける。 それがどんなに暗く寒く血に塗れた場所だったとしても。

それを教えてもらえたボクは、それを知ることが出来たボクは……やはり幸せなんだろう。


ああ、何もかもが見えない。




世界ボクは真っ白になったのか……?






「目が覚めた?」


誰かの優しい声にふと瞳を開く。

先ほどまでの景色はどこへやら、そこは地獄のような場所に変わり果てていた。

全ての命が燃え尽き灰燼に帰す。 瓦礫と朽ち果てた命の残骸が無残に転がる大地。

いや、ここは大地なのだろうか? 雲があまりに近く、あまりに太陽が近い。

彼女、名前も思い出せない彼女はボクを抱きかかえながら穏やかに微笑んでいる。

胸の辺りがやけに苦しい。 自分の体を目で追ってようやくこれからボクがどうなるのか理解する。

全身血まみれ。 それは紛れも無くボク自身の血液に他ならない。 つまりは死に体。

いずれはこのかすかな感覚すら無へと消え去り、彼女の中のボクもまた思い出に変わる。

何もわからないというのに心だけは妙に安らかで、まるで既にボクの命は失われていてとっくの昔に幽霊かなにかになっていて、心だけここに浮いているような感覚。

何せよ体の感覚はないのだから仕方ない。 痛みもなければ、ぬくもりも無い。

酷く寒いということだけが理解できる。 それを少しでも和らげようと彼女は体を寄せる。

ああ、どうやら彼女は怪我をしなかったらしい。 それは何よりだ。 それは幸いだ。 だったらいい。 ボクはいい。 死んでも、いい。 彼女が無事なら、きっとボクの人生には何か意味が残るんだ。 だからいい。 大丈夫だ。


「ありがとう、ありがとうね……きみのおかげ。 きみはやり遂げたんだよ。 きみは勝ったんだよ」


指差すその先には何か――そう、巨大な人のようなものが膝を付いていた。

巨大な鋼の翼は今は朽ち果て、その全身から血液を零しながら、命尽きてそこで死んでいた。

ボクがアレに勝ったのだろうか? なんだかもうよくわからない。 何もかも、わからない。

意識が薄れていく。 何も判らなくなる。 風が気持ちいい。 最後はこんなでも、かまわない。


「ありがとう、ありがとう、ありがとう……きみのことが大好きだったよ――」


誰かの腕の中で死んでいけるのならば、それはきっと幸せだ。

それがもし恋する人や愛する人であったのであれば、それはきっとこの上なく。

だからボクはここで死のう。

いつかまたこの夢の続きを見るために。



そう、だから、いつかそんな世界は終わるんだって信じていた。



全てが蒼と白に埋め尽くされている。


まぶしい太陽の下、ボクはそれに手を翳した。

光が嫌いなわけじゃない。 ただ、全てを容赦なく照らし出すのは無作法だとは思うけれど。

ため息をついて歩き出す。 世界は今日明日に終わったりなんかしない。 だからボクの命も終わったりなんかしないし、いつまでもそれは続いていく。

とりあえずはそんな毎日が続くのだと思っていた。 信じていたのかもしれない。

けれど望んでいた。 世界はもっとスリリングでもっとボクに相応しく在るべきなんだって。

けどそんなこと誰にも言えないし誰も知らない。 でもきっとみんなそうなんだろうと思っていた。

だから下らない毎日を繰り返す。 そうしていつか来るはずの予想通りの未来を待っているんだ。

そんなものが来ないということも、それがただの蒼い幻想に過ぎないということも、


まだボクたちは、わからないのだから。



霧のように薄く広がる雲。

幻想的な景色の中、ボクは隠れてしまった太陽に一瞥をくれる。

いつまでもそれがそこにあるとボクは知っているのだから。


「おい、何チンタラ歩いてんだよ」


背後から突き飛ばされ無様に転んだ。

誰が突き飛ばしたかには興味がない。 「そいつら」は勝手に笑い声を上げながら去っていく。

耳にしたヘッドフォンから流れるクラッシックの音量を引き上げる。

仰向きに寝転がると、太陽はまた雲の隙間からボクを照らし出していた。


「――――行こう。 こんなところにいても、なんにもならない」


埃を払って歩き出す。


全てが無価値、無意味、無意義、それでもボクは生きている。 生きている限りは何かしなくてはならない。

そんな当たり前で単純なことの何と苦痛なことか。


青空に響き渡る警報。

町を貫き空へと舞い上るその塔の中を何かが瞬時に通過していく。

空を目指して投げ出されるそれはまるで引き絞られた矢のようであり、

同時に何か途方も無いものを目指す人の夢の形のようにも見えた。


「レーヴァテイン、か」


ボクらの町には、ロボットがいる。

全長40メートルの巨大な人型兵器。

操っているのはボクと同年代の学生で、そいつは人類の敵と戦っている。

それはボクらにとっては当たり前の景色であり、関係の無い世界でもあった。

だからボクはヘッドフォンに集中する。 何もかもから自分という世界を閉ざしてしまうために。

だって、ボクには関係のない話で。 きっと、主人公はボクではない誰かで。 だから、ボクは――。



ボクらの町にはロボットがいる。


天空に広がる要塞都市ヴァルハラ。


ボクはそんな、世界で最も平和な場所で暮らしていた。





少なくとも、ボクにとっては。





霹靂のレーヴァテイン





「はじまるよ」


誰かの声が聞こえて振り返った。

誰も居ない町の中、静かに風が吹きぬけ、ボクの髪を揺らした。


始めましての方も、前に読んだよという方もこんにちは。 神宮寺飛鳥です。

さて、この霹靂のレーヴァテインですが、続編の方が大分進んで後半に差し掛かるにあたり、加筆修正を開始しました。

これから読んでやろうかなという方も、前読んだけどひどかったなあという人も、温かく見守って欲しいと思います。


それでは霹靂のレーヴァテイン、よろしく御願いいたします。


かしこ。

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