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制限時間 - タイムリミット -  作者: 八神
Scene 2 【小鳥遊姉妹の恋愛事情】
8/8

S2-4



- 4 -




【12月13日】




さて、今日は火曜日だ。


昨日は仕事が忙しくて行けなかったので

仕事終わりに一回家に帰り、着替えてから。

今日こそ病院に行こうと思う。



うん、そう思ったのだけど。



「なんで君がここにいるんだい?」

「え?」

「いやだから、なんで君がここにいるんだい?」

「なんでって迎えに来たんだけど?」

少女は普通にそう言ってみせた。


「一応君、病人だよね?」

「大丈夫、お父さんの許可は得てあるから」

「そういう問題じゃねーよ。

 ったく、そもそもなんでここが分かったんだ?」

ここは俺の家の前。

いや、正確には叔母さんの家というべきなのか?


なんでここに燐が居るんだよ。


「前風邪でうちに来たでしょ? その時のカルテを…」

「ああ、分かった分かった。盗み見たわけだな?」

「違うよ、普通にお父さんにお願いしたの。

 “この前いらしてた男性の財布を拾って、

 その時に大変好くしてもらったので

 お礼を兼ねてこの財布を届けたいのです~”って」


それ、いろいろ詐欺だろ。

つか、それで個人情報教えんなよ。大丈夫なのか?あの病院。

そのうち訴訟問題になるぞ。


「はぁ・・・」

大きな溜息をひとつ。

まぁ、来てしまったものは仕方ない。

「つか、来るならメールくらいよこせよ」

「したよ? でも全然返事来ないんだもん」

「マジか?」


携帯を開いてみる。

【着信:3件 新着メール:10件】

全て燐からだった。


「いや、10通とか送りすぎだろ。」

「返事なかったもん、そりゃ何回も送るよ」

「こっちは仕事で忙しいんだよ・・・」

「はいはい、大人の言い分だね。乙♪」


こいつ・・・ムカツク・・・。

乙♪ じゃないって。


「君も大人になってみれば分かるって」

「・・・大人、ね。なれればね・・・」

小さく、聞こえないくらいの声で呟く。

「何か言ったか?」小さすぎて何を言ってるのか聞こえなかった。

「別に? 何も言ってないけど?」

「そうか、それならいいんだが」


「つか、なんでここに?」

改めて問う。そもそも何故ここに来たのか。


「迎えに来たんだよ。さっきも言ったけど。」

「迎えって、別に頼んでないぞ?」

「頼まれてなきゃ来ちゃダメなの?」

「いや、ダメってことはないが。

 一応俺も男なんだし、迂闊にこういうことしたらダメだって」

「何? 淳くんイヤらしいことでも考えてたの?」


ニヤニヤしながら聞いてくる。

こいつ・・・からかってやがるな。


「いや、燐みたいなお子様には興味ないしな」

「なにそれ~、可愛くない」

「可愛くなくて結構。俺はカッコいい路線を目指してるんだ」

「あははは、何それ~っ。おかしい~。」

笑われてしまった。


「・・・あたしが来たかったから来たんだよ」

一頻り笑った後、そう言って微笑んだ。

「迷惑ならやめるけど・・・」

「いや、迷惑ってわけじゃない。」

「ならこれからも来てもいい?」


「来てもいいが、条件がある。」

「条件?」

「まず一つ。

 俺が病院行く日にメールするからその日だけ来てくれ。」

「分かった」

「二つ。

 燐が体調悪い日は俺が病院に行く日でも無理はしないでくれ。」

「あたしの身体のこと、心配してくれるの?」

「当たり前だろ?

 燐は俺の、そして何より鈴の大事な友達なんだからさ」


「あ、ありがとう」

照れたのか、赤くなって俯く。


ドキっ・・・。

くそ、可愛いな。


「んで、ここまでどうやって来たんだ?」

「普通に歩いてきたけど?」

「普通って・・・ダメだよ一応病人だろ?」

「分かってるよ、今日は体調良かったから来れたの。

 淳くんの言うとおり、体調悪い日は無理はしない。」

言って微笑む。


「じゃあ、行くか」

「うん」

俺達は肩を並べて病院へと向かって歩き出した。



・・・。


その途中だ。

病院のちょっと手前にある小さな商店街。

ふと、燐が立ち止まった。

「どうした?」

と俺が問うと。

「ううん、なんでもない」

そうは言うものの、目線は真っ直ぐにとある場所を見つめていた。


『パパ、今日はカレーがいい』

『よし、じゃあ由紀が好きなカレーにしような』

『やった~』


そんな他愛のない話をしながら親子が俺達の横を通り過ぎていく。


「・・・」それをじっと目で追う。


「燐?」

「あ、ごめん。何?」

「いや、なんかボーっとしてたから。」

「ごめん、ちょっとね」

苦笑いする燐。


「さっきの親子見てたみたいだけど、知り合いかなんか?」

「ううん、全然知らない人。」

「そうなのか?」

「うん、知らない人」

「じゃあ、なんであんなに見つめてたんだ?」

「・・・」

表情を曇らせる燐。


「言いたくないなら、聞かないけど」

「・・・そういうわけじゃないよ。

 ただここじゃあれだし、ちょっと座っていかない?」

そう言うと燐は近くにあるベンチを指差した。



よいしょ。

ベンチに腰掛ける。

その横にちょこんと燐も座る。


「あたしね、お父さんと遊んだりした記憶がないんだ」

冬の、少し淀んだ空を見上げながら燐は言った。


「お父さんと?」

「そう、お父さんはずっと仕事仕事でね。

 言葉遣いも厳しいし、家では本当に窮屈に最近は感じてる。

 まぁ、今は病院に居るんだから関係ないけど」

そう言って苦笑いすると、こう続ける。


「厳しい人だから、遊びとかもしないし。

 ずっと仕事の事ばかり話すし。あたしの言うこと聞いてくれないし。

 本当にあたしのこと愛してるのか、たまに分からなくなる。」


「・・・」

そうか、厳格な父親なわけだな。


「あたしが病院に入ってから、尚更話さなくなって。

 もう、お父さんは何を考えてるのかも分からない。」

「お母さんは?今はどうしてるの?」

「お母さんは、死んじゃった。」

「え・・?」


「お母さんはね、あたしを妊娠した時、癌だったの。

 あたしを身篭ってからそれが分かって。

 お父さんや周りは“おろせ”って言ってたみたいなんだけど。

 お母さんはこう言ったらしいの。『私はこの子を産むわ』って。」


「それでお母さんは・・・」


「馬鹿だよね、あたしが居るから下手な薬も使えなくて。

 あたしさえ“おろせ”ば

 お母さんはもしかしたらまだ生きてたかもしれないのに。

 結局、あたしを産んで少しして癌が進行しすぎてもう手遅れ。

 その一ヵ月後に、亡くなった。」


「・・・」


「全部お父さんから聞いたこと。

 あたしは産まれたてだった頃、全然覚えてないんだけど。

 でも、それが本当だとしたら。お母さんはあたしが殺した

 みたいなものだから・・・」


「いや、そんなことないよ」


虚ろ気な瞳を俺に向ける燐。

なんで、そんな悲しいこと言うんだよ。


「だから、あたしがお父さんに恨まれて当然。

 嫌われて当然なんだよ。

 だから遊んでもくれないし、厳しい事ばかり・・・」


「それは、違う」

俺は燐の瞳を真っ直ぐ見つめる。


「え・・?」

「燐のお母さんは、そんな風に思ってないと思う」

「どうして・・・?」


「だって、燐のお母さんが自分で決めたことだ。

 自分の命が危なくても、君を産みたかったんだ。

 そして、その選択をしたお母さんを、お父さんは止めなかった。

 きっと、お母さんの選択を尊重したからだ」


「・・・」


「俺にはよく分からない。子供もいないし、燐のような境遇もない。

 でも、きっと子供の事を憎んでる親なんていないよ。

 燐のこと、きっと愛してると思う。

 愛してるから厳しくもするし、ちゃんとここまで育てたんだ」

「・・・そうなのかな」

俯き、静かに涙を流す。


「あたし、お父さんに憎まれてないのかな・・・?

 あたしのせいでお母さんは死んだんじゃないのかな・・・?」

「難しいことは分からない。でも俺が燐のお母さんならきっと

 『生きててくれてありがとう』って思う。

 自分が命をかけてやったことは無駄じゃなかったって。

 きっと胸を張って言える。」

「・・・」


「大丈夫だ、そんな顔するな」

そっと頭を撫でてやる。

俺の言ってることは、合ってるのだろうか?

偽善? そうかもしれない。

何も分からないのに偉そうかもしれない。

でも、こんな悲しい顔をしている女の子を放ってはおけない。


「あはは・・・何それ、根拠ないのによくそんな事・・・」

ボロボロと、俯いた頬から涙が伝う。

「燐・・・」

「ごめん、もうちょっとだけ泣かせて・・・」

「・・・分かった」


・・・・・・。


・・・。



「もう平気か?」

「うん。やっぱり、淳くんは優しいね」

一頻り泣いた後、燐は顔を上げた。

「優しくはないよ。」

「ううん、優しいよ」

「そうか?」

「うん、すずちんが受け入れたのも分かるよ」

「そうか」

なんか、面と向かって言われると照れるな。


「ごめん、なんか暗い話したね」

あはは、と苦笑いする。

「いや、大丈夫だよ」

謝ることなんかない、むしろ燐の事知ることが出来たから。

俺的には良かった。


「さぁ、すずちんが待ってるから。早く病院行こう!」

「分かった、分かったから袖を引っ張るなぁ」

燐に服の袖を引っ張られながら病院に向かって歩く。

良かった、もうすっかりいつもの燐に戻っている。



さて、今日も鈴と燐と、楽しい時間を過ごそう。





-------------------------------------------------------


オレンジ色の光が部屋を満たしている。

私は近くにある椅子に残った温もりを手で撫でていた。

あはは、なんで私こんなことをしてるんだろう?



「・・・?」


病室の前に誰か立っている。

気配がした方向に向かって進む。

するといきなりドアが開いた。


「?!」びっくりして後ろに倒れそうになるのを

バランス感覚でなんとか回避する。

「あら、鈴蘭。起きて平気なの?」

そこに居たのはお姉ちゃんだった。


「お姉ちゃん、どうしたの?」

「ちょっと様子を見に来たのよ」

「ならノックくらいしてよ」

「あら、ごめんごめん。

 淳くんは今日は来たの?」

「今さっきまで居たよ。」

「そう、帰っちゃったの?」

「うん・・・」


自分でも分かる。

淳が居なくなると寂しい。

そして何よりもあの二人が仲がいいと思うと胸が痛くなる。

そして顔に出てしまう。


「・・・」

お姉ちゃんはそんな私を見てこう言った。


「あなた、もしかして淳くんのこと好きになってないよね?」

「え?」

「好きになってないのよね?」

「なってない、よ」

変な間が空いてしまう。


「・・・ダメよ」

溜息をついたお姉ちゃんが私を見つめる。

「好きになったらダメよ。あなたは、ダメ。」

「だから、なってないってば」

「本当に?」

ジトリと疑いの眼差しを向ける。


「本当だよ。」

「そう?」

「うん」

「・・・なら、いいわ」


少しの間を後に、お姉ちゃんはこう続けた。

「分かってると思うけど

 あなたは人を好きになってはいけないんだからね」

「分かってるっ・・・」

「あなたは・・・」

「分かってるから!!」

つい、怒鳴ってしまう。

「友達として、仲良くなるのは結構よ。でもそれ以上は。」

「分かってるってば!! もう出てってよ!!」

なんか悲しい、涙が出てきた。


「分かったわよ、今日はそれを言いに来ただけだから。」

「・・・」

「あ、そうそう。言い忘れてたけど」

「今度は、なによ・・・?」


「淳くんね」


お姉ちゃんは、私を真っ直ぐ見つめて言った。




「好きな人、いるみたいよ」



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