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制限時間 - タイムリミット -  作者: 八神
Scene 1 【あなたとは、違うんです】
4/8

S1-4


「鈴、起きてるか?」

「・・・・・・」


鈴の病室のドアをコンコンと軽くノックする。

しかし、中からの応答はない。


「あの、俺だけど。淳だけど」

「・・・・・・」

やっぱり返事がない。

寝てるのかな? それとも、さっきの事を気にしてわざと無視しているのか。

いや、それはそれで仕方ないことなのかもしれない。

初対面の人に、あんなこと言われてきっと変に思っただろう。


「ごめん、鈴。」

仕方ないので、ドア越しに話すことにする。

少しでも、中に居る鈴に届くことを祈って。


「えと、傷つけるつもりはなかったんだ。

 でも、俺は鈴に諦めてほしくなかった、いろんなことを」

「・・・」

「君の病気のことも、君の気持ちも、俺は全然分かってないと思う。

 会ったばかりなんだから、仕方ないことかもしれないけど。

 それでも、俺は一つだけ分かったこと、確信したことがある。」

「・・・・・・」


「俺は、君の笑顔が…好きだ。」

ガサッ と部屋の中で何かが動いた音がした。

それでも俺は構わず続けた。


「初めて見たときから、ずっと考えてた。 素敵な笑顔だって。

 本当だよ、こればっかりは信じてほしいんだけど。

 君の、鈴の笑顔が俺は大好きだ」

我ながら、恥ずかしいことを話してるなと思う。

しかも、病室の前で。 誰かに聞かれてたらすごい赤っ恥だな。


「だから・・・その・・・俺のこと、嫌いになったならそれでもいい。

 でもさ、君にもきちんと良い所があってそれを見てくれてる人が居るんだ

 て事を覚えててほしいんだ。」

「・・・・・・」


「少なくとも、俺は鈴をもっと見たいと思ったし。

 仲良くなりたいとも思ったんだ、だから…なんとなく今日は

 君に会いに来たんだ。」


本当、病室の前で何やってんだろな。


「鈴、迷惑ならもう来ない」

ガタッ、また部屋の中で物音がした。


「ただ、色々諦めないでほしい。 その素敵な笑顔を、もっと沢山の

 人に見せてほしい。 きっと、鈴の事好いてくれると思う。

 …じゃ、色々ごめんね。 さよなら、鈴」


言い終わると、目を閉じ。 なんだか感傷に浸る俺。

はぁ、なんだろな。 諦めんなって言ってる俺が

鈴と関わるのを諦めてるような。


ごめん、琴乃。 お願いされたけど、なんか俺このまま

居なくなった方が良い気がする。



「・・・・・・」 目を開けて、ドアに背を向けた。


その時だった。










- 4 -






・・・背中に微かに体温を感じた。

小刻みに震えていて、とても弱々しい温度だ。

そしてほのかに感じる、女の子特有の香りが鼻腔をくすぐる。


「・・・鈴?」

首を後ろに回して、俺の背中に抱きついている女の子に視線を向けた。

「・・・」

鈴は物を言わず、ただ小刻みに震えながら俺に抱きついている。


「鈴、どうしたんだ? まさか、どこか痛いのか?」

「・・・・・・」鈴は無言のまま、抱擁を解くと俺の手を引いて

部屋の中に強引に入れた。


俯き、ドアを閉めるとそのまま今度は胸に飛び込んでくる。



「鈴・・・?」

訳が分からず、俺は鈴の名前を呼ぶ。

「どうして?」

小さく、搾り出すように呟いた鈴。


「え・・・?」

「どうして、そんなこと言うの・・・?」

「そんなことって・・・」

「私、あなたに酷い事言ったのに…嫌われてもおかしくないこと言ったのに・・・」

「いいや、あれは俺が悪いんだ。 鈴の事何も分かってないくせに

 偉そうなこと言ったから、むしろ嫌われるのは俺の方だと思うけど。」

「・・・」 鈴は俺の胸に顔を埋めたまま、フルフルと首を静かに横に振った。


「ごめん、鈴」 そっと、鈴の頭を撫でてやる。


「優しい、優しくて、つい甘えたくなっちゃう…」

ボソっと呟いた。


「甘えてもいいよ、頼りないかもしれないけど。

 さっき言ったことは本当だよ、仲良くなりたいと思ってた」

「私もね・・・」

鈴は顔を上げて俺の瞳を真っ直ぐに見つめてきた。

「私も、あなたと・・・淳と仲良くしたいと思った。」

「うん」

「でもね、怖いの」


微かに、鈴の体が震えている。


「鈴・・・?」

「ううん・・・なんでもない」 再び首を静かに横に振った。


「ねぇ、淳。」

「ん? なんだ?」

「私と、“友達”になってくれる?」

「ん? 俺と?」

「うん、長い間病院に居たから友達居ないんだよね・・・」

鈴は苦笑いした。


長い間、それに友達が出来ない。

そんな状況で、彼女はどんな気持ちで、

どれだけの時間を過ごしてきたのだろう。

辛くても、きっと話す相手もあまり居なかっただろうし。

友達になることで、少しでも鈴の力になれるのだったら。

俺にその申し出を断る選択肢はなかった。


「もちろん、ていうか俺はもう友達だと思ってたんだけど」

そう言って、ニカっと笑ってやる。

「よかった・・・」 鈴はホっとしたように表情を綻ばせた。


「つかさ、鈴」

「なに?」

「いつまで抱きついているのかな?」

からかうように、わざとニヤつきながら言ってやる。



「・・・あっ!」

ハっとなったように、鈴は顔を真っ赤にして俺から離れた。

「あっはは、かわいいやつ」

「う、うるさい!」 真っ赤な顔で鈴はそっぽを向いた。


あはは、本当に可愛いやつだな。


病気が治る? あの時の鈴の言葉が、実はずっと引っかかっていた。

そんなに重い病気なんだろうか。


でも・・・。


今は色々知るには早いだろうし、聞くのもマナー違反だろう。

きっと、そのうち、鈴の口から話してくれるだろう。

様々な事を。 それまでは、このままで。

気軽に話せる友達で。









* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *




「ふぅ・・・心配することもなかったわね」



病室のドアの隙間から、二人の姿を見て安堵に似た息をもらす。

心配で、後をこっそりついてきたのは、もちろん内緒である。



「にしても・・・淳さんか・・・本当に不思議な人」


鈴蘭の拒絶は、これが初めてではなかった。

これまでも何回か、あの娘と仲良くしたいと言ってくれた人が居た。

でも、あの娘は必ず最初は拒絶する。


そしてその拒絶で、大抵の人は諦めて去っていく。

いや、諦めているのか。 それとも面倒くさくなって破棄したのか…。



とにかく、拒絶されても、自分の忠告を聞いても尚

あの娘と仲良くしたいと思ってくれるなんて。





――でも、きっと結末は変わらない。





淳さんには悪いけど、鈴蘭の為にあなたを利用させてもらう。


鈴蘭には、希望が必要なのよ。 そう、あなたみたいな人が。




* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *




 


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