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無能扱いの底辺ギルドマスター、助けた仲間がなぜか全員最強になっていく  作者: 甲賀流


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ロイドの指揮力


「今から俺が指揮をとる。ちゃんと聞いとけよ!」


 広間のど真ん中でそう言うと、フィオナとリーゼの動きがほんの一瞬だけ止まった。


 その一瞬で十分だった。


 俺は前を見る。


 崩れた床。


 左右の壁穴。


 天井の裂け目。


 飛び回る小型魔物の群れ。


 床の下から這い出しかけている大きな影。


 全部面倒くさい。


 だが面倒くさいだけで、分からないわけじゃない。


「フィオナ、右壁」


「はい!」


「三歩で入れ。四歩目で足場が落ちる」


 言い切るより早く、フィオナが走る。


 速い。


 だが今度は、さっきみたいに一直線じゃない。


 俺の言葉どおり、三歩で止まる。


 その瞬間、さっきまでいた位置の床がごっそり沈んだ。


 フィオナの目がわずかに見開く。


「そのまま右の二体を切れ。前に出るな」


「はい!」


 短剣が閃く。


 右の壁穴から飛び出したグレイガルが、一体、二体と崩れる。


 無駄がない。


 というか、無駄がなさすぎる。


「リーゼ、左穴ごと焼け」


「左穴ごと、ですか」


「通路側には流すな。上に逃がせ」


「できます」


 即答だった。


 リーゼの指先に集まった火が、今度は広がらない。


 ひとつの線になる。


 左壁の穴、その奥だけを舐めるように走って、そこに潜んでいた気配ごと焼き払った。


 悲鳴が遅れて響く。


「……すご」


 魔法の威力に思わずそう呟きかけて、やめる。


 今はそれどころじゃない。


「上の群れは無視でいい」


「無視でいいんですか?」


「いい。あいつらよりも先に、目の前の大物を倒す」


 俺は剣を握り直す。


 通路の奥から勢いよく、


 来る。


 ドガンッ――


 あまりの大きさに通路が割れた。


 前脚の長い大型魔物だ。


 牙がある。


 脚も長い。


 しかも視線が低い。


 ああいうのは、最初の一撃が妙に速い。


 フィオナが左へ跳ぶ。


 その鼻先を、爪が空振った。


「リーゼ、目を焼け!」


「はい!」


 火球が飛ぶ。


 今度は大きくない。


 小さく、細い。


 だが、その分だけ鋭い。


 大型魔物の右目に火が刺さる。


 咆哮。


 頭が跳ねる。


「今だ、フィオナ!」


 フィオナが踏み込む。


 短剣が首元に入る。


 一撃じゃ足りない。


 分かっている。


 二撃目。


 三撃目。


 血が飛ぶ。


 そこでようやく巨体が傾き、倒れる。


「上が来るぞ!」


 飛行型の群れが、一気に高度を落としてきた。


 狙いは散っている。


 フィオナ、リーゼ、俺。


 三方向。


 このまま各個に対処すると、また崩れる。


「全員、動くな!」


 自分でも驚くくらい声が通った。


 二人が止まる。


 本当に止まる。


 そこに少しだけ、胸の奥が熱くなる。


「リーゼ、正面だけ焼け。左右は残せ」


「左右を残す理由は?」


「羽音が壁で散る。正面だけ空けば、習性上残った奴らが自然と中央に集まるはず」


「……なるほど」


 虫型は群れる個体だとすぐ理解する。


 リーゼの火線が正面だけを薙ぐ。


 そして事実、飛行型が左右から中央へ寄った。


「フィオナ、まとめて落とせ」


「はい!」


 フィオナが跳んだ。


 短剣の軌跡が、もう見えない。


 中央へ寄った群れだけを正確に刻んで、まとめて叩き落とす。


 最後の一体が、俺の肩口を狙って飛んできた。


 それだけは自分で斬る。


 軽い。


 浅い。


 だが十分だ。


 床に落ちる。


 ようやく、ほんの少しだけ静かになった。


「……はぁ」


 息を吐く。


 まだ終わってはいない。


 だが、一番面倒な山は越えた。


 フィオナがこっちを見る。


「ロイドさん、怪我は」


「ない」


 ない、は少し言いすぎか。


 細かいのはある。


 だが今言うことでもない。


 リーゼは大型魔物の死骸と壁穴を交互に見ていた。


 その目が、妙に真剣だ。


 というか、ちょっと怖い。


「……ロイドさん」


「なんだ」


「今の判断、全て合理的でした」


「そうか」


「しかも、私が考えるより速かったです」


「そうか」


「フィオナさんの突撃傾向まで織り込んでいました」


「そこまで分析しなくていいって」


 だが内心では少しだけ妙な感覚があった。


 久々だった。


 いや、ほんとに久々だ。


 誰かに指示を出して、その通りに戦場が動く感覚。


 昔も、こういうことはあった。


 まだギルドに人がいた頃。


 右に回れ。


 そこは捨てろ。


 一歩引け。


 今なら通る。


 俺には見えていた。


 そうした方が、生き残れる。


 そんな生き物としての生存本能が、人よりも強く働いている自覚はあった。


 たぶん、ほとんどは正しい判断だった。


 でも続かなかった。


 きつい、とは言われた。


 そこまで求めるな、とも。


 言葉にされないこともあったが、顔を見ればだいたい分かった。


 俺は無茶を言ってるつもりはなかった。


 本気でやれば届くと思っていた。


 だけど違った。


 みんなにとっては、それが負担だった。


 だから俺は、自分には才能がないんだと思った。


 剣も駄目。


 魔法も駄目。


 人を引っ張るのも駄目。


 そういう人間なんだと、わりと本気で思っていた。


 なのに。


「ロイドさん」


 フィオナが言う。


「次は、どこを見ればいいですか」


 まっすぐだった。


 迷いがない。


 リーゼも、眼鏡の奥の目でこっちを見ている。


「私はどうすればいいですか」


 こっちもだ。


 少しも遅れない。


 しかも、こっちの言葉をそのまま受け取るだけじゃない。


 ちゃんと噛み砕いて、自分の動きに変えている。


 コイツらはついてきてくれた。


 いや、ついてくるどころか想定より速い。


 胸の奥が少しだけ高揚する。


 久々だった。


 自分の見えている景色を、そのまま他人と共有できる感覚。


 指示が通る。


 動きが返る。


 噛み合う。


 それが、どうしようもなく気持ちよかった。


 ……いや、違うな。


 気持ちいいとか言うと、俺までリーゼ寄りになるからやめよう。


「ロイドさん?」


「……いや、なんでもない」


 咳払いをひとつ。


「行くぞ。指定地点までもう少しだ」


「はい」


「分かりました」


 それから先は、早かった。


 俺が後方から判断し、


 フィオナが斬る。


 リーゼが燃やす。


 その繰り返しで、第七層の面倒な罠と魔物が、不思議なくらい綺麗にほどけていった。


 そしてリーゼが移動の合間に手帳へ何かを書き込んでいた。


 ちらりと見えた。


【ロイド指示下の戦闘効率:単独比+47%(暫定)】


「何書いてんだお前」


「事実をここに残してるんです」


「そうかよ」


 結局、採掘場跡までは予想よりずっと早く着いた。


 鉄鉱石を三つ。


 課題分を確保する。


 これにて、ギルドランク昇格審査は無事終わりを迎えた。

 


* * *

 


「ロイドさん、合格できましたね!」


 帰り道。


 フィオナが当然みたいに俺の隣を歩きながら、少しだけ嬉しそうに言った。


 少しだけ、ではないな。


 なぜかやたらと近い。


 いや、いつも近いんだが、今日はそのいつもをさらに更新してきている。


 腕が当たるとか、肩が触れるとか、そういう次元じゃない。


 ほぼくっついてる。


「……おい、近くないか」


「そうですか?」


 そうですか、じゃないんだよ。


 明らかに近い。


 前より異常に近い。


 しかも本人は一切悪びれていない。


 リーゼも横で手帳に何か書き込んでいた。


 その筆が妙に速い。


 しかも、なんかちょっと嬉しそうだ。


 表情はいつも通り薄いんだが、分かる。


 こう、目の奥が妙に活き活きしてるというか、面白い玩具を見つけた子供みたいな顔をしている。


「第七層踏破、課題品回収、審査通過率を考えるとかなり優秀です」


「お前、やけに機嫌いいな」


「はい。非常に有意義でした。特に今日は被検t……じゃなくて、ロイドさんのことをよく知れましたし」


「ねぇ、マジで俺のこと、被検体だって思ってんの? 怖いんだけど」


 なんなんだこいつら。


 元々ちょっと変だったが、今日はさらに変だ。


 フィオナはベタベタくっついてくるし、リーゼは数値化しながら妙に嬉しそうだし。


 なんだこれ。


 ダンジョンで疲れてるせいか?


 もしくは戦いの直後で、脳汁が出まくってるとか?


 そうだ、きっとそんな感じに違いない。


 そういうことにしておこう。


「ロイドさん、今日はちゃんと休んでください」


「その前に、戦闘中の判断記録を整理したいのですが」


「今日くらいは休ませてくれ」


 変人二人を適当にあしらいながら、俺は何気なく二人の頭上を見る。


 そこで、少しだけ目を細めた。


【戦闘適性:S → S+】

【敏捷:B → A】


【副作用:執着増加 ↑】


 フィオナ。


 さらに横。


【魔力:S → S+】

【魔法適性:火炎A → A+】


【副作用:知的好奇心 極端化 ↑】


 リーゼ。


「……んん?」


 思わず声が漏れる。


 戦闘適性、敏捷も魔力も上がってる。


 ついでに、副作用のところ。

 なんか上矢印がついてんだけど。


 いや、待て。


 つまりあれか。


 強くなるごとに、副作用も一緒に強くなりますってことか。


 なんだそのトンデモ能力。


「……マジで勘弁してくれよ」


 俺は思わずため息を吐いたのだった。


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