表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/8

6.前例

人形系の話しです。

苦手な方はご注意ください。


 やあ、君。久しぶり。

 かれこれ卒業以来だね。最近はどうだい?

 ああ、そうか、やはりお互い色々あったみたいだね。何と言ってもかれこれ五年ほども経っているのだから。まあ、今日はせっかくだからゆっくりと駄弁ろうじゃないか。ここは僕の行きつけだ。

 コーヒーでも頼もうか。ミルクは?うん、僕もいらないよ。

 じゃあホットを二つ頼む。

 

 ……ところで、君は『赤帽の小人像』って代物を知っているかい?

 そうか、知らないか。

 巷でどうも噂になっているらしくてね。僕も最近人からきいて知ったんだ。

 それはいわゆる持ち主になった人を呪う像なんだそうだ。

 はは、そうだな。よくある話しだと思うだろう。

 でも、それがもし本当の現実で起こることだったらおっかないと思わないか?

 思わない。そうか。なぜなら、そんな呪い現実にあるはず無いからとまで言う。

 君は本当に相変わらずだな。

 それでも生憎、でっち上げの作り話でも遠い昔の物語でもなく本当のことらしいんだよ。まあ、君が信じないことは目に見えている。だから信じろとは言わないさ。聞いた実例というのも所詮は噂であり噂でしかないのだからね。

 ……コーヒーはまだこなさそうだね。今日はやけに混んでるな……ああ、互いの近状報告はコーヒーが来てからするとしよう。ここで一つ暇潰しがてら、例の小人像についての話をしてもいいかい?ああ、ありがとう。

 『赤帽子の小人像』なんでもそれは持ち主となった者を呪い殺すらしい。そして今世まで質屋や骨董品屋に売られてきたり、直接持ち主から次の持ち主へと譲り受けられたりして人々の間を転々と回ってきたそうだ。実はね、僕の遠い親戚にも昔その小人像が回ってきんだ……いや、本当のことだよ。ああ待って、親戚を勝手に呪い殺されては困るよ……親戚は呪われなかったんだよ。

 いや、ならでっち上げの話しというわけではないんだ。

 いいかい、『赤帽子の小人像』それの呪いを回避する方法を用いて僕の親戚も含め、歴代の持ち主達は呪いから免れてきたんだ。だから歴代の持ち主には今のところ呪いが原因で亡くなった者は初代の持ち主以来いないというわけだよ。皮肉にもそのため小人像自体も壊れることなくすっかり御存命なんだけどね。

 ああ、その回避方法が知りたいか。分かったよ。

 簡単なことさ。

 もし、例の像が回ってきたとして、どんな些細なことでも変なことが起こり始めたら、すぐに他の人へ所有権を譲ることだ。売ってしまっても良い。そうだな、君がひとりなら例えば、使っていないはずのコップがテーブルの上に出ていたりだとか、扉がひとりでに開いたり、するはずがない場所から物音がしたり、物品がひとりでに落ちて割れるだとか……それらの妙な出来事は持ち主に呪いがかかり始める前兆なんだよ。それと、決してこのような方法以外で手離してはいけないんだ。もし捨てたり、壊したり、像が滅びるような行為をしてしまえば、いくら手離しても呪いは元の持ち主にかかったままとなる。陶器製である小人像の頬に誤ってヒビでも入れてしまったならば、すぐにでも匠に頼んできれいに直してもらわなければならない。ああそうだ、持ち運ぶ際は丁寧に包んで間違っても割ってしまわないよう細心の注意を払わなくてはいけない、ということも言っておこう。

 まあ、呪われた前例が小人像の誕生以来一度きりなのだからその方法が定かであるとは言いきれないのだけどね。逆に言えば、これらの方法を歴代の持ち主達が忠実に遂行したがために、彼らは初代持ち主とはちがって無事天寿をまっとうできたのだという見方もできなくはない。

 持ち主が身の周りで起こる妙なこともただの勘違いや偶然と片付けてしまえばそれまでの話しなのかもしれないが、結局のところ前例がないのだから、なんとも言えないし何とでも言えるわけなんだよ。

 

 ……ん?どうやら君は、こんな根も葉もない噂程度の話を大業にわざわざ僕が君に話すことを疑問に思っているようだね。それと同時に、なんでお前がそんな対処法の詳細なんかを知ってるんだ、とも。違うかい?

 その答えはいたって簡単だよ。

 聞いたんだよ、前の持ち主から。

 僕の骨董屋に、『赤帽子の小人像』がやって来たときにね。

 だから君、コレを貰ってくれるかな?

 緩衝材をつめて新聞紙で丁寧にくるんであるから剥がしたくない。だから箱のままで宜しく頼むよ。

 

 僕が持ち主となった二日前に、早々顧客に頼まれて修理したばかりのブリキ人形が、ふと見ればバラバラになっていたんだよ。あれは二度手間以上の大手間な修理ですこぶる骨の折れるものだったな……。

 それ以来店内では仕事の支障となるような異変は何も起こっていない。それでも、だからといって良いわけじゃない。これが言うところの呪いの前兆にあたるのだから。ゆえに、僕はコレを人に譲るわけさ。

 僕は歴代の回避方法のテンプレートに則るだけだよ。

 ちなみに君。この像の譲り受けを拒んだという前例はないよ。

 

 ……ああ、承諾してくれるのかい。どうもありがとう。恩に着るよ。なんだい?やけにニヤニヤして。

 なんでもない、そうか。なら別に良いのだがね。

 ……おっと、コーヒーがきたようだ。やけに時間がかかったな。

 お茶どきだから仕方ない、たしかにその通りだね。

 突然すまないが君、今日はこの辺で失礼するよ。なに、実は今日で骨董屋を畳むんでね、最後の後仕舞いが残ってるんだ。それと明日にでも旅に出ようと思っている。最後にばったり旧友の君と出会えて良かったよ。

 じゃあ、一杯分のお代はここに置いておくね。ゆっくり飲んでくれたまえ。

 それじゃあ、どこかで逢ったらまた話そう。




 

 (完)



悪意があるんだか無いんだか……


旧友と 飲まず後へと 喫茶店

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ