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2. ワタシの話し


 ふふふ。こんにちは。


 う、うわあっー、おばけだっー。

 なんて思わなくてもいいんだよ。


 座敷わらしだって、もちろん、幽霊やその他の目に見えないモノ達だって、見えないだけでちゃんといるものはいるんだから。ただ、昼間は夜中よりもいることが少し気付かれにくいだけ。


 皆忙しいから当然と言えば当然のことだよね。

 元にほら、アナタもこうして布団に入ってなかなか眠れないでぼーと天井を見上げていたところでしょう?

 だからね、気付かないだけでちゃんとそこにはいるんだよ。

 ああ、なに言ってるのかよく分からない?

 そう、でもねそんなこと気にしてないで続けるね。


 アナタは何はともあれ、ワタシの言葉がきこえているようだし。


 ところで、アナタはきっとこう思ってるでしょう。

 ワタシは、座敷わらしと呼ばれている女の子の姿をした一人だって。

 ね、そうでしょう。

 よくそんなふうに思われるの。

 よく人はワタシに話しかけるとき、一人のコに話しかけているつもりでいるわ。

 でもワタシは一人ではないの。

 いいえ、ワタシ以外にもここに座敷わらしがいるというわけではないわ。

 なんだか分からない。そうよね。え、もう寝るの?

 ……でも声はまだ聞こえているみたい。

 ふふ、やっぱり冗談なのね。

 じゃあもう少しちゃんと説明しましょう。

 

 さて、お話をまだまだ続けましょ。

 

 だからね、ワタシは一人の童子のカラダや心で形成されているわけじゃないってこと。ふふ、形成なんて少し難しい言葉を使っちゃった……

 多くの子供の心、思い、親が子どもを思いやったり、その子への願い。そんなあまたな子どもに対しての『童子のココロ』が、些細なものや強くて大きなもの、たくさん集まって折り重なってワタシを紡いでいるの。……あまり強すぎる思いは悪い念がついてきてよくないのだけどね。

 それでもワタシに集まってくるものはどれも良い『心』よ。


 人間って良いことよりも悪いことの方がたくさん感じて心に残してしまうようだけど、本当は良いことや、良い思いの方が悪い思いよりも強いの。

 なんだろう、カタチづくりやすいのかな。

 良い思いの方が意思がはっきりとしていて芯があるのかしらね。

 ワタシ、人間じゃないから分からないけど。


 そうそう、よくそんな良い思いの方を白い色とか匂いとかで感じる人もいるんだって。

 なんとなく分かるでしょう。アナタなら。

 そして、反対の悪い思いには、重くて、それを感じとった人間は黒色とか暗い色で表現したりするようね。

 それでも、黒の方が強い気がするけれど、白の方が強いのよ。

 強いっていうのは、重さとか、げーむ?のレベルとかとは概念が違うんだのだけど、一つ挙げるとすれば、一つに集まって、カタチをつくることができるってこと。

 白い思いである『童子のココロ』でワタシができているようにね。

 結束してカタチづくることができる白い思いに対して、黒い思いにはカタチが無いのよ。

 重くて淀んでいるだけで、はっきりとしたカタチが無い。

 薄れたり、湧いてきたり、うねったり。

 それだから集まって一つの形になることは滅多にない。

 もし形になっているように見えたとしても、それはそう見えるだけ。一個一個の黒色が寄り合っているだけ。

 ゆえに揺れるし歪むし、崩れる。形は保てない。

 だけど、もしも、そんな『黒い思い』が一つにカタチづくるときがあったとしたら、きっと大変なことになるわね。 ……大変なことってどんなことだろうって気になっているようね。でも今は言わないわ。

 せっかく話を聴いてくれているアナタを不安にさせたくないもの……

 

 *


 よく、ワタシ達は、いたずら好き、だとか、会ったと言い張る人の中には、足音が聞こえた、なんていうよね。

 それ、アナタは本当のことだと思う?

 ふうん。思うんだ。なんで?

 ふうん。ワタシにげんに会っているから。

 なるほどねー。


 ワタシ、思うんだけど、そんな人間の話しは半分嘘で半分本当なんだよね。

 そうだということもあるし中には違うってこともあるんだ。

 

 まず、いたずら好きということ。

 昨日、座敷わらしは白色である良い思いが集まってできたものって話したけど、『いたずら』なんていうことはするのよね。

 白い思いの塊なのに人を不安にさせるような悪さをしちゃあダメじゃないかって?

 そこはまあ、ワタシ達はあくまでも『童子のココロ』が素なのだから。色々な『心』が折り重なってその中で『いたずら心』が生まれても仕方がないということで。

 ここだけの話し、ワタシのすることで人が起こす反応は愉快だし。

 ……そうしかめっ面しないでよ。

 

 じゃあ次の、足音がしたとか、そういう物音について。

 これは半分嘘で半分本当かな。

 ワタシのせいじゃないってことも結構あるのね。

 なんかね、ワタシ達のいる場所って動物が居心地いいみたいなんだ。

 ワタシの前住んでいた家もそうだったんだけど。

 野良猫だったり、ねずみだったり、たぬきだったり、たくさんの動物が遊びに来るんだ。

 だからね、ワタシが天井裏にいるときは動物が遊びに来たりして、走り回ってた。

 そりゃあ、多少は部屋が揺れるよね。

 それで、家主のいない間に、その下の部屋のタンスに置いてあった物が落ちて壊れてしまったりすることもあったんだ……

 

 ……だからね、全部が全部ワタシ達のいたずらというわけではないの。足音も大方が遊びに来た動物達のものだったりするし。

 いたずらが愉快だ言ったけどね。それでもね、

 それは本当なんだよー!

 

 ……カタカタタ……

 

 ごめん。いきなり部屋が揺れたから驚いたよね。

 感情が高ぶるとついこうなるんだ。

 ……ワタシがやったことじゃないけど家の人には悪いかなって思って、壊した分、不安にさせた分、その分沢山家に福がくるように運を回すようにしているよ。

 だってそれがワタシ達のお役目だもの。

 まあ、何かのいたずらをしたときは、子供をおおめに見るように、暖かく赦してね。

 

 ……ああ、ほら、もうすぐ朝くるみたい。

 アナタと話すのもこれでおしまいみたいだね。

 

 アナタともっとお話ししして遊びたかったけど、どんどんワタシの声、聞こえなくなってきてるよね。

 

 ……ワタシの声、すごく小さいから、なかなか聴いてくれるひと、いないんだよね……

 

 ……話せて嬉しかった。

 

 じゃあまた……来てね。

 

 今度は風船とか、手鞠とか、持って……たら、いいな。

 ……またね―――

 

 


 * 


 ここは、辺りが天然林に囲まれ近所に名所である滝があることと、崖の上に設けられた景観の良さで密かに人気をあつめている宿屋の一室。


 宿屋側の演出なのか、チェックイン初日に入室したときから部屋の奥にある和風の障子窓は開け放たれており、その奥のガラス越し一面に渓谷の風景が広がっているのだった。


 結局のところ、障子の位置を動かすことも備品のアメニティーをかまうことさえしなかった。

 

 窓の外が白み始めている。

 もうすぐ夜が明ける。


 二泊三日。『旅』の最終日は眠らずに終わった。

 初日は初めての土地に来たという緊張に伴う疲労により夜中、いつの間にか寝落ちていたようだったが。

 

 頭はなんだかぼーとしている。

 当然と言えば当然だ。


 現在まで、布団に入ってからというものの、なにもない木目の天井をただただ見つめているだけなのだから。


 なにもしないのならば早く目を閉じて眠ってしまえば良かったものの、不思議とそうはしなかった。

 そうできなかった。いや、不思議とそうしたくなかったという方が今はしっくりくる。

 

 まるで、寝る間も惜しんでしまうくらい、興味深いなにかがあったかのように。

 

 そんなもの、もう自分には無いはずなのに。

 

 もうすぐ日が昇り、朝が始まる。

 

 そのとき、一瞬、ぼうっとした白い光が部屋全体を包み込み、そしてすぐ、元の薄暗い部屋へと戻る。

 

 カタカタタ……

 

 どこかからそんな、光の余韻のような、名残惜しそうな、部屋が軋む音がする。名残惜しそうな?

 

 その直後、今度は本当に窓の外の渓谷の方から朝日が昇り始めてゆく。

 

 木々や鳥、虫も人間も。

 今まで寝静まっていたもの達が次々と目を覚まし、朝が来ると共に、世の中には音が溢れてゆく。

 

 微かに聞こえていたはずの夜の声など紛れて埋もれてしまうくらいに。

 

 私は起き上がる。帰るのだ、家に。きっと帰りのバスの中では寝てしまうことだろう。

 一体なんだったのだか。この『旅』は。

 一人、己に呆れて笑えてくる。


 あって無いような荷物まとめる。


 また来よう。

 お金を貯めて。

 そしてここの宿に泊まって、今度は近くにあるという滝も見に行こう。


 ああ、それから今度は風船も持っていこうかな。

 何故だかそう思うのだった。

 

 誰かがきっと喜ぶ気がして。




(完)


疲れると、なんだか放浪したくなるんですよね。

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