ラッピング戦記~ランゲージ・ランウェイ~
『言葉は想いを飾る包装である。』
いくら過去にそんなことを云われても、言論統制が進んだ先では不可能なことだった。
その独裁国家は言論統制が進み、ついに国民は首の後ろの付け根に量産した人工遺物『チップ』を埋め込まれ、政治の動向に関しては『政府の意向に従います』程度しか言えなくなっていた。
幸い、その期間に他国へと出ていた者達はその施術を免れており、国内でもなんとか政府の管理を掻い潜り、施術から逃れた者達もいた。
そこで、反政府側の者達はある時、外部の通信手段を使って集い、国内に残された国民達を解放するための革命軍を立ち上げた。
そして、国民を解放するための武器は政府側と同じ――――すなわち、『ラップバトル』だった。
政府が言論統制による不満の矛先を反らすため、国民に新たに与えた『娯楽』。
それは、『言葉遊びの勝負事、すなわちラップバトルをした際、勝者は相手のチップを制御する権限を得、敗者の『声』を文字通り奪うことができる。そして、これよりこの国において、何事も『沈黙』は肯定と取る。すなわち、反論を始めとした意見の手段を奪い取り、自分に服従させることができるようにする。』というものだった。
となれば当然、数多の支配欲にまみれた者達がその新たな制度に踊らされ、まともな者達もその対応のために手間取らされることとなった。
それが日常化するのに、そう時間は掛からなかった。
チップは特定の発言をしたり無理に取り出そうとしたりすれば、全身を巡る魔力の回路に直接作用し、ものの数秒で簡単に本人を殺すこともできる仕様になっている。行動も不審だと判断されれば、政府のチップ管理担当の役人が持つアイテムがあれば、射程範囲内の者は同様に簡単に殺せる状態である。
そこで、レジスタンスがそのチップを無効化するための解析・研究をした結果、どうやら『声』が特定の周波数に達した時にチップと人体との魔力的な接続が曖昧になるらしく、その瞬間を狙ってチップをハッキングすればその機能を制御でき、安全に停止させることもできるようである。
言わば『意思と感情に対するサーモグラフィー』がその『熱』を感知した時に仕掛ける必要があるため、今のまともな答弁もできない状態では改造したチップを身に埋めながらラップバトルという方法を取らなければならない。しかし、それでもレジスタンスは味方を集め、敵を無力化し、徐々に勢力を拡大していった。
レジスタンスによりチップを取り除けた者は、それに準じる支配から解放される。普通の被害者は元より、政府側のチップを無効化すれば『チップの喪失』が『支配権の剥奪』になるため、その者の支配下が解放され、延いては政府側の弱体化を狙うこともできた。
そして。
レジスタンスはようやく、国家の中枢へと攻め込めたのだった。
その先頭、レジスタンスの首謀者は最後の敵、国の王のもとへと辿り着く。
多少の軽い掛け合いの後、仕掛けるのはもちろん、ラップバトルだった――――――。
*
対峙。
場面が暗転する。
終末のラッパを重ねるように、または軽快な玉のように、音の波が跳ね始める。時折、割って入るように重低音が踏み荒らす。
いくつもの蛍光色の光が上空から舞い下り、地を走り回る。
二人の姿がぼんやりと、もしくははっきりと、その光に照らされ見え隠れする。
そして一層大きな光が一筋、パッと二人を白に浮かび上がらせた。
先手は革命軍、首謀者。
慣れた様子でマイクを持つその手が口元へ、おもむろに向けられる。
――――――開口。
試合のゴングが鳴る。
両者ががなる。
3、2、1――――――
「皆言えんなら俺が言おう。
このフロウ、引き射て脳を貫こう。
苦悩する俺らを愚弄する、『奴隷』だ?
甘く見んなよ、『御礼』だ。
どうせ死ぬならここらで一華
咲かせる危険も厭わない。
ま、先に死ぬお前とのOne Night、
楽しませてくれ、どうぞサンハイ!」
「まずは褒めよう、晒す本音を。
だが骨と化す覚悟をしろカス。
見ろ、妨げず暴露したいこの美、
『智』をわからせる格の違い、想い。
空っぽの頭じゃその程度。
響かせてみようこの重低音。
君はやっと誕生しすぐ散る凡。
こちら待ち構えてた栄えある首領。」
両者の思惑が交差をし出す。
『まず邪魔者は容赦無く掃射』
わずかな音が淘汰は愚行か?
吐くか奏でるかの幕が上がる。
怒涛の韻踏みも喉元過ぎる内、音をもひん剥き心を一瞬にして燃やす。起点と化す。眩い火花が二人を融かす。
「上がこれじゃ下も痴れたもの。
触れた棘がしなり折れた程。
弱かったぜ『側近』、心をポッキン。
もしやdocking専用の『お人形』?
ハッ。悪趣味だ、早く悔いな。
上がバカばかり気付けば墓場。
憚る嵩張る嘘八百。
まったく腹立つクソな厄。
喧嘩を吹っ掛け被害者気取り。
嘘の出来は自己愛に見劣り。
招くあまねく文化の衰退。
そんなにママのいっぱい吸いたい?
強いタゲられる表現の規制。
聞こえてんだろ理性の悲鳴。
『利口』でメンタル犠牲ときて、
生きる意味ある? イキろうぜリアル。」
「叱らず煽てた末の餓鬼、
性格も頭も悪い素材。
簡単にノり安い命張るから、
つまり使い捨て易い気持ち湧くわな。
『『ヒーロー』の肩書きが欲しいから、
『悪役』を貴方に押し付けよう。』
そんな道化がまかり通れば、
手早くメチャ楽にリラックス。
一つ最適な敵がいりゃ快適。
愛すべき愚民は不眠から自由に。
思考停止で永眠する意思。
それはまるで、牢。『楽園』だろう?
頑丈な城と同じ盤上。
娯楽も方角も与えられよう。
何の不満がある? 難攻不落だぞ?
蛮行蔓延る不毛、痴態のな。」
「ポケットに手入れ、ボケッと見ていて、
学ランでイキっても別途未成年。
入れ知恵できねぇ見せしめに寝入れ。
恥にくるまり『始まり』来るまで。
一般人が万事に無い権力じゃ、
無いも同然、破壊で好転。
踏み均した土台すら、
目覚めりゃ崩壊。夜明けの到来。
虎視眈々と準備万端。
狼煙は疑わず即判断。
勢い任せじゃないこのワンチャン、
欲の奴隷にゃ最期の晩餐。
喰らえ更なる追撃、刺激。
まっさらな白紙に描くは桃源郷、
と元凶の列挙と洗浄。
洗脳と占拠が終わればEnjoy。
お前の足元にゃ屍が築かれ、
俺の背後じゃ皆「あれ?」と気付く。
見繕った駒も移ろい、寛ぐ。
ああ、それが『自然』だ。
侮れない『善』だ。
難しいことでも達人にゃ容易い。
まず見りゃ素人も楽にこなすし、
つまり『できる』と感じりゃ皆続く、
普通に、俯かずとも。
俺が先駆者。
これが『センス』だ。」
「有象無象が集ったとて何になる?
同士で刺し違う? どうせ灰に舞う。
実にくだらない、無駄な足掻き。
薄ら笑いすら出んな、まさに。
餌をちらつかせりゃ兵士、
脅せば静止、合わせりゃ兵器。
ダセェでしゃばりは喚いてただけ。
惰性で騒ぐよか罵声で裁け。
別に『国より私を優先しろ』とか
言ってるわけじゃない。
寝ずに国のち私、送る縁起物は
知ってるべきだが?
やっと褒めれる箔は与えた。
むしろ感謝を得れるべきだ。
『誰かのため』と考えたことさえ、
無いならせめて、役に立て。」
「『適材適所』って知ってる?
Exciteできるようになってる。
さながら才能と材料のランデブー。
ああ、しょせんお前はわからんデブ。
陰湿な気質で嫌がらせ三昧?
だけど相手の気概に惨敗。
これが主体性揃った集大成。
もうな、終わってんだよ、旧体制!
勝ったのは俺ら、個人の集団。
さっさと倒れな、故人の絨毯。
裸も羽織れない、妄信と執着。
ラッパをなぞれば、掃除と終末。
手と理悪し時、背折り躍り、
『ハイハイ貴方の、そう、言う通り。』
最後は裸の王が詰む。ヤれよ。
独りでじぃっとかます駄弁Show!!」
「怠惰な愛玩は変わらんさ。
どんな災難に遭ってもな。
威張り散らし、無駄に使い乱し、
そして大事なもの程乖離する。
ならば万事を管理しよう。
学ばざる『人』は駆使・利用。
それが『幸福』、降伏ありきだ。
これがありきたりな超クズなりの視野。
だから貰うぞ対価だ。
モラルも無いから、となると配下だ。
ほら、ずっとマシだな。
こうなると、『ハッピー』ヤバい。
被害者ヅラで仲間意識アゲ、
楽しいだろう? 計らいのお陰。
なァ、何が悪い? 私は単に――――――」
その時、異変。
――――言葉が言えん?
――――声を出せる未来が見えん!
喉元に引っ掛かる違和感。
透明な異物の類がある。
そして理解。抗えやしない。
『チップをハックし魔力をジャック』
四苦八苦しても塞き止め邪魔する。
そこへと浮かぶは上がる口角。
「合わせてもらっても当たり前?
『勝手なお前の流行り』だぜ?
『革命』が何か知ってるか?
策でいざ、ぶち壊す『愉悦』だ!
だがまぁ情けだ、方法は乗ろう。
あえて仕様は変えてみよう。
そうだな、直に声を淘汰だ。
ほぅら戯れ言をほざけよ、『歌』は?
乞えないなら、俺が勝者だ。」
投げられた問いに返る沈黙。
空気も撫でれない声の振動。
すなわち勝敗の決定と引導。
壮大な王者の交代。
解放の鍵が移動。




