表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放聖女は最強の救世主〜隣国王太子からの溺愛が止まりません〜  作者: Futahiro Tada


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/25

禁忌の祈り ― 息づく闇の研究

禁忌の祈り ― 息づく闇の研究


廃墟と化した砦の地下へ続く階段は、闇と湿気に満ちていた。

崩れた天井から落ちる土埃が、かすかな明かりを濁らせる。

リリアナは灯りを掲げながら、足早に降りていく。

先ほど聞こえた救援の声が、まだ耳に残っていた。

(まだ生きている人がいるなら……助けなきゃ。)

暗闇の中に、アレンの歩く足音が頼もしく響く。

剣を構えたその背は、どんな闇にも崩れない意思を宿しているようだった。

バルドウィン以下数名の騎士が後に続き、緊張に息を潜める。

階段を降り切った先――

そこには、不自然なほど広大な地下空間が広がっていた。

石壁に打ち付けられた鉄の扉、

薬品の匂いの混じった冷たい空気。

崩れた書棚から散乱した文献の数々。

アレンは眉を寄せた。

「ここに……何を隠していた?」

騎士が灯りを壁へ向けると――

そこに描かれていたのは、禍々しい魔紋。

中央には見覚えのある赤い一つ目。

「……アビス……」

リリアナの声が震える。

アレンは剣を抜いたまま、壁へ近づく。

「ここで……何をしていた。

魔獣との関係は……」

アレンの問いかけに答えるように、闇の奥から呻き声が上がった。

「……たすけ……て……」

「生存者だ!」

騎士の一人が駆け寄る。

瓦礫をどけると、血に濡れた白衣の研究者が横たわっていた。

肌は蒼白で、魔傷が体を蝕んでいる。

「私が……癒します。」

リリアナが膝をつく。

手をかざし、祈りを紡ぐ。

「……癒しの光……」

温かい光が彼の体を包む。

だが――その瞬間。

研究者の胸から、黒い霧がうごめいた。

リリアナの体がぞくりと震える。

「っ……!」

霧が彼女の手を伝い、意識の奥へ侵入しようとする。

まるで意思を持つかのような侵食。

(来る……! 壊せ……という声……!)

アレンが即座に反応し、リリアナを抱き寄せた。

「離れろ!!」

黒い霧はアレンの剣が放つ光に触れた途端、弾かれるように消失した。

「アレン様……」

「まだ負傷者の体内に残っている。無理に治すな。」

リリアナの手は震えていた。

また、壊しかけてしまうところだった。

アレンは彼女の肩に手を添え、強い眼差しで見つめる。

「恐れるな。

お前の力は、闇に飲まれていない。」

まるで、彼女の心そのものを見透かすように。

研究者は息を荒げながら口を開く。

「私は……知らなかった……

魔獣を……操るはずだった……

アビス教団の協力で……

人類を救う研究のはずだった……!」

アレンの眉間に深い皺が刻まれる。

「アビス教団……まだ生きていたのか。」

「ち、違う……!

奴らは……神の代行を名乗る狂信者……

魔獣を使い……民の命を捧げ……

この大陸を浄化すると……!」

研究者の目に涙が溜まる。

「我々は……彼らに利用された……。

そして……ここで――」

その言葉は続かなかった。

彼は息を引き取った。

リリアナが目を閉じ、手を重ねる。

「安らかに……」

しかし安らぎを願う祈りの中でも、

胸の奥に冷たいものが残った。

(アビス教団……

私の力は……彼らの目的にも繋がっている……?)

アレンは研究施設の奥へ視線を向けた。

「さらに奥があるはずだ。」


扉を次々と開いていくと、

奥に大きな研究室が現れた。

割れた試験管

黒く変色した魔獣の死骸

床に這う赤黒い魔紋

そして、台座の上に置かれた一冊の古い書物

バルドウィンが慎重に手に取る。

「殿下……ご覧ください。」

ページにはこう記されていた。

――聖女は、救済者であると同時に、浄化者(破壊者)でもある

光と闇を同時に宿す者

その奇跡は人の命を癒し、そして奪う

リリアナは息を飲む。

「これは……私の……」

「まだ決めつけるな。」

アレンがそっと本を閉じる。

「聖女の力は大いなる力。

善悪は、お前の選択に委ねられる。」

彼の瞳には、揺るぎない信頼が宿っていた。

「忘れるな。

俺は、お前が救う方を選ぶと信じている。」

胸が締めつけられ、目が潤む。

(どうして……こんなにも……

私を信じてくれるの……?)

そのタイミングで、砦全体が震えた。

「地鳴り……!?」

「何かが……来る!」

黒い足音が近づいてくる。

地下の奥から、異様な魔獣達の気配。

アレンはリリアナの前へ剣を掲げたが――

魔獣はリリアナだけを狙う目で迫ってくる。

「お前たちは……何者なの!?」

魔獣の霧の中心で、声が響いた。

――アビスが呼んでいる

――救世か滅びか

――選べ、光の器

リリアナの瞳が震える。

アレンは彼女の手を掴んだ。

「リリアナ、行くぞ。

ここは崩れる。外へ!」

だが――足場が崩れ、リリアナは足を滑らせた。

「きゃっ――!!」

落下――

その瞬間、アレンは迷わず飛び込んだ。

「アレン様!? 危ない――」

「お前を置いていけるか!!」

二人の体が深い闇へと落ちていく。

彼はリリアナを抱き寄せ、壁を蹴りながら着地の角度を調整する。

だが――

着地の瞬間、アレンの肩が岩角に激突した。

「っく……!」

抱きしめる腕に力が残る。

リリアナは彼の腕の中で叫んだ。

「アレン様、血が――!」

「気にするな。生きている。」

しかし――血は止まらない。

契約の環が反応し、リリアナの胸も痛む。

(私が……落ちたから……!)

アレンが苦笑する。

「命を分けたのだから……仕方ないだろう。」

「アレン様……!」

涙がこぼれた。

アレンが自分を守った。その代償を負って。

アレンは名を呼ぶように、優しく囁いた。

「泣くな……リリアナ。」

洞窟の暗闇の中、

二人の距離は、息が触れるほど近い。

鼓動が響き合う。

自分のために傷ついた彼の温かさが、胸を支配する。

その瞬間――

確かに、何かが芽生えた。

まだ名前のない感情。

しかし――逃げられない。

アレンは震えるリリアナの頬に触れた。

「お前は……救いだ。」

闇の中でも、その言葉は光だった。

二人は地上へ戻るために立ち上がる。

背後では、闇が蠢き続ける。

(アビス……必ず――止める。)

リリアナは静かに誓った。

救う力を選ぶ。

絶対に。

その祈りは、闇へ向けて灯る炎となった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ