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追放聖女は最強の救世主〜隣国王太子からの溺愛が止まりません〜  作者: Futahiro Tada


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決裂 ― 玉座と信仰の裂け目

決裂 ― 玉座と信仰の裂け目


石造りの大議会堂は、

重苦しい空気に満ちていた。

天井高く掲げられた王家の紋章が、

今日ほど冷たく見えたことはない。

円形に並ぶ重臣席。

その中央に設けられた演壇。

そこに立つのは、

王太子アレン・アルスター。

そして、その少し後ろ――

白と銀の法衣に身を包んだ

聖女リリアナ。

彼女がこの場に立つのは、

想定外だった。

ざわめきが走る。

「聖女が……?」

「なぜここに……」

「教会の許可は……?」

そのざわめきを、

低く抑える声が響いた。

「――静粛に」

発言したのは、

王弟メルクリオ。

彼は余裕のある表情で立ち上がり、

ゆっくりとアレンを見据えた。

「本日は緊急議会だ。

昨夜、王宮内で発生した暗殺未遂事件――

その責任について、

明確にせねばならぬ」

アレンは黙って聞いていた。

「犯人は、王弟派の者だと?」

「いや」

メルクリオは肩をすくめる。

「犯人の所属など、もはや重要ではない。

問題は――」

一拍置いて、

冷酷に言い放つ。

「王太子殿下の判断が、

王都に混乱と流血を招いたという事実だ」

議場がざわつく。

「殿下は、

危険な存在である聖女を

独断で王宮に留め置いた」

「結果、暗殺者を招き、

民衆の不安は爆発寸前だ」

アレンは一歩前に出た。

「それは歪められた事実だ」

「歪められているのは、

殿下の認識の方では?」

メルクリオは、

あらかじめ用意されたかのように

一通の書簡を掲げた。

「教会からの公式見解だ」

その瞬間、

別の席から白衣の集団が立ち上がる。


司祭長エルドレッドが、

静かに前へ進み出た。

「神の名の下に、

我々教会は申し上げます」

「聖女リリアナの力は、

すでに制御の域を超えている」

「王太子殿下は、

その危険性を理解しながら、

私情によって彼女を庇護した」

「これは――

信仰への冒涜です」

その言葉に、

議会堂の空気が張り詰める。

信仰への冒涜。

それは、この国で

最も重い罪のひとつだった。

アレンは即座に反論する。

「彼女は人を救った!

民衆を、王都を――」

「同時に、

破壊の力も見せた」

エルドレッドは、

冷たく遮った。

「奇跡は、

制御されてこそ奇跡」

「制御されぬ力は、

災厄に他ならない」

王弟派の重臣が、

ここぞとばかりに声を上げる。

「つまり――

聖女を王宮から切り離し、

教会の管理下に置くべきだ!」

「王太子殿下は、

一時的に職務を停止するのが妥当!」

議場が一気に騒然とした。


アレンは、

議場を見渡した。

かつて味方だった者たちが、

視線を逸らしている。

(……これが、政治か)

彼は理解していた。

これは最初から

「聖女を守るか否か」の議論ではない。

王太子を引きずり下ろすための舞台だ。

「殿下」

側近の騎士が、

かすかに首を振る。

(このままでは……)

アレンは、

深く息を吸った。

(それでも……

黙るわけにはいかない)

だが――

彼が口を開く前に。

静かな声が、

議会堂に響いた。


「――お待ちください」

一斉に、

視線が集まる。

リリアナだった。

白い法衣が、

大議会堂の中央で

ひときわ目を引く。

彼女の足は、

わずかに震えていた。

恐怖がないわけではない。

(……でも)

(逃げないって、決めた)

アレンの背中が、

すぐ前にある。

その存在が、

彼女を支えていた。

「わたしは、

聖女リリアナです」

「これまで、

神の声を伝える存在として

扱われてきました」

「ですが今日は――

一人の人間として、

ここに立っています」

ざわめきが、

徐々に静まっていく。

「わたしの力は、

確かに危険です」

「制御できなければ、

人を傷つけるでしょう」

教会派が、

満足げに頷く。

だが――

次の言葉が、空気を変えた。

「だからといって、

意思まで危険だとは、

誰が決めたのですか?」

エルドレッドの眉が、

わずかに動いた。

「わたしは、

誰かを救いたくて祈りました」

「命を守りたくて、

力を使いました」

「それを――

災厄と呼ぶなら」

リリアナは、

はっきりと顔を上げた。

「それは、

力ではなく

恐怖が原因です」

議場が静まり返る。

「人は、

理解できないものを恐れます」

「恐れたものを、

排除しようとします」

「それが――

今、この場で起きていることです」

王弟派の重臣が、

声を荒げる。

「感情論だ!」

「政治は理屈で動く!」

リリアナは、

一瞬だけ視線を落とした。

だが、すぐに言った。

「では聞かせてください」

「わたしを排除した後、

次は誰を排除しますか?」

「危険だと判断された兵士?

異端とされた民?」

「それが、

この国の正しさですか?」

その問いに、

答えられる者はいなかった。


沈黙を破ったのは、

王弟メルクリオだった。

「……美しい言葉だ、聖女よ」

「だが、

国家は感傷で守れぬ」

彼は、

エルドレッドの方を一瞥する。

「我々は意見が違っていたが――

今は一致している」

エルドレッドは、

ゆっくりと頷いた。

「ええ」

「聖女は危険」

「王太子は、

その危険に飲み込まれている」

「だからこそ――」

二人は、

同時に宣言した。

「王太子アレンの権限を停止し、

聖女リリアナを教会管理下へ移す」

議会堂が、

一気に騒然となる。

賛成の声。

反対の声。

だが、

数は――

明らかだった。

(……負ける)

アレンは、

歯を食いしばった。


そのとき。

「――異議あり」

低く、

だが確かな声。

議場の後方から、

一人の老将が立ち上がった。

「私は、

王太子殿下に従う」

続いて、

数名の騎士、貴族が立つ。

「聖女の言葉は、

理にかなっている」

「恐怖で国を治めれば、

いずれ崩れる」

一方で――

反対側も立ち上がる。

「教会に従う!」

「王弟殿下を支持する!」

議会堂は、

完全に二分された。

怒号が飛び交い、

もはや議論は成立しない。

エルドレッドが、

冷静に告げた。

「……決裂、ですね」

メルクリオは、

満足そうに笑う。

「そうだ。

この国は――

選ばねばならぬ」

信仰か。

王権か。

それとも――

新たな道か。

アレンは、

リリアナの手を取った。

彼女は、

その手を強く握り返す。

(……もう、戻れない)

この瞬間。

王国アルスターは、

一つではなくなった。


夜。

王宮の外では、

すでに陣営ごとに

兵が動き始めている。

信仰の旗。

王家の旗。

そして――

その狭間で揺れる、人々。

リリアナは、

王宮の回廊で立ち止まり、

静かに呟いた。

「……怖いです」

アレンは、

隣で答えた。

「俺もだ」

「でも――

もう目を逸らさない」

二人は、

同じ方向を見ていた。

それは、

恋の先にある

世界だった。

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