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追放聖女は最強の救世主〜隣国王太子からの溺愛が止まりません〜  作者: Futahiro Tada


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奪還 ― 聖女を巡る戦争

奪還 ― 聖女を巡る戦争


夜明け前の王宮は、

不自然なほど静まり返っていた。

鳥の声も、

庭園を渡る風の音すら、

どこか遠い。

リリアナは、アレンの部屋の一角で

窓の外を見つめていた。

昨夜の出来事は、

夢ではない。

刃の閃き。

血の匂い。

そして――

アレンの言葉。

愛しているからだ

胸の奥が、

まだ熱を帯びている。

(……でも)

リリアナは、そっと自分の胸に手を当てた。

(あの言葉を……

受け取るだけで、いいの……?)

アレンは眠っていない。

剣を手入れしながら、

窓際に立つ彼女の背を見つめていた。

(昨夜、言ってしまったな……)

後悔はない。

だが、覚悟はさらに重くなった。

愛を口にした瞬間から、

彼はもう「中途半端な王太子」ではいられない。

そのとき――

遠くで、

警鐘が鳴り響いた。

低く、重く、

王都全体を震わせる音。

「……来たか」

アレンが呟く。


議会の緊急招集。

王都の各門の封鎖。

騎士団の一部が、王弟派の指揮下に入った。

一夜にして、

王都は二つに割れた。

王弟メルクリオは、

玉座の間に近い会議室で

冷ややかに宣言した。

「昨夜、王宮内で重大な治安崩壊が起きた」

「暗殺未遂です」

側近が補足する。

「王太子殿下の私的判断により、

聖女が危険に晒された」

「よって――

王太子アレンは、

統治能力に欠けると判断する」

重臣たちがざわめいた。

「それは……!」

「証拠は?」

メルクリオは口角を上げる。

「証人ならいる。

教会派がな」


同時刻。

王都中央大聖堂では、

司祭長エルドレッドが民衆の前に立っていた。

「昨夜、

聖女リリアナは再び災厄を招きました」

どよめき。

「暗殺者が侵入したのは、

彼女の闇の力に引き寄せられた結果です」

「このまま王宮に留めれば、

さらなる血が流れるでしょう」

民衆の顔が、

恐怖に歪む。

「だからこそ――

聖女は教会が引き取ります」

「それが、

神の御心です」

神という言葉は、

人の思考を止める。

人々は、

自分で考えることをやめ、

正解にすがる。

噂は瞬く間に広がった。

聖女は災厄

王太子は惑わされた

教会こそが正義


アレンは、

議会へ向かう回廊を歩いていた。

護衛は、半分以下。

(……早い)

王弟派の動きは、

予想以上だった。

「殿下……」

側近の騎士が低く告げる。

「このままでは、

王太子職の一時停止が可決されます」

「そうなれば……」

「聖女様は、

教会に引き渡されるでしょう」

アレンの拳が、

静かに震えた。

(また……奪われるのか)

そのとき。

扉の前で、

リリアナが立っていた。

「……アレン様」

「来るなと言っただろう」

「……でも」

彼女の瞳は、

怯えながらも、

逃げていなかった。

「わたし……

聞きました」

「わたしのせいで……

あなたが……」

「違う」

アレンは、

きっぱりと否定した。

「これは、

最初から政治の話だ」

「お前は、

利用されているだけだ」

リリアナは、

唇を噛みしめる。

(利用……

それでも……)

彼女の胸に、

昨夜の言葉が蘇る。

俺は、お前を選ぶ

そのとき――

何かが、

はっきりと形になった。


「……アレン様」

リリアナは、

一歩、前に出た。

「今回は……

わたしが、決めます」

「……リリアナ?」

彼女の声は、

震えていた。

それでも、

逃げなかった。

「わたしは……

もう守られるだけではいられません」

「聖女として……

そして……一人の人として」

アレンは、

言葉を失った。

(この目……

もう、覚悟を決めている)

「教会が、

わたしを必要とするなら」

「王弟派が、

わたしを排除したいなら」

リリアナは、

胸の前で手を組む。

光と闇が、

微かに脈打つ。

「――わたしが、

戦場に立ちます」

「……!」

周囲が息を呑む。

「逃げるのでも、

差し出されるのでもなく」

「わたし自身の意志で」

アレンは、

思わず彼女の肩を掴んだ。

「正気か……!」

「正気です」

彼女は、

はっきりと答えた。

「あなたが……

すべてを失うのは、嫌です」

「あなたが、

一人で戦うのも、嫌です」

涙が、

一粒だけ落ちる。

「だから……

わたしも、

あなたと一緒に立ちたい」

その言葉は、

剣よりも鋭く、

盾よりも強かった。

アレンの胸に、

熱いものが込み上げる。

(……ああ)

(もう、止められない)

彼は、

深く息を吸い、

ゆっくりと頷いた。

「……わかった」

「なら――

俺も、王太子として立つ」

「半端な覚悟ではない」

彼は剣を腰に差し直す。

「聖女を奪おうとするなら、

王国ごと敵に回す覚悟で来い」

リリアナは、

小さく、しかし確かに微笑んだ。

(怖い……

でも)

(逃げない)

二人は並んで、

議会の扉を見つめた。

その向こうには、

王国の未来がある。

恋と、権力と、信仰と、恐怖。

すべてが絡み合う、

戦争の始まり。

この瞬間、

聖女は象徴ではなく、主体になった。

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