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追放聖女は最強の救世主〜隣国王太子からの溺愛が止まりません〜  作者: Futahiro Tada


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暗殺の夜 ― 二つの影と運命の刃

暗殺の夜 ― 二つの影と運命の刃


王都アルスターの夜は、

いつになく重く、息苦しかった。

雲が月を覆い、

王宮の回廊を照らす灯火は最小限に落とされている。

静寂――

それは平穏ではなく、

嵐の前触れだった。


リリアナはベッドの上で、浅い眠りを繰り返していた。

夢を見る。

黒い霧。

崩れ落ちる人々。

血の匂い。

壊せ

守るなら、すべて壊せ

「……っ」

はっと目を覚ました瞬間、

胸の奥で、何かがざわめいた。

(……来る)

理由はわからない。

けれど確信があった。

その直後――

カチリ

金属が擦れる、かすかな音。

次の瞬間、

窓ガラスが音もなく外された。

黒装束の影が、

夜気と共に部屋へ滑り込む。

(暗殺者――)

声を上げる暇はなかった。

刃が、

リリアナの喉元へ一直線に伸びる。

「――――!」

その瞬間。

ガンッ!!

鋭い金属音とともに、

刃は別の剣に弾き飛ばされた。

「そこまでだ」

低く、凛とした声。

アレンだった。


「王太子……!」

暗殺者が舌打ちする。

「チッ……警護は最低限と聞いていたが」

「王弟派の犬か」

アレンは一歩前に出て、

リリアナを背後へ庇った。

「下がれ。俺がやる」

「……はい」

震える足を必死に抑えながら、

リリアナはベッドの端へ下がる。

暗殺者は無言で距離を詰め、

一気に斬りかかってきた。

鋭い剣戟。

アレンは受け、流し、踏み込む。

(速い……訓練された殺し屋だ)

暗殺者は感情のない動きで、

急所だけを狙ってくる。

「邪魔だ、王太子!」

「黙れ!」

剣がぶつかり、

火花が散る。

その瞬間――

リリアナの胸が、

ぎゅっと締め付けられた。

(……また、力が……)

光と闇が同時に脈打つ。

(使えば……壊してしまう……)

だが、

目の前でアレンが斬られそうになるのを見て――

恐怖よりも、衝動が勝った。

「やめて……!!」

祈りが、

無意識に溢れ出す。

白と黒の光が、

同時に床を走った。

暗殺者の動きが一瞬止まり、

床が砕ける。

「なっ……!」

アレンが叫ぶ。

「リリアナ、抑えろ!!」

「……っ、ごめんなさい……!」

だが、その力は

止めきれない。

暴走寸前――

そのとき。


「そこまでです」

静かな声が、

戦場を裂いた。

神官服に身を包んだ一団が、

回廊から現れる。

先頭に立つのは――

司祭長エルドレッド。

「……教会派か」

アレンの声に、怒りが滲む。

エルドレッドは、

床に倒れた暗殺者を一瞥し、

興味なさげに言った。

「王弟派は、随分と短絡的ですね。

聖女を殺せば、国がどうなるかも考えずに」

「では、お前たちは何の用だ」

「保護ですよ」

エルドレッドはリリアナを見つめ、

優しく微笑む。

「聖女様。

あなたは今、命を狙われています。

王宮はもはや安全ではありません」

「……それで?」

「教会が、あなたをお預かりしましょう」

空気が凍りつく。

「ふざけるな」

アレンは剣を下ろさず、

一歩前に出た。

「それは保護ではない。

監禁だ」

「違います。

救済です」

エルドレッドは一歩近づき、

低く囁いた。

「あなたの力は、制御できていない。

このままでは、あなた自身が壊れる」

リリアナの心が揺れた。

(……確かに……怖い……)

だが、

その前に立つ背中がある。

アレン。

「彼女に触れるな」

その声は、

これまで聞いたことのないほど冷たかった。

「彼女は俺が守る」

「殿下、あなたは政治をわかっていない」

「わかっている」

アレンは剣を握り直す。

「わかった上で言っている」


「俺は――

王太子としてではなく、

一人の男として決めた」

エルドレッドの眉が、わずかに動く。

「この国のために、

彼女を差し出すことはできない」

「それは、王位を捨てる覚悟と同義ですよ?」

「構わない」

リリアナが息を呑む。

「……え?」

アレンは振り返らず、

ただ言った。

「国よりも、

彼女を失う方が耐えられない」

沈黙。

教会派の神官たちがざわめく。

「殿下……!」

「その発言は……!」

エルドレッドは、

しばらく黙っていたが――

やがて、静かに笑った。

「……なるほど」

「本気、というわけですね」

アレンは答えない。

剣を構えたまま、

一歩も引かない。

(この人は……

すべてを捨てる覚悟で……)

リリアナの胸が、

強く締め付けられた。

(どうして……

わたしなんかのために……)

そのとき――

王宮の警鐘が鳴り響いた。

暗殺未遂の報が、

一気に広がる。

教会派は、

これ以上の強行は不利と判断した。

「……今夜は、引きましょう」

エルドレッドは一礼する。

「ですが、殿下。

あなたの選択が、

いずれ国を壊すことになる」

「その時は――

俺が責任を取る」

神官たちは、

闇に紛れて去っていった。


静寂が戻った部屋。

剣を下ろした瞬間、

アレンの肩から血が滴った。

「アレン様!!」

リリアナは駆け寄り、

彼を抱きしめる。

「怪我……!」

「かすり傷だ」

だが、

彼女の手は震えていた。

「……怖かった……

あなたが……死ぬかと……」

アレンは、

その震えを抱きしめ返した。

「もう大丈夫だ」

「……っ」

涙が溢れる。

抑えきれなかった。

「どうして……

そこまでして……」

アレンは、

彼女の額にそっと額を重ねる。

「答えは簡単だ」

「……?」

「愛しているからだ」

世界が、止まった。

リリアナの心臓が、

強く、強く打つ。

記憶は戻っていない。

過去も、契約も、使命も――

まだ曖昧だ。

それでも。

今、この瞬間だけは

はっきりとわかる。

この人を失いたくない。

「……わたし……」

言葉が、

胸の奥から溢れ出る。

「……あなたが……好きです……」

それは、

記憶に依らない感情。

魂が、選んだ答え。

アレンは、

ぎゅっと彼女を抱きしめた。

「それでいい。

それだけでいい」

二人は、

互いの存在を確かめ合うように

強く抱き合った。

命をかけた夜。

政治も、陰謀も、闇も――

すべてを越えて。

この夜、

二人は運命を選んだ。

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