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追放聖女は最強の救世主〜隣国王太子からの溺愛が止まりません〜  作者: Futahiro Tada


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枯れゆく光 ― 聖女排斥の影

枯れゆく光 ― 聖女排斥の影


翌朝。

王宮の一室で、リリアナはベッドに腰掛けていた。

カーテン越しの光が頬を照らすのに、

その瞳にはまだ 不安の影 が揺れている。

(……記憶が、うまく……繋がらない)

人々の顔も名前も、

優しい言葉も、痛みも、

手のひらから零れ落ちたように曖昧だ。

そんな彼女の前にアレンが静かに立つ。

「具合はどうだ。」

「……大丈夫、だと思います。」

彼は眉をわずかに寄せた。

(まだ無理をしている)

しかし言葉にはせず、優しく返す。

「無理をするな。

お前は休む権利がある。」

リリアナは、どこか申し訳なさそうに俯く。

「すみません……

私のせいで、いろいろ……」

「違う」

アレンの声は、鋼のように強かった。

「お前は救ったんだ。

王都の人々を」

「でも……破壊の力も……」

リリアナは自分の胸元を押さえる。

そこから、闇の牙が覗いているような感覚に怯えながら。

アレンは彼女の手にそっと触れた。

「どんな力も、お前の一部だ。

否定する必要はない。」

ブツリと、

胸を縛っていた鎖が一つ切れたような気がした。


王都の外、広場

修復もままならない惨状を前に、

民衆のさまざまな声が飛び交っていた。

「聖女が魔獣を呼んだんじゃ……?」

「破壊の力……? あれは災厄では?」

「でも救われた人だって……」

混乱の中、黒いローブを纏った影が囁く。

「恐ろしい力だよな。

聖女というより……破壊神か?」

「噂だが……

あの力で将軍たちも殺すつもりらしい。」

民衆は恐怖に敏感だ。

火種はすぐに油を吸い、炎となる。

影は満足げに笑う。

(不安は伝染する。

そして、恐怖は信仰をねじ曲げる)


議会室

そこではさらに、黒い思惑が渦巻いていた。

王弟派の筆頭、ガイゼル侯爵が嘲るように言う。

「王太子殿下は、危険な女に心を奪われたのです。

王国の未来を憂うならば、聖女を封じるべきだ。」

対して教会派の司祭長エルドレッドが穏やかに返す。

「封じる? なんと勿体ない。

あれほどの力、我らのものにできるなら

他国など恐るるに足らぬ。」

「魔獣の背後勢力をどうするつもりだ。」

苛立つ騎士団長に対し、

教会派の男が耳元で囁いた。

「黒霧の主など、聖女を餌に捧げれば良い。」

議場に重苦しい空気が満ちる。

彼らの狙いは一致しない。

だがただ一つの点で意見は一致していた。

「聖女リリアナは利用する。あるいは、排除する。」


王宮の廊下

アレンは議会へ向かう途中、

リリアナを見送った侍女から報告を受けていた。

「殿下……聖女様は、まだご自身を責めておられます。」

「…………」

アレンは奥歯を噛みしめる。

(誰も責める資格などない。

守るべき俺が、守りきれなかっただけだ)

医務官が近づき、慎重に告げる。

「殿下。

あの闇の力……放置すれば魂を侵食します。

祈りの制御が追いつかぬと、いずれ――」

「わかっている。」

(どんな犠牲を払っても、止めてみせる)


一方その頃、リリアナの部屋

窓際で膝を抱えた少女は、

自分の掌を見つめていた。

「……これは、本当に……人を救う力なの?」

光と闇。

癒しと破壊。

片方を使えば、片方が囁く。

壊せば救える

「違う……違うのに……っ」

涙が落ちる。

そのとき、控えめなノックが響いた。

「リリアナ、失礼する。」

アレンの声に、顔を上げる。

「アレン様……」

「少しだけ、散歩でもしないか?」

「わたしなんかが……外に出たら……」

「俺が一緒だ。

何があっても、お前を守る。」

彼の言葉は、

暗闇に差し込む光のようだった。

リリアナは、ほんの少し迷ってから

小さく頷いた。


王宮庭園

色とりどりの花々が風に揺れ、

瑞々しい緑が陽光を反射する美しい庭園。

アレンとリリアナはゆっくり歩いていた。

沈黙が続く。

だけど、その沈黙は居心地が悪くない。

「怖いです。」

リリアナがぽつりと呟いた。

「わたしが……何者かわからない。

誰を傷つけるかも……わからない。」

「……俺もだ。」

「え?」

「俺は、王国を継ぐ者として

あるべき姿を常に求められてきた。

だが、本当にそれが自分なのか……

いつも迷っている。」

リリアナは驚いたように彼を見た。

(この人も……迷うことがあるの?)

アレンは続けた。

「だから、迷っていい。

恐れていい。

ただ、その先を一緒に見に行こう。」

風が吹き抜け、

リリアナの髪が揺れた。

心臓がドクン、と跳ねた。

なぜなのかはわからない。

けれど、アレンの言葉は温かくて

胸が熱くなる。

少しだけ、笑みが浮かんだ。

「ありがとうございます。

アレン様……」

その笑顔は、

アレンの息を止めるほどに美しかった。

(守りたい。

この笑顔を、失わせたくない)

しかし、幸せな時間は長く続かない。


突然、広場の方角から怒号が上がった。

「聖女を出せ!」

「魔獣を呼んだ元凶だ!」

「この王国に災厄を招くな!」

民衆が集まり、暴動の兆しを見せ始めていた。

アレンは剣の柄に手を添える。

「……奴らめ。焚き付けられたな。」

「わたしの……せいで」

リリアナの顔が青ざめる。

アレンは即座に彼女の手を握った。

「違う。

お前は救った。

もし誰かが責めるというなら――

俺が、全員敵に回す。」

その言葉は静かだが、

炎よりも燃えていた。

「けれど……」

「リリアナ。

お前は、一度でも自分を裏切ったか?」

リリアナは目を見開く。

「……ううん……」

「だろう。

だったら胸を張れ。」

アレンは彼女を守るように抱き寄せ、

その背にそっと手を回した。

リリアナの心臓が跳ねる。

(あぁ……

この人は、わたしを……)

こみ上げる感情。

名づけられない想い。

それでも確かな温度がそこにある。


その光景を見つめる影がいた。

ガイゼル侯爵は不快げに吐き捨てる。

「王太子殿下は救えぬな。

……あれでは、いずれ王国は闇に飲まれる」

教会派の部下もまた囁く。

「闇の噂は十分に広がりました。

あとは民が恐れ、裁きを望むだけです。」

そして遠く、

王国の外れの塔から。

黒霧を操る存在が低く呟く。

「恐怖は熟していく。

光が枯れ落ちるその日、

器は闇へと還るだろう」

三つ巴の闇が

リリアナへと牙を向けはじめる。

少女は知らぬまま、

運命の渦の中心へ落ちていく。


夜。リリアナの部屋

眠れずに窓辺に立つ少女。

月が静かに照らす。

「わたしは……何を選べばいいの……?」

答えは出ない。

けれど、

彼の言葉が胸に宿っている。

「一緒に先へ行こう」

リリアナはそっと窓を閉じた。

(怖いけれど……

信じてみたい。

アレン様となら)

その瞬間、

夜風が彼女の髪を揺らし、

光と闇が交差する運命の幕が、さらに深く落ちていった。

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