表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放聖女は最強の救世主〜隣国王太子からの溺愛が止まりません〜  作者: Futahiro Tada


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/25

王都の罠 ― 揺れる民意と陰謀

王都の罠 ― 揺れる民意と陰謀


砦での戦いを終えた翌朝。

王都アルスターに帰還した騎馬は、大通りに集まる民衆の視線を一身に浴びた。

「聖女様だ……!」

「魔獣を退けたって本当なのか?」

「追放されたはずじゃ……?」

ざわめきは恐れと期待が交錯し、複雑な熱気を帯びていた。

リリアナは馬車の幕越しに、人々の眼差しを感じていた。

羨望、感謝、希望――そして、疑念。

(こんなにも……見られている……)

誰かの視線が胸の奥を刺し、自分が大きな渦に巻き込まれていくのがわかる。

アレンが馬上から振り向き、軽く微笑む。

「顔を上げろ。

お前は誇りある勝利を持ち帰った。」

その言葉に支えられるように、リリアナは小さく頷いた。


王宮に入ると、空気は一転して冷たくなる。

大理石の床、赤絨毯、天井画――

豪奢な空間なのに、

迎える者たちの表情は好意から遠い。

先頭に立つのは、評議の場でも彼女を鋭く批難した側近長エルドレッドだった。

「帰還、御苦労にございますな。」

「……。」

その口元には、笑みと呼ぶには不気味な線。

「聖女殿。

貴殿の力――噂は既に広まっております。」

周囲の貴族たちが囁き合う。

「魔獣を断罪する力……?」

「癒すだけではないと聞いたぞ。」

「危険極まりない……!」

視線には不安が滲む。

リリアナは拳を握り、視線を落とす。

(また……拒絶されるの?)

その瞬間、アレンが一歩前へ出た。

「彼女の力がなければ、砦は完全に落ちていた。

文句を言うなら――成果を確認した後にしろ。」

威厳に満ちた声。

その場にいた者たち全員が黙り込んだ。

エルドレッドは口角を上げる。

「もちろん。

その真価を確かめる場は、すぐ設けましょう。」

「………何をするつもりだ。」

アレンの声が鋭くなる。

エルドレッドは紙を一枚掲げた。

「王都中央広場にて――

公開祈祷儀式を。」

空気が凍る。

それは、

成功すれば聖女として絶大な信仰を得るが、

失敗すれば一瞬で偽物と断罪される、

民意を操作するための残酷な儀式。

リリアナの視界が揺れた。

(私の力は……安定していないのに……)

アレンが一歩踏み出し、低く睨みつける。

「それは――危険すぎる。」

「王都の民は、聖女に救いを渇望しております。

この目で奇跡を見せるべきだと思いませんか?」

その問いは、否とは言えない形に仕組まれていた。

王都の空気を読めば、

公開儀式は必然だと結論づけられる。

「リリアナにはまだ制御訓練が必要だ。

それまでは許可しない。」

アレンは鋭く拒んだ。

だが、エルドレッドは冷笑する。

「王太子殿下が、ひとりの女の護りすぎで

政治を誤られないことを祈っておりますよ。」

挑発も、疑惑も、嫉妬も――

すべてが混ざった一言。

アレンは拳を握りしめる。

だが、その瞳はリリアナを見て揺れた。

(私は……どうしたら……)

声は震えて出ない。


応接室で二人きりになると、アレンは机に拳を叩きつけた。

「エルドレッドめ……!」

怒りが噴き出す。

幼い頃から知る王都の腐臭。

利用し、落とし、陥れる者たちの手管。

アレンは深く息を吐き、リリアナの前へ膝をついた。

「リリアナ……

お前が何を望むのか、聞かせてくれ。」

リリアナの胸が熱くなる。

「私は……

私を信じてくれた人たちを救いたい。

そのために……力を見せるべきだと思うんです。」

恐怖はある。でも――逃げない。

アレンは苦しげに視線を伏せた。

「……お前はいつも、他人のことばかりだな。」

そして――

迷いを断ち切るように彼女の両手を取り、真っ直ぐ見つめる。

「なら俺は、政治を使ってでもお前を護る。」

「アレン様……?」

「お前の失敗を望む者がいる。

だから――俺は絶対にそんな結末を許さない。」

その瞳は真剣で、強い炎が宿っていた。

(この人は……こんなにも……私を……)

不意に、

アレンの指先がリリアナの指先に触れる。

その距離があまりにも近く、

息が触れた気がして、

心臓が音を立てた。

「何があっても、俺を信じろ。

俺も――お前を信じている。」

胸が熱くなる。

どう返していいかわからず、俯く。

「……私も……信じます。

アレン様を。」

小さく、けれど確かな言葉。

アレンの表情が緩んだ。

それは、戦場では見せなかった柔らかさだった。


部屋を出たあと、廊下の影で誰かが息を潜めていた。

黒い衣、冷たい瞳。

手にした羊皮紙には――契約書。

聖女排斥連盟

聖女失墜計画 起案

男は薄笑いを浮かべる。

「王太子が彼女に傾くほど――

崩し甲斐がある。」

床に落ちた影が、蛇のように細長く歪んだ。

そして囁く。

――深淵はすべてを見ている

――救世か滅びか

――答えを急げ、光の器

黒い囁きが王都へ広がり始める。

民の祈りと恐れ。

希望と疑念。

それら全てが

聖女リリアナへと向けられる。

追放された少女は

いま、国全体の運命を揺るがす存在となった。

だが――

その背には必ず、王太子の影がある。

救い合う絆は、確実に形を成していく。

アレンは静かに誓った。

「俺が、リリアナを護る。

必ずだ。」

リリアナもまた、小さく祈った。

どうか――光を選べますように。

王都の鐘が鳴り、

新たな戦いの幕が上がる。

物語は、恋と陰謀のステージへ――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ