第1話:開幕、バーチャル監獄
目が覚めた瞬間、世界が白かった。
いや、真っ白。天井も床も壁もない、方向感覚が狂うくらいの完全な空間。
「……へ?」
とっさに声を出して、喉の感覚が自分のものだと確認する。
直後、頭の中に──いや、脳内に直接、電子音と共に響くアナウンスが流れた。
『受刑者番号0410、スイセイ。あなたは"社会不適合"により、バーチャル監獄へと収容されました』
「いやいやいや、何それ。……どっかのVTuber企画のドッキリ?」
『罪状:極度の引きこもりによる社会不適合、及びコンテンツ生産意欲の欠如』
「はああ!? あたし、何も悪いことしてないし!! てか“欠如”って何よ、こちとら自己表現の達人だわ!」
文句を言いながら、自分の手元を見る。……知らない服、知らない手。
画面の中に映るのは、ツインテールの青髪アイドル。
「…………は? ちょ、待って、誰このアイドル……いや、これ、私!?」
鏡もないのに、自分の姿がわかる。不思議と感覚に違和感はない。
どうやら、ここは完全な仮想世界らしい。
『更生プログラムを開始します。手段:配信活動。獲得した「いいね」数が釈放基準となります』
「なにそれ。つまり……いいね稼ぎで、出所できるってワケ?」
笑わせないでほしい。
アイドルごっこで「いいね」もらって、それが更生だなんて──
それ、むしろ一番“病んでる”のはあんたらじゃない?
「まあ、やれってんなら、やるしかないか」
ステージは、すぐに与えられた。というか、強制ログイン。
セットも照明も用意されていて、歌うしかない状況。
他の「受刑者」たちは、媚を売るようなキラキラなパフォーマンスでいいねを集めていた。
私は、ただ静かに立つ。
「……別にさ、人気とかどうでもいいのよ。ただ──誰にも邪魔されずに、歌ってたいだけ」
そして、マイクがオンになる。
――歌い出す。
誰にも聞かせるつもりのなかった、自分だけの言葉。
けれど、その旋律が響いた瞬間、モニターがチカチカと明滅し、観客席の映像がノイズまみれになった。
「……あれ? なんか変じゃない?」
【ERROR:視覚制御エリア オーバーフロー】
「ちょ、配信事故!? 誰か、これ止め──」
そう叫んだ瞬間、画面がフリーズした。
その中に──ノイズの奥に、文字が浮かぶ。
『 たすけ て 』
『 ここは しけい じっこう けいかく 』
「……は?」
あまりに唐突すぎて、最初は何かの演出かと思った。
でも違う。このメッセージは、システムの誰かが送っている。
誰かがこの“監獄”から……外の真実を暴こうとしている。
「これ、本当にただの“更生施設”……なワケ?」
胸の奥がざわつく。これは、単なる懲罰じゃない。
私の歌が──いや、この声が、この世界を揺らしている。
歌うたびに世界がバグる。
歌うたびに、“見てはいけないもの”が見える。
なら……歌うしかないじゃん? もっとでっかい声でさ。