失業
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:二人が出会ったら……
ぼくたちが出会うとき、始めからぼくの方はめぐみのことをいろいろ知っているんだよね。
でも、そのときに出会うめぐみは、まったくぼくのことを知らないなんて、なんか変な感じだな。
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:Re:二人が出会ったら……
そうね、今の時間の純一はもちろん、今の私たちの関係を知ってるはずよね、何も言わないけど、これって本人公認の浮気かしら?
あ、でも、本人だから浮気とは言わないのかな??
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:もう一人のぼく
三ヵ月後のぼくとは、今ぼくたちがこんな不思議な関係になっているってことは話したりしないの?
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:Re:もう一人のぼく
うん、そうね、まったくしないわよ。
まあ、忙しいみたいでほとんど会えていないけど、何事もないように普通にお付き合いしているよ。
なんでだろう、恥ずかしいのかな?
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メールを見て、将来の自分を想像してみる。
考えてみると、以外にそんなものかもしれない。
いくら過去の自分本人とは言え、彼女が自分以外の男と楽しそうに話をしているのが面白いわけがない。
でも、それが将来めぐみと出会うために必要なプロセスであり、絶対条件であることを知っているだけに、どうすることもできないジレンマに陥っているのだろう。心を落ちつかせるためには知らない振りで普通に生活するくらいしかできないに違いない。
未来の自分の姿とはいえ、同じ男として同情してしまう。と同時に近い将来、確実にそれと同じ状態に自分が陥るとわかっているだけに、今からげんなりしてしまう。
できるだけ自分の未来については聞かないようにしているが、会話の端々に未来の自分の姿が見え隠れする。例えば、三ヵ月後の純一は言葉少なで、大人の雰囲気が漂っているらしい。時々視線を感じて振り向くと、黙ったままじっとめぐみのことを見つめていて、ドキドキしてしまう、と書かれていた。
今の純一もどちらかといえば、無口な方だが、自分でも大人っぽくはないということはわかっている。彼女との運命の出会いの時まであと一ヶ月を切ろうとしていた。それまでの間でぼくの身にいったい何が起こるというのだろう。
純一は期待とともに、不安も膨らんでいくのを感じていた。
*
次の日、いつものようにアルバイトに行った純一を待っていたのは、店長からの残酷な一言だった。
「すまないね、来週でこの店をたたむことになったんだ」
突然といえば突然だった。駅前の一等地、以前に比べればお客の入りも少なくなったとはいえ、他に競合になる店もない。経営は順調なのだろうと思っていたのだが、実情は駅前という場所だけに賃貸料がかさみ、やはりネット配信動画の影響は大きく、経営的に難しい状態だったというのは店長の弁。
そこに来て次の契約更新で賃料の値上げが決まってしまった。時代の流れ的にもレンタルビデオ店を続けていくのは難しいと判断し閉店することを決めたということだ。
クビになったのは確かにショックだったが、きっとこれがきっかけで転職する先がめぐみの言っていた『広告代理店』なのだろうと、プラス思考で考えることができるのが、せめてもの救いだ。
しかし、現実には転職雑誌を見ても、ハローワークに通っても、それらしい仕事は見つけられない。
結局、新しい仕事は決まらないまま、レンタルビデオ店での仕事は終わりを迎えた。心配をかけまいと、めぐみにはまだ何も言っていなかったが、実際職をなくしてしまったのだから一応報告くらいはしておいたほうが良いだろう。
純一は最後のアルバイトからの帰り道すがら、めぐみにメールを打った。
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:失業(>_<)
たった今、アルバイトをクビになりました。
ぼくはいままで駅前のレンタルビデオ店でバイトしていたんだけど、急にクビを言いつけられてしまいました。
ぼくの働きが悪かったわけではなく、お店が閉店するための解雇です。
めぐみさんと出会うまでにのこされた時間はもう一ヶ月を切ったというのに、それまでにきちんと就職できているのかとっても心配だよ。
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:Re:失業
ねえ、純一が働いていたレンタルビデオ店ってもしかしてTレンタル?
私も良くそこのお店利用していたんだよ。もしかしたら私たちそこで会っていたのかもしれないね、その時の純一は服装や格好が違うから気づかなかったのかな?
ここだけの話、私結構Vシネマとか好きで、毎週のようにそのお店でこっそり借りていたんだよ。そういうのってあんまりネット配信ではやってないんだよね。
Tレンタルなら潰れちゃっても大丈夫。その場所は次に喫茶店を併設したケーキ屋さんが入るの。そこで私たちは出会うことになるのよ。忘れないで会いに来てね。
時間は正確に流れてるよ、心配しないで。
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純一はメールを受け取り、思い出していた。
そういえばVシネマばかりを借りに来る美人のOLさんがいたっけ、まさかあの女性が『めぐみ』だったのか、あと一日早くわかっていればお店の会員証控えから彼女の情報を知ることができたのに。
それでも綺麗なお姉さん風の彼女の顔は記憶の中でおぼろげながら思い出すことができる。
なるほど、そうか。だからケーキ屋で偶然であった彼女にも声をかけることができたわけだ。
純一は自分のひらめきに手を打ち鳴らす。
しかし彼女の方はさっぱり自分のことを覚えていないなんて、それは少しショックだった。もっとも実際店員の顔なんて記憶に残らないものかもしれない。純一も毎日通うコンビニの愛想の悪い店員の顔を思い出してみるがうまくいかなかった。そんなものかもしれない。
『そこで私たちは出会う』
めぐみからのメールに少しは安心したものの、現実的には何も進展していない。純一が職を失い、再就職先が見つからないことには、なにも変わりはないのだ。
求人情報誌やハローワークに繰り返し足を運んでは見たものの、広告代理店の募集などどこにもなかった。
ひとまずは別の仕事に就こうかとも思ったが、ここでの選択が未来を変えてしまうのではないか、と考えるとなかなか思い切った行動に移ることはできない。
自分がこんなに悩んでいることはわかっているのだから、三ヵ月後の自分もこれから取るべき行動を教えてくれたって良いものなのに、とも思う。
だけど、本当にたった一月もしないうちに就職が決まっているのなら、そろそろ何かしらの動きがあってもいいはずだ。
せめて将来のぼくがどこで働いているかさえわかったら楽なのだけど……
いや、確認するのは至極簡単だ。彼女に未来のぼくがどこで働いているのかを聞けばいいんだ。未来を知ることには、多少抵抗はあるが、働いている会社名くらいは問題ないだろう。働くことが決まっている社名がわかれば、そこを目指して就職活動を行えばいいわけだから安心だ。
早速純一はめぐみにメールを打った。
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:しつもん
ちょっと聞いてもいいかな?三ヵ月後のぼくは本当に広告代理店に勤めているの?
今、一生懸命に就職活動をしているのだけど、一向に仕事が決まらないんだ。未来の自分が勤めている会社なら採用してもらえる可能性が高いかな、と思って……
未来を知っていて行動するのはずるいかもしれないけど、ぼくを助けると思って教えてくれないかな。
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:Re:しつもん
しょうがないわね、特別に教えてあげる。
でもこの場合、過去に就職してたから私が教えられるのか、私が教えたから就職できたのか、どっちが先になるんだろうね?卵が先か、ニワトリが先か?っていう疑問に似てるわね。
それで、今の純一の働いている会社だけど広告代理店のA社って聞いているわ、がんばってね。
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すぐに戻ってきた返信のメールを見て、純一は驚いた。A社といえば、地元ではかなりの優良企業だ。その辺の就職情報誌にほいほい求人が載るような会社ではない。
純一は一か八か、直接A社に乗り込んでみようと考え、所在地を調べ始めた。
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