Vシネマ好きのお姉さん
今日もねずみ色のスーツに身を包んだサラリーマンが、一昔前に人気のあったアメリカドラマをカウンターに持ってくる。
リアルタイムで物語が進んでいくという例のあれだ。
一回にレンタルする本数はいつも二本ずつ。
そして、その間には必ず一本の<アダルトビデオ>がはさまれている。
毎週末に必ず訪れるこの男にとって、アメリカドラマはただの隠れ蓑にすぎないのだろう。
以前、いたずら心でパッケージの開封がわかるように、小さい紙切れをそれぞれにはさんで貸し出しをしたことがあった。
するとどうだろう、見事にアダルトビデオにのみ開封の痕跡が認められたのだ。
そんな行為も長いもので、ドラマシリーズはすでに第4シーズンに突入している。ただの隠れ蓑にすぎないのに、きちんと順を追って選んでいくあたり、男の几帳面さを感じる。
夜も十二時を間近に控えたこの時間帯、比較的客数は少ない。
それでも男は、カウンターに立ちながら目つきの悪い顔で、周りを気にするようにせわしなくあたりを見回している。
ピシッと決めたスーツと袖口から覗く高級そうな時計から、一流企業のサラリーマンなのだろうと推測されるが、やっていることはそのへんのおっさんといっしょだ。
そんな様子を知りつつ、レンタル店の店員はゆっくりと商品のバーコードを読み取っていく。
気だるい深夜のレンタルビデオ店。
男の後ろにOL風の女性が並んだ。
彼女もこの店の常連で、この店の客の中では飛びぬけて美人だ。
けして服装が際立って派手ということはないのだが、整った顔立ちとゆるく巻かれた長い髪はいやが応にも目を引いた。
彼女の登場で男のあわてぶりは輪をかけて激しくなった。
下を向いて顔を隠し、せわしなくカウンターを指で叩き続ける。
「三本で九百円になりまぁす」
店員はそう言って、わざわざ<アダルトビデオ>を一番上に載せる。
レンタルの袋に入れる作業も丁寧にゆっくりと行った。
おそらく後ろの女性の目にもビデオの内容は見えただろう、さすがに彼女も大人。あからさまに顔をしかめるようなことはしなかった。
しかし、彼女がその男の後ろから一歩あとずさったのを店員は見逃さなかった。
サラリーマン風の男が千円札をキャッシュトレーにたたきつける。
店員がのんびりとお釣りを準備する間、男の机を叩く指のスピードは加速し続けていく。
男の手に百円玉が戻されると、男は商品をひったくるように店を出て行った。「ありがとうございましたぁ、」と店員の間の抜けた声が店内に響き渡る。
続いて美人OLの女性が商品を置いた。
この女性も、かわいい顔をしているのに借りていくビデオはいつも強烈だ。
今日もレンタルの内容は、いつもどおりの<極道系Vシネマ>だった。
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