彼の部屋のカレンダーで、私の誕生日が真っ黒に塗り潰されていた。
バクバクと乱れた心音が、やけに煩い。
目の前にあるカレンダーで。
私の誕生日が、真っ黒に塗り潰されていた時。
初めて彼の部屋に来た喜びが、一瞬で暗転した。
「なん……で……?」
思わずこぼれた声に被さるように、ドアから明るい声が響く。
「美葵、お待たせ~。お客様用のカップどこにあるかわかんなくてさぁ」
陣がいつも通りの笑顔で、お茶を運んでくる。
片手にお盆、もう片手には小さな折り畳みテーブル。
私は慌ててカレンダーから手を離し、陣からお盆を預かる。と、彼は手際よくテーブルを置いて、引き取ったお盆を乗せた。
「飲んでから、レポートまとめよっか」
学校の課題で出た、フィールドワーク。
地元の湧き水を調べ、歴史や地域との関わりを文にして提出する。
私は交際相手の陣と組んだ。
勉強の名の元、二人で現地写真を撮り、資料を集めて。
「じゃあ仕上げは俺んちで」と誘われるがまま、彼の家を訪れた。
部屋は二階。
趣味が並ぶ本棚、整然とした勉強机、青い布団が乗るベッド。
よく知る匂いが満ちた空間にソワソワしながら、お茶を淹れてくれてる陣を待ち。
壁にカレンダーがあったから、つい。
何か書き込んでるかもと、見たのがいけなかった。
まさか私の誕生日が、乱暴に、真っ黒に、消されているなんて。
(どういう意味なんだろ)
祝って欲しかったわけじゃない。
そりゃ少し期待はしてたけど。でも。
想像してなかった事態に、手が震える。カップが受け皿と当たって、音が出た。
「どうかした?」
不思議そうに尋ねる陣に、私は青い顔を上げる。
「あの……、カレンダー見ちゃって……」
「っ!」
陣の顔に、動揺が浮かぶ。
「もしかして読めちゃった?」
「え」
「まだ内緒にしておきたくて、慌てて消したんだけど……」
「?」
「やっぱマジックって、元の文字が浮かんじゃうのか」
「??」
彼が何を言っているのかわからない。
おもむろに立ち上がった陣が、カレンダーで私の誕生日を確認している。
「下の文字、見えるなぁ。サプライズにしたかったのに」
めっちゃ良い笑顔で、こっちを向いた。
「というわけで来月、美葵の誕生日空けててね。インテンドーミュージアム行こう」
「えっ?」
「チケットがさ、運良く取れたんだ。行ける範囲だし、記念に」
「塗り潰したのって、予定隠すため……?」
「部屋に入る前、少し待ってて貰ったろ? でも結局バレるんなら、消すんじゃなかった」
残念そうに、ヤツは言うが。
こンのポンコツ! 人騒がせが過ぎるんだわ!
お読みいただき、有難うございます!
この後カレンダーは多分、ミマリちゃん確認の元、交換すると思います。
誕生日塗り潰されるなんて、プンスコものですからね。新しいカレンダーに赤いハート書き込まれるかもしれません。
高校生にするか、大学生にするか。お部屋行っちゃうミマリちゃんに、イマドキってどうなんだろ~と、迷ったので「学校の課題」という情報だけにしました。
なお「インテンドー」は誤字にあらず、察してください(´艸`*) 土日の倍率はすごいらしいですよ。きっとキャンセル枠を勝ち取ったのね!
なろうラジオ大賞参加作品、8作目でした。有難うございました!!