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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

【読切】 魔法使いが人間失格といわれる世界で魔法使いとして生まれたので、緩~く適当に学園生活を謳歌しようと思った話~序章~【適当に生きようと思ったけど、出来るとは言ってない】

作者: 網戸 竜司

「生まれながらの人間失格、『魔法使い』がいるぞ!」

 

昼休みのチャイムが鳴り、廊下に出た瞬間これだ。

渡り廊下の向こうから、騎士科(貴族のボンボン)の群れが一斉にヤジを飛ばしてくる。

 

「本当だ、あ〜俺は『非魔法使い』に生まれて良かったぜ!」

「差別されずに生きられるからなぁ!」

「一生奴隷みたいに扱われるなんて、魔法使いに生まれた時点で『人間失格』だよな」

いつもならスルー出来る罵詈雑言だが、今の俺は腹が減っている。


「うるっせえな空も飛べねえ口だけのクズどもが。全員燃やしてカスにしてやるよ」


俺の一言で、そそくさと逃げていく騎士科の男共。

ちょっと言い返されるだけで怖がるなら、最初から喧嘩売るなよ。

追いかけてビビらせるのも楽しいかと思ったが、とにかく腹が減っている。

正直午前の授業の半分くらいは「腹減ったな」しか頭になかった。

 

急いで食堂に向かう俺の背後から「アル!」と声が響いた。


「オリヴィアか、どうした?」振り向きながらも、足は止めない。

ちなみに『アル』というのは、アルフレッドという俺の名前のあだ名だ。

俺の所属する『魔術科』の奴らには、あだ名で呼ばれることが多い。


足早に廊下を進む俺の隣に並び、小走りをしているのはオリヴィア。

同じ魔術科所属で、しっかり者の女子だ。

艶やかなライトブラウンのボブヘアから覗く、アーモンドアイは美しい煌めきを宿している。

 

「どうしたって、今騎士科の奴らに絡まれてたでしょ?」

「あぁ、でも尻尾巻いて逃げてったよ。ちょっとからかっただけなのにな」

「そりゃ、あなたなら本気でやりかねないからね」

オリヴィアは「というか、アル。昔、非魔法使いを本当に燃やしかけたっけ」と遠い目をしている。

 

「そうだったか?」

「そうよ! 入学してきてすぐ私が騎士科に囲まれてたら、アルが無言であいつらの制服燃やしたんでしょ!」

「あぁ、あれか。まだ五歳だったから上手く魔法使えなくて、スラックスしか燃やせなかったよな」

 

「今だったら全身燃やし尽くしてやるのに」と呟く俺を、オリヴィアが白い目で見てくる。

「アルならやりかねないわね……人殺しはやめてよ」とオリヴィアが念を押してくる。殺さなきゃセーフなのか。

 

「それに、魔法使いの魔力を制御するための『ウィザードウォッチ』があるから無理でしょ? せいぜい身体強化の魔術を巡らせるくらいで」オリヴィアは、自分の左腕に巻き付いている赤色の腕時計を忌々し気に見つめた。


「この学校を卒業したら、刻印入れられる前に逃げてこんなクソ腕時計ぶっ壊してやるよ」俺の言葉に、オリヴィアは困ったように笑う。




俺たち魔法使いは、この世界の嫌われ者だ。正直人権はない。

『非魔法使い』と呼ばれる、魔法を使えない連中がこの世を取り仕切っている。


『ウィザードウォッチ』というのは、その名の通り『魔法使いの時計』。

魔法使いの魔術行使を規制するため、俺たちの住むアドレスティアル王国は勿論、世界中の多くの国で魔法使いへの着用が強制されている。

さらに位置情報は王国に随時送られている。

つまりウィザードウォッチがついている限り、俺たち魔法使いに自由もなければ、魔術を行使することも許されないのだ。


さらにこのアドレスティアル王国の魔法使いは、魔術が発現した段階で『王都ロイアルミナ学園』の『魔術科』に強制的に入学させられる。

俺たちが今いるのは、もちろん王都ロイアルミナ学園だ。


学園を卒業した後は、王国に魔法使いを管理するナンバーを焼き印され、一生奴隷と等しい生活を送らされる。



 

「アルなら本当に逃げ切りそう」

「お前もやりそうだ、脳筋だし」

「なんですって? 斬り殺されるのと突き殺されるの、どっちが良いかしら?」

「すぐ人殺しそうなのはお前の方だろ……」

オリヴィアと言い合いをしている間に到着した食堂で、空席を探す。


『王都ロイアルミナ学園』には魔術科の他に、貴族のボンボンやお嬢様が通う『騎士科』『淑女科』。

他国からの留学生や、学力の高い平民が通う科など数多くの科が存在する(『魔術科』はカースト最底辺なので、蔑みの対象だ)。


今日も多くの生徒で混雑している食堂を見渡していると、「アル!」と元気な声が響く。


「アル! こっち!」

「マット、待たせたな。お目当てのオムライスは注文できたか?」

「ばっちり! 身体強化で一番乗りだぜ!」

「ランチのために魔法使わないでよ恥ずかしい……」


ウィザードウォッチの抜け穴を利用した身体強化魔術を用いるほど食欲旺盛なのは、同じ魔術科のマットだ。

俺の後ろについてきたオリヴィアは呆れ顔。


「良いじゃん! いっつもいけ好かない騎士科や淑女科の連中の悔しそうな顔、見ものだったし!」

「性格悪」

「毎回懲りずに虐めようとしてくるあいつらが悪い」マットは悪びれず肩をすくめると、「アルとオリヴィアも頼んできたら? 注文の列長くなる前に」と四人掛けのテーブルを占拠した。


「んじゃ、俺たち行ってくるから席の番は頼んだ」とマットに言って、俺とオリヴィアは注文の列に並ぶ。

 

隣のオリヴィアと「今日は何にしようかしら」「マットのオムライス旨そうだったな」と他愛ない会話をしていると、食堂の中央から「いってーな!!!」という怒号が飛んできた。

 

大方、魔術科の誰かが、騎士科にいちゃもんつけられてるんだろう。

見なくても分かるが、声のする方へ顔を向ける。

 

ビンゴだ。騎士科の白い制服に囲まれ、黒い制服を纏った魔術科の女子がもじもじ謝っている。


「おいおいおい魔術科の雑魚がこんなとこで突っ立ってんじゃねぇよ! 邪魔なんだよなぁ!」

「え、あ、ごめんなさい……」

「謝ってすむ問題じゃねぇんだよ! お前ら魔法使いのごみは、俺たち貴族の視界に入ってくんなよ!」

「ほら言ってごらん?『生きててごめんなさい』ってさぁ!」

「あ、ぅ……」


俺やオリヴィア、マットが異常なだけで、たいていの魔法使いは、非魔法使い(特に貴族)に絡まれると委縮してしまう。何も言い返せず暴力を受け続けるだけだ。

今絡まれている女子もそうだ。


どうしたもんかと考えているうちにも、騎士科の野郎どもの話は続く。

 

「てかお前見ない顔だな? ん? よく見せてみろよ」

「へぇ、結構ソソる顔してんじゃん。俺の奴隷にしてやろうか」

「は? 独り占めはずりいだろ、おれにも貸せよ」

「共同で良くね?」

 

表向きは奴隷制度を認めていないアドレスティアル王国だが、実際は貴族による魔法使いの奴隷化は黙認されている。

特に女の魔法使いは性奴隷として多くの貴族が飼っている。

アドレスティアル国民の多くにとって、魔法使いの奴隷化は暗黙の了解だ。

 

「あ、あの……やめてください……」騎士科の男たちに体を無遠慮に触られていた女子が、やっと抵抗の声を上げる。


しかし、騎士科の男が大声で怒鳴り返す。

 

「は!? お前、魔法使いの分際で俺らに逆らうつもりかよ?」

「デケェ乳つけてるお前が悪りぃんだろ、男誘ってるとしか思えねーよ!」

「つーか魔法使いの奴らって生まれながらのカスのくせに、顔とか身体だけはやたら良いんだよなぁ!」

「それな! 俺も早く大人になって魔法使い奴隷にして〜!」

 

「在学中の奴隷化はルール違反になるもんな」とつまらなそうにしている騎士科の男。

いや、卒業後も一応奴隷化は禁止されてるからな? とツッコみそうになる。

 

「まあでも、大人にばれなきゃ大丈夫だろ」

「いやバレても黙認してもらえるっしょ。だって俺ら、非魔法使いで貴族の子どもだし!」

「んじゃ、さっそく。向こうでじっくり遊ぼうぜ、俺らの奴隷ちゃん」

 

さてそろそろ、騎士科の奴らのケツに火でもつけてやるか、というタイミングで「どっ」という鈍い音が聞こえた。

その直後、同じ音が数回聞こえて、先ほどまで騒いでいた騎士科の連中から情けない悲鳴が上がる。

 

俺は隣を見て「ナイスショット」と拍手を送る。

男共を成敗したのはオリヴィアだった。手には数本のフォークを持っている。


「全部命中ですな。お見事、オリヴィア」

「困ってる人は見捨てられないのよ、注文待ちの列でよかった」

「武器が無限だからな」と俺が頷くと、オリヴィアも満足げに笑った。

「えぇ、フォークと言う武器がね」オリヴィアは手元にフォークを補充しながら頷く。歴戦の戦士か。


オリヴィアは、貴族だ。

そのため幼少期から宮廷剣術など多くの武術をマスターしていた。

しかし、魔術が発現したタイミングで魔術科に入れられてしまったが。

それでも自己研鑽は欠かしていないようで、手物にあるものはなんでも武器にして戦える。

多分そこらの男より普通に強い。


「ありがとうございます、美味しく頂きますね」オリヴィアの声ではっと我に返る。

オリヴィアは基本、正しい貴族として品のある言動を心がけており、今もにこやかに昼飯を受け取っている。

俺も自分の昼飯を慌てて受け取る。


オリヴィアはランチの乗ったトレーを持ったまま、絡まれていた女子生徒に近づいてく。


「あなた、最近入学してきた子よね? えっと名前は……」

「み、ミアです……」


『ミア』と名乗った女子は、今年度からロイアルミナ学園の魔術科に入学した生徒だ。

魔術が発現するのは大体五歳前後だから、俺たちの年齢で入学してきたミアは注目の的だ。

 

珍しいタイミングの入学だけではなく、ミアの外見も注目される要因だろう。

ピンク色で背中まで伸びる髪、おっとりとした垂れ目も髪と同じ優しいピンクだ。

そして騎士科が言っていたように、非常に発育の良い体型をしているため(主に胸部)、入学してすぐにも関わらず男共に目をつけられたようだった。


まだあまり話したことのないミアに、オリヴィアが改めて自己紹介をする。

「そう、ミア。私はオリヴィア。あなたには当たらないよう攻撃したつもりだけど、大丈夫だったかしら?」

「あ、もしかしてオリヴィアさんが助けてくださったんですか……? あんな遠くから、魔法でしょうか? ありがとうございます!」

「どういたしまして、でも魔法じゃないわよ」

オリヴィアの言葉に、ミアは首を傾げる。

俺が「フォークだ」と伝えると、ミアは「ふ、フォーク……?」とさらに首を傾げる。


ミアへの説明は諦め、「ミア、俺はアルフレッドだ。アルとでも呼んでくれ」と軽めの自己紹介をする。


オリヴィアの投げたフォーク攻撃でぶっ倒れていた騎士科共は、仲間たちに抱えられどこかに消えた。

きっと今頃医務室だろう。

俺たちが攻撃したとばれない点でも、オリヴィアの遠隔攻撃(フォーク投げ)は役立つ。


手にトレーを持ったまま困惑しているミアに、「まあ困ったことがあったら、オリヴィアの側にいろ。こいつは物理攻撃強すぎるから、非魔法使いの奴らも手出せねぇんだよ」と安全策を伝える。

 

「そんなこと言ったらアルもそうでしょ? ウィザードウォッチの抜け穴を探して魔法を使うのが上手なの。身体強化していつも騎士科共を返り討ちにしてるから、何かあったら頼れば良いわ」オリヴィアがドン、と肩をぶつけてくる。

おい、俺のスープがこぼれたらどうしてくれる。

 

「まあ、俺に出来ることなら」

「大概何だって出来るでしょ」

「いやフォークを長距離投げるのは無理」

「それは私がやるから気にしないで良いわよ」ふふん、と胸を張ったオリヴィアは、そのままミアに声をかける。


「ミア、まだ席が決まってないなら私たちのところに来る? うるさいのも一緒だけど」オリヴィアが離れた席に座るマットを見る。


「あ、じゃあ私もご一緒してもいいですか? オリヴィアちゃんと、えっと、アルくん?」

「あぁ、案内する」

「私の事はオリヴィアで良いわよ」

「あ、ありがとうオリヴィア……!」

安心で顔を綻ばせ、後をついてくるミア。




マットが歩いてくる俺たちに気づいたようで、大きく手を振っている。

そんな主張しなくても見えてるよ。


「おーい! アルとオリヴィア何やってんの! 早くしてよ俺のオムライス冷めちゃうじゃん!」

「うるっさいわね今向かってるでしょ!」

マットの言葉に、オリヴィアが後ろから吠える。

目立つからでかい声で会話すんなよ……。

 

マットの待つ席に着くと、俺の後ろからひょこりと顔を出したミアを見て「誰これ」とマットが目を真ん丸にさせた。


「誰ってお前。今年度から入学してきたミアだよ」

「あー! そいえばいたかも! 俺マット! よろしく!」

「よ、よろしくお願いします!」

「こらマット、声が大きい。ミアが驚いちゃうでしょ」

オリヴィアはマットを叱りながら、ミアと隣り合わせで座る。


必然的に俺がマットの横に腰を下ろすと、「てかオリヴィアまたフォーク投げてたじゃん!」とマットが嬉しそうな声を上げる。

オムライスを食いながら話すな。飲み込んでからにしろ。


「えぇ、まあ。あのくらいの距離なら余裕よ」

「えっと……あの時は、オリヴィアさんがフォークを投げて助けてくれたんですか!?」

「そうよ」

オリヴィアは優雅に頷くと、「切れるものと刺せるものなら何でも使いこなすわよ」と物騒なことを平然と言ってのけた。

 

「オリヴィアの使いこなすって、殺すって意味では……?」

「マット、何か言った?」

「イイエ何でもアリマセン」

顔をぶんぶん横に振るマットを見て、「よろしい」とオリヴィアは満足げ。


俺はサラダをつつきながら、「いざとなればマットの足もあるからな」と呟く。

ミアは俺の言葉を拾って、目を見開き震え始めた。


「え? ま、マットくんの足をその……ちぎるんですか……?」

「おい。ミアの考えるオリヴィア、とんでもねぇ怪物だぞ」

「実際やりかねないだろって、いたたたた!! ギブ! ギブですオリヴィア様!」

「離してやれ口が滑っただけだろ」首を絞め落とされかけているマットをフォローするため、オリヴィアに声をかける。

が、「『口が滑った』ってなぁに、アル? 言わないけど、いつもそう思ってるってこと?」とオリヴィアは顔に筋を浮かべながら美しい笑みをたたえている。

 

「やべ」

「お前も口滑らせてんじゃん」

「え、え……じゃあ本当にマットくんの足を……!?」

本気で震え始めたミアに、オリヴィアが慌てて「違うわよ」と弁解する。

 

マットがスラックスの裾をめくり、「片っぽ義足なんだ、俺!」と明るく笑った。

 

「スラム街育ちでさぁ。魔法使いとか非魔法使いとか関係なしに暴力が蔓延ってる場所だったから。こう、バキッとやられちゃいました! ガキの頃に!」

「やめなさいよその軽いノリの説明」

「さっきまで俺の義足武器にしようとしてた奴に言われたくないですけどね?」

マットはオリヴィアに言い返して、話を進める。


「んで、俺家族もいないし金もないから、ちょっと怪しいルートで格安で義足手に入れててさぁ」

「今更隠すなよ。スラムあたりの胡散臭い業者から手に入れてんだろ」

「一字一句その通り!」

「誇らしげにしないでちょうだい」

「そいつの作る義足って『足の長さ揃ってればおっけー!』くらいの粗い作りだから、先が杖みたいにとんがってんの」そう言いながら、マットは義足のついた足を軽く揺らす。


ミアが「なるほど……」と頷く。

 

「つまり! 俺の義足は、オリヴィアからすれば突きもぶん殴りも出来る、ちょっと短めの武器ってワケ!」

「なるほど……?」

「おい、説明がぶっ飛びすぎてミアがついて来れてねぇぞ」

「でもそれ以上説明のしようがないわよ」


マットの途中を省きまくった説明に首を傾げまくるミア。

思わずツッコむが、オリヴィアもマットに同意見のようだ。

まぁ確かに、人の義足武器にする説明は出来ねぇよな……。


「強いて言うなら、もっと強度上げてもらえないかしら? こないだ騎士科の馬鹿を小突いた時、すぐヒビ入っちゃったじゃない」オリヴィアが不満げに呟く。マットの義足、自分専用の武器として扱いすぎだろ。


「そりゃ俺の義足は攻撃用じゃないんでね!?」

「ていうか、ありゃ小突くってレベルじゃなかった。ブッ刺してただろ」


オリヴィアの『突き技』の威力はすごい。騎士科の男の体に、穴が開いたんじゃないか心配になるレベルだった。

俺たちが言い合いをしていると、「ふふ……」とミアが小さく笑った。

 

「あ、やっと笑ったな」

「え……私、笑ってませんでした?」

「うん、ずっと不安そうな顔してたよ!」

「まぁ、新しい環境に直ぐに慣れるのは難しいわよね。何かあれば頼って。さっきみたいな輩はすぐ成敗してあげるから」

優しく告げるオリヴィアに、「出来れば暴力じゃない方法でね?」とマットがツッコむ。

 

「なによ、あんたもアルも身体強化の魔法使ってぶん殴ってるじゃない」

「いや俺は殴ってない! アルは殴ってるけど俺は殴ってない!」

「おい俺だけ差し出すなよ。お前が逃げるから俺が応戦するしかないんだろうが」

「全くこれだから野蛮な男どもは……」


俺たちの責任の擦り付け合いに溜息を吐いたオリヴィアに、俺とマットは息を合わせて「「お前にだけは絶対に言われたくない」」と返した。


言い合いをする俺たちの声にかき消されそうになりながら、ミアが「あの……」と声を上げた。


「それじゃあ私、相談しても良いですか?」

「なぁに? 私たちにできることなら何でも言って」

オリヴィアの女神ような笑みに安心したのか、ミアがぽつぽつと話し始めた。

 

「最近……淑女科の方が私の後をついてくるんです……」

「淑女科?」オリヴィアが不思議そうに首を傾げた。

「ってことは女だよなぁ? 騎士科みたいな下心で、とは考えづらいな」

「まぁ、嗜好は人それぞれだから何も言えないけど……それは複数人?」事情を聴くオリヴィアに、ミアは首を振る。

「いえ、一人です……あ、今も……」ミアの言葉に、俺たちは急いでミアの視線の先を追う。

 

確かにそこには、一人で優雅にランチを食べながらミアを見つめる、淑女科の女子生徒がいた。

 

「もしかして、あの銀髪のハーフツインの奴か?」

「は、はい……」

「本当ね、恐ろしいほどミアのことガン見してる」

「え? どこ?」まだ見つけられていなかったマットに、オリヴィアが「ほら、テラス席にいるでしょ」と説明する。

 

「マジだ。俺らの視線に気づかない程度にはミアのことしか見てない」

「ミア、視線を逸らすな。負けになるぞ」

「一体何の勝負させようとしてるのよ」

俺の適当な発言にツッコミを入れながら、オリヴィアはミアに話を戻した。


「一旦彼女のことは無視しましょう。食べながら話を聞かせてちょうだい」

「はい……あの人からの視線を感じるようになったのは、転校してすぐの頃です」

「だいぶ早い段階だな」

「ちょい待ち、あのガン見してくる女の子になんかあだ名つけない?」マットが話の腰を折り、オリヴィアに「何でよ」とキレられている。

 

「だってそうした方が話がスムーズじゃん? 『あの子』とか、『彼女』だと分かりづらいよ」

「確かにな、じゃあ『ガン見ちゃん』で良いんじゃね?」

思いついたあだ名をそのままつけたら、マットに「適当だな〜」と呆れられた。

分かりゃあいいんだから、文句言うな。

 

「まあ、分かりやすいしアルの案でいきましょ」

「てかミアって、新年度が始まる時転校してきたじゃん? つまり一ヶ月前?」

「そうね……転校してすぐ目をつけられるなんて、ミアみたいなおとなしい子だと考えづらいけど」

「逆にこの歳になって新しく入ってくる奴が珍しいから気になるとか?」


マットの言葉に「それはないんじゃないか」と伝える。

 

「あいつら魔法使いなら全部同じに見えてる馬鹿だから」

「まあ見下すべき相手としか考えてないでしょうね」

俺の言葉に、オリヴィアが深く頷く。


「それで? 誰かと一緒の時にも視線を感じるの?」オリヴィアの問いに、ミアは「あ、わ、私……」と答えづらそうに言葉を詰まらせた。

それから勇気を出して声を振り絞った告白をする。


「まだ一緒に行動するお友達がいなくて……だから基本一人なんです……!」

「わぁ、なんかごめん」

俺もマットに同意して「すまん」と謝る。

 

仲間外れにしようとしたんじゃない。ただ、ミアの年齢で転校してくる奴はいないから、どう接すればいいか魔術科全員が分からなかったんだと思う。

 

「確かにほとんど皆キンダークラスから入学してるから、シニアクラスからだと馴染みづらいわよね」オリヴィアの言葉を、ミアが「キンダー?」と繰り返す。

 

「三歳から六歳までのクラスよ」オリヴィアがパスタをフォークに巻き付けながら説明する。

「あ、そうなんですね。ごめんなさい、私この国に来るまで学校に通ったことなくて」

 

「へ〜、不良少女だったってこと? 意外だな!」マットの言葉に「絶対違ぇだろ」と訂正を入れておく。

オリヴィアも同意見だったらしく、「ミアが不良だったら世も末よ」とマットを睨みつけている。

 

「私、世界各地を旅するキャラバンで生まれたんです」ミアが優しい顔で思い出を話し出す。

 

「各地の名産品や手作りの品を売ったり、踊り子なんかもしながら、優しい人たちと世界を回ってたんです」

「なるほど、世界を回ってたら学校通う暇なんかないもんなぁ」

「じゃあどうして今更、学校に?」オリヴィアが疑問を投げかけた。

 

その途端、ミアの顔が暗くなる。

 

「私たちのキャラバンは、貴族に解体させられちゃったんです……」

「闇深……」マットが思わず口からこぼす。だが、お前の義足も相当闇深いからな?


ミアが微妙な空気を消すように、慌てて「ご、ごめんなさい私の話ばっかりして!」と俺たちを見回す。

「良いのよ。辛いことを話させちゃって、こちらこそごめんなさい」

「てか俺ら、なんの話してたっけ?」

オムライスを食べ終わったマットに、俺は返事をする。

 

「ミアがクラス分け知らないって話だろ」

「そーだった! アル、お前説明してあげなよ!」

飯食い終わってんだからマットが説明すればいいだろ。と思ったが、俺もほぼ食い終わってるので、諦めて説明をする。


「簡潔にまとめると六歳までが『キンダークラス』、七歳から十二歳までが『ジュニアクラス』、十三歳から十五歳までが『ミドルクラス』」

「なるほど……」

「そんで俺たちが今所属してるクラスが、十六歳から十八歳までの『シニアクラス』」俺の説明を継ぐように、マットが「魔法使いは少人数しかいないから教室分けもなくて、基本ずっと同じ面子で過ごしてるんだ」と続けた。


「んで、どーする? こっちでどんだけ考えてても埒あかねぇし、直接聞くのが早いんじゃないか?」全員が飯を食い終わったのを確認して、俺は話を切り出す。


「アル、そういうとこ脳筋よねぇ」

「だって、まどろっこしいのはだるい。とっとと終わらせて昼寝がしたい」

「もっとミアの気持ちに寄り添いなさいよ」

「そんで? ミアは昼ご飯食べ終わったらいつもどうしてんの?」

マットが、いつものミアの行動を聞き出す。


「あ、はい。騎士科や淑女科のある『中央の塔』付近は危ないと聞いたので、魔術科のある『北校舎』の近くで日向ぼっこしてます」

「ふーん、そん時もガン見ちゃんはついてくるわけ?」

「はい……大抵物陰から隠れてこちらを見てきます」


「よく気づくわね」と感心するオリヴィアと、「『ガン見ちゃん』の目力が凄過ぎるので……」と遠い目をするミア。

確かに、さっきからずっと熱視線だもんな。これは気づかない方がどうかしている。


「よし、全員飯食い終わってるな?」俺の言葉に、オリヴィアが「アル、まさか……」とため息を吐く。


「そのまさかだ。今から試してみようぜ。ミア、いつもの場所まで案内頼む」

「は、はい!」慌てて立ち上がるミアを止めるように、オリヴィアが声を上げる。

 

「ちょっと! そもそも私たちがいたら、ついてこないかもしれないでしょ!?」

「それならそれで良いだろ。これからミアと俺らが一緒に行動すれば問題解決ってことだし」

「確かにそうね……」オリヴィアが納得の声を上げる。

逆に、ミアは「えっ! これからも、い、一緒にいてくれるんですか?」と目を潤ませて驚いている。

 

「悪いか?」

「いえ! 私はとっても嬉しいです! でもアルくんたちの重荷になっちゃうんじゃ……」

「友達のこと重荷なんて思う奴がいるかよ! これからよろしくな、ミア!」


マットが笑顔で手を差し出すと、ミアは喜びで頬を上気させながら「は、はい! よろしくおねがいします! 三人とも!」と勢いよく握手した。

オリヴィアと俺とも握手し終わったあたりで、オリヴィアが微妙そうな声を上げる。


「ミアと友達になれたのは喜ばしいことなんだけど……ガン見ちゃんの目線がますます強まってない? 目力だけで私たちを殺せそう」

「本当それだよ。握手したからかな? 俺らガンつけられてるけど」


俺は食べ終わったトレーを持ってすぐに立ち上がり「とにかくミアの日向ぼっこ場所まで移動しよう。魔術行使するにしてもここは人目が多い」と食堂を後にする。

マットやオリヴィア、ミアと共に、俺たち魔術科の本拠地である『北校舎』に向かった。




 ◇◆◇◆


 

 

「本当についてきてるわ……」歩きながらオリヴィアが小さな声で驚く。

「めっっっちゃ見てる……」マットに至っては、ドン引いている。

 

「ミアが気づく目力ってどんなのかと思ったら相当ね……もうビームが出てもおかしくないわ」

「目からビームが出る淑女科……それもう人間じゃなくね?」

「まだビーム出てないから人間だろ」一応ガン見ちゃんをフォローする俺に、「そのうちビーム出しそうな話ぶりね」とオリヴィアがツッコむ。


「てか、ガン見ちゃん隠れる気あんのかな?」マットが笑い始める。

「長い銀髪が太陽光反射してキラッキラしてるわね」オリヴィアの言葉に俺も頷く。


ガン見ちゃんは隠れてるつもりだろうが、とにかく目立つ!

そもそも忌み嫌われている魔術科のある北校舎まで、淑女科の人間が来てるだけで目立つのだ。

知らないふりをしてるのも馬鹿らしい。

 

「あー! もうまどろっこしい! 本人に聞くぞ!」俺は大声を張り上げて、「おいそこの陰からガン見してくるガン見ちゃん!」と声をかける。


「お前、ミアの何が目的だ!!!」

「……はっ! わ、わたくしのこと!?」

「それ以外に誰がいんの?」

「反応遅いわね……」

マットとオリヴィアが呆れながらツッコんでいる。


「わたくしの尾行を見破るとは、やるわね魔術科……」ガン見ちゃんの悔しそうな様子に、「いや多分誰でも見破れた」と思わず本音が出る。


「逆にあれで隠れられてると思ってるガン見ちゃんの方がやるわね、って感じだね」とマットも感心している。

 

悔しそうにしていたのも束の間、「というかその『ガン見ちゃん』ってわたくしのことかしら!? なんですの、その可愛らしさの欠片もないネーミングは!!」と顔を赤くして怒り始めるガン見ちゃん。

 

「まあ可愛さ求めてねぇからな」

「分かりやすさ重視だったので」

「それで? ガン見ちゃんはなんでミアのこと追っかけてたの?」


ガン見ちゃんの文句を総スルーして話し始める俺たちに、文句を言おうと口を開いたガン見ちゃん。

しかしすぐに表情を一変させ、うっとりとした顔でミアを見つめた。


「み、ミアとおっしゃるのね……」と顔をぽっと赤く染めるガン見ちゃん。


「え、もしかして……」オリヴィアの言葉に続き、俺も思い当たることを口にする。

「まじ? 禁断の百合の香りってことか?」

「じゃあ俺ら、超お邪魔じゃん」

そそくさと退散しようとするマットに、ストップをかける。

 

「でも非魔法使いが、魔法使いに容赦ないことはお前らも知ってるだろ。事情を聞くまでは危険なことを忘れるな」俺の言葉に正気を取り戻したのか、オリヴィアも硬い顔で「そうね」と呟いた。


「さあ、目的を吐け。ガン見ちゃん」俺の言葉に、ガン見ちゃんは態度を急変させる。

憎たらしく胸を張って、自己紹介を始めた。

 

「なんですって? このアドレスティアル王国有数の貴族であるわたくしになんて口の聞き方! 貴方たち魔法使いごとき理由をつけて殺してしまっても良いのよ!」

 

ガン見ちゃんの堂々虐殺宣言に、「へ〜、じゃあミアも殺すんだ」とマットが平然と言う。

「それはしません」ガン見ちゃんの即レス。

 

「なんだこいつ、言ってること矛盾してるぞ」

「俺らはミアの友達だぜ? 俺らを殺したらミアが悲しむと思うけどな〜」

「くっ……そうよ問題はそこなんですわ……! 食堂で貴方たち、ミアと握手してたでしょう!?」ガン見ちゃんは鬼気迫る表情で睨みつけてくる。

ガン見ちゃんの怒りポイントが分からない俺たちは顔を見合わせて、「確かに握手したな」と頷く。


すると、ガン見ちゃんは俺らに襲いかかってきそうな表情で「わたくしより先にこの子に触れるなんて! ずるすぎますわ!!」と呻いている。

 

「怖えよ、同担拒否勢か?」俺とマットは、急いでガン見ちゃんから距離をとる。

「あの〜、ミアに固執する理由を教えてくれますか? ミアに危険がないと分かれば、私たちも邪魔はしませんから」オリヴィアが果敢にも、ガン見ちゃんに問いかけた。


「そ、それは……」突然顔を蕩けさせたガン見ちゃんは、俺たちの視線に気付き顔を引き締めた後、少し恥ずかしそうに呟いた。


「ミアが、わたくしの実家で飼っている猫の『モルガナイト』にそっくりなのですわ……!」


「おっと??」想像の斜めを上を行く回答に、マットが間抜けな声を上げる。

「随分可愛らしいカミングアウトね」

「でも何でそれがミアに繋がるんだよ?」俺はガン見ちゃんに、率直な疑問をぶつける。

 

「だってロイアルミナ学園は寮生活でしょう? 本当は毎日毎時毎秒だってモルちゃんを愛でたいのに、寮ではそれは不可能……!」

「モルチャンって?」

「モルガナイトを略して『モルちゃん』じゃね?」

「なーるほどね、貴族って意外とおもろい性格してんのね」マットの言葉に、「貴族というかこの方が面白いだけじゃない?」とオリヴィアは呆れ笑いだ。


「つまりモルチャンを愛でたいけどそれが出来ないから、ミアを追いかけることで代用していた。ってことか」

「本当は追いかけるだけじゃなくて、ブラッシングも餌付けもしたいし一緒のベッドで眠りたいですわ」俺の言葉にガン見ちゃんがノンブレスで返事をする。圧が強すぎる。

 

「おっっっも、激重感情じゃん」

「怖すぎ」

「ミア、私の後ろに隠れていて。マット、足の準備」

オリヴィアが、ガン見ちゃんのあまりの狂気に戦闘態勢に入る。

「俺の足、完全に武器扱いされてる……」と渋々靴を脱ぎ始めるマット。

 

「大丈夫。二秒で終わらせるから、その間片足立ちしてなさい。アルに肩でも借りて」

「二秒くらい自立できるだろ、気張れマット」

「嘘だろアルも俺を犠牲にするつもりかよ!?」

「いっつも俺を犠牲にして逃げる奴が言うセリフか?」


俺とマットが言い合いをしている間にも、オリヴィアがガン見ちゃんに声をかける。


「そもそも、非魔法使いが魔法使いと仲良くしていると、他の非魔法使いから蔑まれますよ」

「確かにな」

「魔法使いは穢らわしくて、危険な生物って言われてるし」

オリヴィアの言葉に賛同する俺たちに、ガン見ちゃんは「それは分かってますわ!」と声を荒げる。


「もちろん、そんなことは分かってますわよ! だからこっそり眺めるだけだったんでしょう!」

「こっそりではなかったけどな」ガン見ちゃんと言われるくらいには目立ってるよ。


「でも実際、今の魔法使いは危険とは言い難いですわ」ガン見ちゃんは俺たちを見下すように話し出した。


「ほう? なぜそう言い切れる?」

「昔は魔法を使い放題だったでしょうけど、今はウィザードウォッチで魔法の使用を制限されてるでしょう?」

「まあ昔だって魔法使いの大半は、君ら非魔法使いに友好的だったけどね」

「こき使うだけ使って、あとは厄介払いされたんだよな。俺らの祖先は」

「歴史的に、数が多い種族が少数民族を圧政するのはよくあることよね。してはならないことなのに」

マットと俺、オリヴィアからの連続攻撃に、ガン見ちゃんは「うぐっ……」と呻く。




俺たち魔法使いは、アドレスティアル王国を含む世界各地で『危険生物』として扱われているが、実際の歴史は違う。

この世界を、非魔法使いと共に作り上げるために、魔術を惜しげもなく使い協力したのだ。


しかし、非魔法使いたちは自分たちの住みやすい世界を作り上げた途端、俺たち魔法使いを邪魔者扱いした。

 

怖かったのだ、何でもできる『魔法』という力が。

恐れたのだ、非魔法使いの持っていない魔法が使える『魔法使い』を。


そうして半ばだまし討ちの形で、俺たちの祖先の魔法使いたちを圧制する世界を作り上げた。

本当、怖いのはどっちだって話だよ。




「それにウィザードウォッチで魔法を制限してるって言ってましたけど、普通に身体強化くらいはする奴らもいますよ。主に隣の二人が」

「こらオリヴィア、しーっ! 抜け穴潰されたら困るから!!」


マットたちの言葉が聞こえていないのか、ガン見ちゃんは悲劇のヒロイン風に話し続ける。


「ミアが魔法使い……でもわたくしがミアを可愛らしいと思う気持ちに嘘はないの……それにミアを見つめていたこの一ヶ月で、わたくし考えましてよ」

「ストーキングしてた一ヶ月で?」

「やめなさい、悪い言い方に変えるのは」


ガン見ちゃんは俺たちを見回してから、ゆっくり宣言した。


「わたくしがミアを見ていて気づいたこと。それは『魔法使いは、本当に危険な生物なのか?』ということよ」

「なに……?」

この世界の非魔法使いの常識を覆す発言をしたガン見ちゃんに、俺たちは言葉を失う。


「お前は貴族様だろ? 魔法使いを人とも思わないような教育を受けてきているはずだ」俺の言葉に、ガン見ちゃんは「もちろんよ」と簡単に頷いた。

 

「魔法使いは下等生物以下だと教育を受けてきました。でも、ミアを見ていて思ったの」

「え、私……?」突然の話を振られ困惑するミアと、話し続けるガン見ちゃん。

 

「騎士科や淑女科、学術科や経営科、発明科の非魔法使いにどれだけ絡まれても困った笑顔を浮かべるだけのミアを見て」ガン見ちゃんは一度そこで言葉を切り、じっと真剣な眼差しを向けてくる。

 

「本当は、魔法使いも非魔法使いと同じ人間なんじゃないかしらって。そう気づいたの」

 

ドヤ顔してくるガン見ちゃんにしばし沈黙してから、マットが「やっと気づいてくれたの? 俺たち人間ですよ〜」と手を振って答える。

非魔法使いの小さな気づきを煽るな、面白いけど。


「まあマットの言う通り、すげー初歩的な気づきだな」

「しょうがないでしょ、非魔法使いは偏った教育受けてるんだから。それに気づいただけ凄いわよ、ガン見ちゃんは」

俺たちの発言にツッコむオリヴィア。


めざといガン見ちゃんが「そこ! ひそひそしない! 感じ悪いですわよ!」とヒステリックに叫ぶ。すんませんて。

 

「ごめんなさいですわよ!」

「ちょっと赤毛! 私を馬鹿にしてらっしゃる!?」

「赤毛って俺!?」

「ここに赤毛はお前しかいねーもん、お前のことだろマット」

下らない言い合いを続けるマットとガン見ちゃん、野次を飛ばす俺を見ながら、「聞いても良いですか?」とミアが小さく声を上げる。


「ええ、ミア。わたくしになんでも聞いてちょうだい」

「ミアの時だけ態度急変しすぎだろ」

「だまらっしゃい」

「あの……どうしてそれを私たちに伝えたんですか?」


ミアの疑問はもっともだ。

ガン見ちゃんも頷いて、説明を始める。


「実を言うと、声をかける機会を伺っていたの」

「なんて?」

「『魔法使いのことを教えてちょうだい』って」

「誰に?」

「ミアに決まってるでしょう」


マットが「ブラッシングさせて、の間違いじゃなくて?」とガン見ちゃんを茶化す。

 

「それもおいおい……って何を言わせるんですの!? とにかく、魔法使いという生き物の認識を正しくしたいと思いましたのよ!」

「ミアが『飼ってる猫みたいだから』、という不純な動機ではあるけどな」

「それでも貴族の非魔法使いが、魔法使いを知ろうとしてくれるのは凄いことでしょう」

オリヴィアが、減らず口のマットを小突く。

 

俺が「それで? ミア、お前の答えは?」と話を振ると、「うぅ……」と小声を上げてミアはオリヴィアの後ろに姿を隠した。

 

「あっ! 羨ましい悔しい! じゃなくて、一体どうしたのミア? 何か怖いことがおありで?」

「ガン見ちゃんの存在だろ」

「嫉妬が隠せてねーもんな」

「ちょっと二人とも静かに。ミア、教えてくれる?」

ガン見ちゃんの勢いが面白すぎてマットと二人でふざけていたら、何故か俺らがオリヴィアに怒られた。解せん。


「……私、お昼に『自分の所属していたキャラバンが貴族に崩壊させられた』って話はしましたよね」ミアが悲しげに呟く。

「ええ、聞いたわ。それのせいかしら」オリヴィアの問いに、ミアは「まあ……そうなんですけど」と辛そうに頷く。

 

「もっと詳しく話すと、キャラバンを貴族が崩壊させた理由は、私が原因なんです」

「なに?」

「私と、私の母に目をつけた貴族が、無抵抗のキャラバンに攻撃をしかけたんです。『魔法使いである私たち家族を匿っていた』という名目で」

「そんな、ひどい」

「鬼畜の所業だな」


貴族の悪行に、俺たちは開いた口が塞がらない。

 

「それで、私と母は貴族のもとに連れて行かれてしばらく奴隷として生活していました。でも数ヶ月前、母が私を逃すために貴族に歯向かって……」ぎゅっと、オリヴィアの制服を握る力を強めたミアに、オリヴィアが「ミア、苦しいことを話させてしまったわね。もういいわ」と手を握る。

 

それでもミアは「お願い、話させてください」と首を振り、続きを話す。

 

「それで、命からがら逃げて辿り着いたこのアドレスティアル王国で、私は保護……というか拘束されたんです」

「この国は、未成年の魔法使いを全員ロイアルミナ学園にぶち込むために、四六時中見回りしてるからな」

「だから私……貴族が怖い。家族同然だったキャラバンの皆を傷つけて、酷い扱いをして笑っている貴族が……!」


ミアの話をそこまで聞いた俺は、「よし、ガン見ちゃんにはお引き取り願おう!」と告げる。

 

焦った顔をしたオリヴィアが「なっ!? いくら面白い人だとは言っても、相手は淑女科の貴族で非魔法使いよ!? 気に入らないことがあったら私たちなんてすぐ殺される!」とミアを庇いながら突っかかってくる。

 

「でも、ミアがこんなに嫌がってるのに差し出すのは良くねぇだろ」そう言うと、ガン見ちゃんが声を上げた。

 

「そう……よね。非魔法使いが、魔法使いにしていることは到底信じられない悪逆非道ですわ。ミアがわたくしを怖がるのも無理はない」


そう言うと、ガン見ちゃんは悲しそうな笑顔でミアを見つめた。

「こっそり追い回してごめんなさい、ミア。もう二度と貴女を悲しませる真似はいたしませんわ。……だって貴女の困った顔、モルちゃんがお気に入りのフードを食べ終わったしょんぼり顔で、見てるこっちが悲しいんですもの」

「なんでもモルチャン変換される脳内」

「やっぱちょっとおかしいよなガン見ちゃん」


ガン見ちゃんのペット溺愛具合に顔を見合わせる俺たち。ミアも「え……」と小さく声を上げている。


ガン見ちゃんは俺たちの方を見ると「ミア以外の貴方たちもせいぜい気をつけなさって」とわざわざ忠告してくださる。そりゃどうも。

 

「はいはい、言われずともお前ら貴族とは距離を置いてますよっと」

「逃げても追いかけて攻撃してくんのはそっちじゃん」

「やかましい減らず口ですわね!」

俺とマットの口答えに、ガン見ちゃんが顔を真っ赤にして地団駄を踏んでいる。貴族、地団駄踏んでいいのか?


「あの! ガン見さん!」突然、オリヴィアの後ろから大きな声が響いた。ミアの声だ。

 

「え、あ、わたくし?」ガン見ちゃんは、自分の胸に手を当て慌てている。

「『ガン見ちゃん』呼びで定着しちゃったよ」

「てか本名知らねーからな」


俺たちがこそこそ話していると、ガン見ちゃんの耳にも聞こえたのか「全く。このわたくしの名前を知らないとは……魔法使いは世間知らずですわね」と、突然自己紹介が始まる。

 

「よくお聞きなさい! わたくしのファミリーネームは『シャインフロスト』ですわ!」

「しゃ、シャインなんだって?」

「長ぇ名前だな」

「黙らっしゃい、すっとぼけコンビ!」ガン見ちゃんが俺たちを指さす。

「『すっとぼけコンビ』って、誰のことだよ」

「さぁ?」

「どう考えてもアルとマットのことでしょ。私は『シャインフロスト』って聞いたことあるわ」オリヴィアが呆れた目をしながら知識マウントをとってくる。


「シャインフロストといえば、この国有数の貴族。そのご令嬢ならこの国で名前を知らない人はいないでしょうね。最近転校してきたミアと、魔術科のお馬鹿さん二人を除いては」

「何をぉ! オリヴィア、ちょっと貴族に詳しいからって馬鹿にしやがって!」

「貴族に詳しいというかオリヴィアは貴族生まれだからな」

 

「それで、ミア? ガン見さん、もといシャインフロスト嬢を呼び止めてどうしたの?」俺たちの野次を無視して、『シャインフロスト』について端的に説明したオリヴィアは、ミアを心配そうに見る。


ミアは、真剣な顔で話し始める。


「あの、私。これまで貴族って怖い人ばかりだと思ってて。でもオリヴィアさんと話したり、シャインフロストさんの話を聞いてると、貴族だけど怖くない人もいるんじゃないかって考えたんです……」


「それは……」シャインフロストが目を輝かせる。

 

「だから私、シャインフロストさんを信じてみたいって思ったんです……!」

ミアの言葉に、オリヴィアが眉をひそめた。

 

「ミア、流石にそれは人が良すぎるわよ。もしかしたらシャインフロストさんがすごく演技の上手い悪人だったらどうするの?」

「ちょっと。聞こえてますわよ」シャインフロストがすかさずツッコむ。


「私がキャラバンで過ごした十七年間。旅の中で出会う人はほとんど皆優しかったんです。貴族にキャラバンを壊されるまで、魔法使いと非魔法使いの差別があることも御伽話だと思うくらい楽しい暮らしだった! だからきっと、ちゃんとお互いを知りたいと思い合えば私たちは仲良くなれる! って、思って……」

「ミア……」

 

ミアの心からの言葉に、俺たちは圧倒される。


『魔法使いと非魔法使いの差別がお伽話』だと感じるくらい平和な世界もあるのか……。

俺がぼうっと考えていると、「嬉しいですわ! ミア!」というシャインフロストのクソデカボイスが響き渡る。

もうちょいボリューム落としてくんねぇかな?


「えぇ! わたくし、ミアをちゃんと知りたくってよ! モルちゃんに似てるというだけでなくって、貴女のその考えと行動に感銘を受けましたわ!」

「あ、ありがとうございます……でも私、まだ貴族の方と二人だけでお話しするのは怖くって……ごめんなさい」


ミアの言葉に、「そりゃ貴族に酷いことされてた経験があるなら当然だろ」とフォローを入れる。

ミアは俺を見て頷くと「でも、提案があります」と話し始めた。

 

「アルくん、オリヴィア、マットくん。皆も一緒だったら、勇気を出してお話できるかも……」

そこまで言うとミアは、「もちろんシャインフロストさんがそれで良ければ、ですけど」と恐る恐るシャインフロストに視線を向ける。

 

「ミア、なんて優しいんですの! わたくしが怖いはずなのに、そんなに頑張ってお話の場を設けてくださるなんて……! あぁ! 今すぐ最高級の煮干しを餌付け……ごほん、スイーツをプレゼントしたいくらいですわ!!」

シャインフロストは目を潤ませて、また高速でミアへの愛を叫び始める。だから怖ぇって。

 

「猫扱いが抜けきってねぇ」

「油断すると出るわね」


俺たちの冷たい眼差しに気づいたのか、シャインフロストは「こほん」とわざとらしく咳払いをして、冷静を取り繕っている。

 

「ミアのお願いだけど、私は良いわよ。これが非魔法使いと魔法使いの親交の小さな一歩になれば嬉しいもの」オリヴィアが優等生らしい回答をする。

 

「俺はそんな高尚な理由はないけど、シャインちゃんがお話のたびに美味しいお菓子でも用意してくれるんなら、賛成するぜ」マットが欠伸をしながら答える。

 

オリヴィアが「シャインちゃん?」と眉を寄せると、マットは「その先の名前が覚えられなかった!」とあっけらかんとした様子。こいつも大概マイペースだな。

 

「シャインフロストですわよ!」

「まぁ細かいことはいいじゃん! で、シャインちゃん。おやつ用意してくれんの? もちろん人間用ね」

「半分脅しじゃねぇか」

「ぐっ……分かりましたわ。ミアの安心のために、最高級のスイーツを用意してあげましてよ!」

「おっしゃ! じゃあ俺は賛成! あとは、アル。お前は?」


「反対じゃねぇけど、いくつか問題点がある」という俺の言葉に、「問題点って……?」とミアが心配そうに聞いてくる。

 

「まず、貴族と魔法使いが頻繁に話し合ってたら怪しまれるぞ? というか、魔法使いと一緒にいたらシャインフロストの立場が危うくなるだろ」

「あら。わたくしの地位は、そんなちっぽけなことでは揺るぎませんわ」

「だとしても、ご家族や友人から良い顔はされないのでは?」

オリヴィアの言葉に、「うっ、まぁそうですわね……」とシャインフロストは渋い顔をする。

 

「わたくしのお母様は魔法使いを毛嫌いしてらっしゃるから……」

「じゃあ何かしら理由がないと、定期的な会合は難しいだろ」

「ミアに会いたいじゃダメなの?」

「ダメだな。シャインフロストが猫と重ねてるとしても、ミアもれっきとした魔法使いだ」

「それはそうね。表向きの理由が必要かも」


ただ会話をするだけでも、魔法使いと非魔法使いの間では、大きな問題ばかりだ。

やはり周囲の目は、魔法使いと交流を持つ非魔法使いを悪く見るだろう。


全員で頭を悩ませていると、マットが「あ! じゃあさ!」と何か思いついたようだ。


「『魔法研究会』とか適当な部活でっち上げれば良いんじゃない?」

「ダメだろ、どう考えても」

「そうよマット。魔法の使用方法が書かれてる書物の閲覧すら制限されてるのに、魔法使いたちが集まって研究会なんて開いたら即刻殺されるわ」

「あとそんなとこに貴族が所属してたら、ますますまずい」

「というか、貴族と魔法使いが同じ立場で話し合いすること自体が世間的には大ブーイングだと思うわ」


俺とオリヴィアに死ぬほど論破されたマットは、「分かったってぇ……もう降参だってば……」と両手を上げてうなだれる。


「それなら全員、わたくしの従者ということにすれば良いんじゃないかしら?」


マットの嘆きを遮るように、シャインフロストが言った。

ミアが「従者なら良いんですか?」と目を丸くする。

「あ、ミアはあんまり知らないもんね」とマットがけろりとした顔で説明を始める。さっきまでの嘆きは嘘か?

 

「この国では表向きは魔法使いの奴隷化が禁止されてるから、従者として労働力にする貴族も大勢いるんだよ」

「まあ実態は奴隷と変わらないがな」

「っ!!」


『奴隷』という言葉に、ミアは過去の嫌な思い出を思い出したのか、青い顔で体を震わせる。

そんなミアを落ち着かせようと、シャインフロストが一生懸命声をかける。

 

「ミア、落ち着いてちょうだい! わたくしは本当に貴女たちを従者とするつもりはないですわ! ただ建前的にそうした方がミアたちに非難が集まりづらいなら、従者として扱った方が良いと思ったんですの。分かってくださる?」

シャインフロストの必死の説明に、オリヴィアに背をなでられながら落ち着きを取り戻したミアは小さく頷く。

 

「……はい、そういうことなら」ミアは息を整えながら、まだ青い顔のままそう言った。


ミアが落ち着きを取り戻してきたところで、「それで。立場は主従関係で誤魔化すとして、集まる理由はどうすんだよ?」と再び問題を提起する。

 

「今みたいに、中庭に定期的に集まるのではダメですか……?」

「うーん、ダメっていうか、危険かもしれないわね」

「危険?」

ミアの質問に、オリヴィアは難しい顔をしながら答える。

 

「一度目撃されるくらいならたまたま会った、で言い訳できるけど、何度も他人に目撃されたら怪しまれるでしょう?」

「そういう時に使える言い訳が必要だな」

「俺が提案した魔法研究会は即却下されたし……」


「当たり前だろ」呆れる俺に、マットは「でもせっかくシャインちゃんがお菓子持ってきてくれるなら、落ち着いて食いたいじゃん!」と謎の主張を始める。

 

「マット、早食いのくせにわがままね」

「美味しいものは味わって食いたい!」

「食堂でランチをするのはどうでしょう……?」

「中庭より圧倒的に人目が多いから無理でしょうね」

いつまで経っても解決策の出ない話し合いが続く。なんか考えるのもだるくなってきたな。

 

「あぁもう面倒だな。なんか適当に『なんでも相談室』とかで良いんじゃね?」

「アル、飽きてきたのね」

「そんで部活動申請したら部室も貰えんだろ。そしたら座ってお菓子も食べられる」

 

オリヴィアのジト目を無視して『なんとか相談室』設立のメリットを語る俺に、「ええ! 魔法使いの俺らがそんな好待遇受けられる?」とマットが疑いの声を上げる。

 

「あくまで代表は貴族のシャインフロスト嬢だよ」

「なるほど! それなら先生たちも邪険にできないな!」


マットが納得すると、今度はオリヴィアから「でも部活には顧問の先生が必要じゃない?」と疑問が飛んでくる。

 

「それならわたくしが適当な先生を引っ張ってきますわ」

「シャインちゃんも結構大雑把だよなぁ」

「というかミアを可愛がりたい欲が強すぎるのよ、多分」


部活設立への疑問や反対意見を潰し終えたところで、改めて「そんじゃあ俺らの部活は『なんでも相談室』ってことで」と意見をまとめる。

貴重な昼休みを、これ以上訳の分からん話し合いで潰したくないからな。

 

「美味しいお菓子期待してるよシャインちゃん!」マットの言葉に、「任せなさい、わたくしが腕によりをかけてミアを喜ばせるお菓子を用意いたしますわ!」と返事をするシャインフロスト。


「真っ先にミアが出てくるところがシャインフロストさんらしいわね」とオリヴィアが苦笑する。


「面倒なことにならなきゃいいけど」

「馬鹿ね、アル。魔法使いに生まれた時点で面倒な人生に決まってるでしょ」

オリヴィアが秋風に吹かれる髪を撫でつけながら笑った。

俺は「言えてる」と即レスしながら、あくびを一つ。


「アル〜! オリヴィア〜! 早速部活申請行こうぜ〜!」


いつの間にか、中庭から渡り廊下まで移動していたマットたち三人が、俺たちを手招きする。


オリヴィアが「すぐ行くわ!」と先に足を進めた。

俺も軽く手を上げて、午後の眠気に身を任せながらゆっくり歩き出す。


 


『王都ロイアルミナ学園・なんでも相談室』が引き起こすドタバタ大騒動に頭を抱えるのは、もう少し先のお話。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


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