思い出に幸あれ【中編・2】
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その場所は、あの日の姿のままだった。
まだ新しさの残るベンチも、錆び付いていない鮮やかな色の柵も、楽しげな人々の喧騒も。それら全てが、記憶のままに存在している。
――――時が戻ったようなセカイ。それは酷く違和感で、けれど不思議と脳に馴染む。
手を引く感触は、いつの間にか消えていた。周囲を見渡すが、大勢の人が居る中で特定の子供一人の手などどう足掻いても見つからない。
困惑しながらも、僕はふらりと歩き始めた。
確かな記憶を辿るように、あの日最後に見た風景と同じものが見える場所を探して。
大きな道。メリーゴーランドが手前側、道を挟んだ先にはコーヒーカップ。そして、ちょうど真正面のずっと奥に観覧車が見える場所――――
「……やっぱり、居た」
辿り着いて、僕は見つけた。
あの日の僕と、まだ歳若い両親――計、三人の姿を。
「ぱれぇど、まだかな?」
無邪気な瞳で、幼い僕は父に聞く。父は笑って「もうすぐさ」と答えたが、その姿には違和感があった。
子供の頃は気付かなかった。けれど今にして見ると、ほんの僅かに笑顔が固い。さながら、まるで人形のように。
それを不思議に思っていると、不意に楽しげな音楽が園内に流れた。どうやら、パレードが始まったらしい。
過去の記憶は、ここで終わり。けれど今、ここに居る僕はこれからそれを経験する。
何があったのか――そう思っていた、次の瞬間。
――――カラァ……ン、カラァ……ン――――
大きな、鐘の音が鳴った。こんな音は、記憶にない。
僕が慌てて両親の方に目を向けると、幼い僕はその場で一人倒れていた。両親はそんな僕の姿を、何も言わずに眺めている。
直後、しぃんと音が消えた。
音だけではない。遊園地を照らす明かりは消えて、星空さえも光を失くし……やがて、純粋な黒が世界を満たす。
その中で、ぼうと。
幾人かの半透明な子供達が、優しい光を放っていた。
〈続く〉




