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思い出に幸あれ【前編】

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「……懐かしいな」


 無意識に、そんな言葉が口から漏れた。

 僕は古びた遊園地を歩いている。良好な間柄の人間同士が笑う声に満たされた場所でたった一人、唯一孤独な異物として。


 切っ掛けは、ほんの数ヶ月前のことだ。

 幼い頃、一度だけ両親と訪れたこの遊園地が近く閉鎖する――という情報を、偶々惰性で流していたニュースの中で初めて知った。

 それを見て、ふと郷愁に駆られた……とでも言うのだろうか。僕は今日この日、この遊園地最後の日に一人ここを訪れた訳だ。


 この場所を訪れた日のことは、今でも鮮明に思い出せる。

 全てが見たことの無いもの、何一つ分からないものでありながら――僕の心には、怯えの感情など微塵も存在しなかった。それが恐れるべきものではなく、楽しむべきものであることは幼心にも容易に理解することができた。

 何故なら、そこにいる人々の顔は……皆、一様に笑いを浮かべていたのだから。


 僕は散歩に出た犬のように両親を引き摺り回し、目に入る全てに興味を示した。そんな僕の姿を見て、両親が笑っていたことも覚えている。


 ……ただ何故か、思い出せないのは。

 この日の最後――僕は、いつの間にか家に居た。両親は「はしゃぎ疲れて寝てしまったのだ」と言ったが、それが今でも腑に落ちない。


 確か、あの日――記憶が途絶える前、僕はパレードを観覧しようとしていた筈だ。

 しかし、その直前。陽気な音楽が聞こえ始めたその瞬間で、僕の記憶は終わっている。

 それは「眠った」などと言う緩やかな断絶ではなく、テレビの電源が落ちるような「消失」だった。


 ……或いは。僕がここを訪れたのはただの郷愁などでは無く、それを今でも奇妙に思っているからだったのかも知れない。

 今日、この場所で――僕は、その答えを見つけることができるのだろうか。あの日、僕の記憶に空いた二つの孔の真実を。


                 〈続く〉

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