鮮明
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ひどく、曖昧な朝だった。
暑いような、寒いような。秒単位で変化するその気温は秋らしい中途半端さと呼ぶにはあまりに極端で、僕は僅かに苛立ちを覚える。
支度を済ませて家を出ると、不思議と空気の曖昧さは感じられなくなっていた。僕は胸を撫で下ろし、揚々とした足取りで学校へと向かう。
道中、行き交う人達は皆一様に防寒を意識した服装をしている。それは気温が一定になった証拠であり、僕にはそれが喜ばしかった。
暫く歩くと、大きな交差点に差し掛かる。
時間帯の割に、横断歩道の前に人の姿は少なかった。居るのは僕と、隣でイヤホンを付けてスマホをいじっている高校生くらいの少女の二人だけだ。
ぼうっと信号が変わるのを待っていると、何を勘違いしたのか隣に居た少女が突然一歩踏み出した。
彼女の目は、先刻と変わらずスマホだけに向けられている。矢鱈高級そうなイヤホンは、恐らく大抵の音を遮断してしまうものだろう。
――――ぐしゃ、と鈍い音がした。
事故だと気付くのに、然程時間は必要無かった。
クラクションの音が辺りに響く。すぐ耳元で鳴っている筈のそれは、不思議と遠く感じられた。
白と黒の地面の上に、赤とも茶とも知れない色がふわりと静かに広がっていく。その中に沈むなにものかは、最早漠然としか元の存在を示していない。
時が止まったような感覚の中、僕は声も無くただ見惚れていた。眼前に広がる、悍ましく歪な光景に。
――――それに、理由があるとすれば。その光景が示す「死」の概念があまりにも鮮明で、曖昧なものを何一つ孕んでいなかったからだろう。




