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正論

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 ――――それは、記憶の中にしか存在しない一週間。


 時折、思い出す記憶がある。他人に言わせれば「思い出している」のではなく「空想している」ものらしいが。


 当時の年齢は覚えていない。覚えているのは、せいぜい「物心ついた後ではある」と言う程度。

 それは、たった一週間の記憶。けれど、百年にも等しいほど濃密な記憶だ。

 

 私は、その一週間を殺人鬼と過ごした。

 経緯は分からない。その記憶は、朽ちた山小屋で彼と隣り合って座る私の姿から始まっている。

 その記憶を「空想」で片付けられないのは、年齢すらも曖昧な割に情景だけが異様に鮮明だからだろう。


 「彼が殺人鬼だ」と言うことは、何故か記憶の初めから分かっていた。その事実は本人から聞いたような気もするが、そうでなかったかも知れない。

 そんな人物の隣に居ながら、不思議と恐怖は感じなかった。寧ろ、安心感すら覚えていたように思う。


 一週間――丁度七日の間、私と彼は「ある議題」について眠りもせず食事も摂らず話し合った。内容は……まぁ、かけた時間の割に下らないものである。


『何故、人を殺してはいけないのか』


 彼の発言は、どれもその行為を肯定するものだった。

 「殺意とは野生の本能である」、「外敵を排除するのは生物として当然の行為」、「生きることと死ぬこと、殺すことと(ながら)えることは同義である」――理屈としては理解に苦しむ内容だったが、彼は概ねそんなことを言っていたように思う。


 私は当然、彼を否定する立場に居た。

 私は倫理の面から彼の主張を否定した。けれど常識そのものが違うようで、彼は一向に私の理屈を理解しようとはしなかった。


 そんな平行線の議論を続けて、丁度百六十八時間が過ぎたその時。視界が突然、真っ白に染まり――

 ――――気付けば、私は自分の部屋に居た。


 その時の年齢すら不明なのは、どの年齢でもあったような気がするからである。分かっているのは、目覚めた私が一週間後に居たという事実だけだ。


 議論の結論は分からない。出たような、出なかったような……どちらでもあったように思う。全ては、ぶつりと切れた百六十八時間で止まっている。

 ただ――一つだけ、確実に言えることは。

 

 きっと、どちらも納得はしなかっただろうということだけである。

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