向日葵畑
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夏が来ると、いつも同じ夢を見る。私がまだ十二歳の頃、不思議な少女に出会った日の夢だ。
ある夏の日。一人で散歩に出掛けた私は、誰かに呼ばれたような気がして森に足を踏み入れた。
暗い森を進んで行くと、その先で大きな向日葵畑に差し掛かる。自分の身長より高いそれらを掻き分けながら、私は声を追いかけた。
そして、どれくらい歩いたか――不意に開けた場所に出て、私はそこで「彼女」と出会ったのだ。
「……あは、やっと来た」
彼女を表すなら、「幽霊」という言葉が恐らく正しい。
真っ白な肌、生気のない瞳、季節感のない純白の長袖パーカーとロングスカート。そして何より、存在感が奇妙に薄かった。私自身、声が聞こえるまで目の前に居ることに気付けなかった程度には。
困惑する私に、彼女は笑いながら告げた。
「かくれんぼしましょ。貴方が鬼、私は隠れん坊。
舞台はこの向日葵畑の中、私は隠れた場所から一歩も動かない。貴方は、十数えたら探しに来てね。
……待ってるから」
そう言って、少女は向日葵の中へと消えた。
私はよく分からないまま、取り敢えず数字を数える。
――――ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ、いつつ、むっつ、ななつ、やっつ、ここのつ、とお。
もう良いかい――それも聞かず、私は向日葵の中を探し始める。けれど全然見つからなくて、疲れた私は結局途中で森を出てしまった。
それからだ。夏になると、この夢を見るようになったのは。
夏以外は思い出さない。けれど夏が来ると必ずこの夢を見て、あの日のことを思い出す。
そして、殆ど無意識に――私の足は、あの森の中へと向かって行くのだ。
……また、夏が来た。私はまたあの日の夢を見て、そしてあの森の中へと向かう。
その先で――向日葵畑が、太陽と共に待っている。あの日と変わらない、何かを隠したそのままに。




