侵入者の献身
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「ただいまー……って言っても、誰も居ないんだけどね」
そんな独り言を言いながら家に入るのとほぼ同時、私は強烈な眠気に襲われた。
「あー、やば……流石に、きつい……」
自分で言いたくはないが、私ももうアラサーと呼んで差し支えない年齢である。若い頃ならまだしも、その歳で三徹は無理があると言わざるを得なかった。
「鍵……閉めて……お風呂……」
やらなければいけないことは沢山浮かぶ。しかしそのどれも、眠気を飛ばすに足る気力を生み出してくれることは無く……
「…………ぐぅ」
そのまま、私は眠りに落ちた。寸前、がちゃりと言う音が背後で聞こえた気がしたが――まぁ、恐らくは気のせいだろう。そういうことにしておいた。
◇
「……えっ、納期前倒しですかぁ!?……って、あれ?」
気が付くと、そこは自室の玄関先だった。
「あー……そっか、帰って来てすぐ寝落ちしたんだ」
スマホを見ると、翌日の午後十二時。丁度昼時だからなのか、どこからか良い匂いがする。
「お腹空いた……コンビニ行こうかな」
そう考えて――ふと、おかしなことに気が付いた。
「……この匂い、うちのキッチンからする?」
作り置きなんてした覚えはない。かと言って、寝る前に実は作ってましたなんて記憶もない訳で。
「もしかして、お母さん来てたかな」
うちには、たまに母が様子を見に来る。その時にご飯を作り置いてくれることもあるのだが……だとすると、それはそれで妙な点があった。
「玄関先で寝てる私を放置して、ご飯だけ?」
母は面倒見の良い人である。仮に玄関先で寝ている私を見たらベッドへ行くよう促すか、或いは父を呼んで運ぶかする筈だ。少なくとも、絶対に放置はしない。
「じゃあ、何……?」
瞬間、ぞっと背筋が冷えた。私は手近にあった傘を手に取り、恐る恐るキッチンに近付き――そして、勢いよくドアを開けた。
「だ、誰だぁー!?」
……勇んで飛び出したが、そこには誰も居なかった。
その代わり、まだ微かに湯気を立てる鍋と……それから、小さなメモ書きが一枚だけ。
『お体にはお気をつけて』
「知らない字……それで、こっちは……カレー?」
鍋の中身はカレーだった。謎の贈り物を気味悪く思いつつ、空腹だった私はついそれを口に運んでしまう。
「……美味しい」
私は欲望のままにカレーを平らげ、膨れたお腹をさすりながら一息吐く。その後、メモに一文書き込んでから布団に入った。
『たまに作ってくれるなら、許す!』




