旅路
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――――その日、知らない誰かの夢を見た。
彼は常に集団の中心に居た。家族に愛され、友に愛され、異性に愛され……嫉妬や憎悪、嫌悪を呼びそうなその在り方に反し、それらを向けられることが全くない。
顔立ちもそうだが、何より彼の人格が自然と人を惹きつけるのだろう。何しろ彼は、誰よりも人の痛みに敏感な性質を生まれ持っていたのだから。
痛みを知り、痛みに寄り添う――そんな行為を打算なく繰り返し、彼はいつの間にかそこに居た。
誰もと並び歩く存在。彼はそう在るものとして、愛されることしか知らないままに人生を送る。
常に人の隣に居る。けれど、彼は孤独であった。
彼はいつも、誰かの隣を歩いていた。けれど、誰かが彼の隣を歩いたことなどただの一度もない。
彼は理解者である。だが、彼に理解者は居なかった。
どれだけ痛みに寄り添えども、自分の痛みには誰一人として寄り添ってはくれない。誰もが自身に寄り添うことだけを彼に求め、また彼もそれに応えることしかしなかった。
そのうち、彼は分からなくなった。
「自分は、誰の為に人に寄り添っているのだろう」
寄り添いたかったから、誰かに寄り添うことを選んだのか――いや、違う。自分という人間は、決してそんな聖人ではなかった筈だ。
それでも、自分が人に寄り添ったのは――
「――――孤独に、なりたくなかったから」
寄り添えば、誰かが隣に居てくれた。それを、孤独ではないと思っていた。
けれど、違った。それはただ「独りでない」だけで、結局は形を変えた「孤独」だったのだ。
それに気付いた彼は、全てを捨てて旅に出た。
何処へ向かうかも分からない。ただ、孤独ではない場所へ行きたかった。或いは「孤独ではない条件」を探す旅だったのかも知れない。
歩き続け、彼の足は多くを踏んだ。
砂を、草を、水を、泥を。時には、雲を踏んだこともあったが――何処にも、答えは見つからなかった。
歩き疲れ、やがて彼は力尽きる。そこで「私」は漸く目を覚ました。
それが誰の夢かは知らない。もしかしたら、ただの空想でしかなかったのかも知れない。
ただ――確実に言えることは。
脳に焼きついた彼の最期は、目的を果たさずして満足げだった――と、いうことだけである。




