蝉、土、歌
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部屋の外は、むわっとした空気で満たされていた。
季節は夏。一昔前までは扇風機でも十分快適に過ごせていたが、今やクーラーが無くては一日も耐えられないほどに気温が上がっている。
私自身、夏は嫌いだ。暑いし、西瓜やらかき氷やらを美味いと思ったことも無いし、カナヅチだから泳ぐことさえできない。風物詩を楽しめない季節など、不愉快以外の何者でも無かった。
けれど唯一、不思議と嫌いになれないものがある。
それは「蝉の声」だ。
幼い頃から何故かこの音が好きで、聴くたびに少し心が安らぐような気がした。今でも落ち着かない時、たまに蝉の鳴き声をASMRとして聴いている。変だと思うだろう、私自身同じ意見だ。
まぁ、私が変なのはさておき。それを楽しみに夏を耐え抜いて来た私は、今年に入って愕然とした。
蝉の声が、異様に少ない。去年まではもっと、鼓膜を破らんばかりの数蝉が鳴いていた筈だ。それなのに今年は、テレビ画面越しかと錯覚するほどに音が小さい。
何故だろうと考えて、ふと気が付いた。
この街は変わった。この一年でアスファルトの道路が完成し、公園にはタイルが張られ、空き地にはマンションの枠組みが造られ始めている。
土の場所が、街から大きく減っている。蝉はきっと、土から出て来られなかったのだろう。
仕方無いことではある。生き物は住み良い環境を作るために縄張りを住み良い形に作り変えるものだ。そして他の生き物はそれに順応し、また在り方を変えて行く。
きっと街がこれ以上変わらなければ、七年後にはまた去年までのような蝉の声が聞けることだろう。
そうあることを、密かに願いながら――私は、街に響く遠い蝉の歌に耳を傾けるのだった。