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叶うものは何か

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「あなたの夢は、何ですか?」


 その答えを、先刻からずっと考え続けている。

 今日、学校で出された宿題は「自分の将来の夢」と言う内容だった。それを「明日までに、四百字詰めの原稿一枚に纏めてくるように」と言うのが担任教師の指示である。


 ……纏める。夢が「溢れるほどある」ことを前提に使われたその一言に、どうしようもなく腹が立った。

 将来の夢など、生まれてこの方――というのは流石に言い過ぎにしても、随分と長い期間考えてきていない。

 

 長い間、大人ばかりの世界にいた。そうすれば、否応なく現実というものが見えてくる。

 その中で僕が学んだことは「夢は叶わない、叶うのはあくまで現実的な可能性だけである」ということだ。


 幾度も見た大人達の中に「夢を叶えた」人間など一人としていなかった。いたのは「夢を諦め、惰性で生きる人間」と「努力を重ね、曖昧な夢想を現実的な可能性に持って行った人間」の二種類だけだ。


 夢は夢のまま叶うことはない。夢は、現実的になって初めて「叶うもの」へと変化するのだ。

 けれど、僕にそこまで努力する気力はない。と言うよりも「夢を現実に変える」才が僕にはないのだ。


 努力もせず「そのうち自分は大物になる」なんて、考えるだけ無駄である。できないならできないと即座に切り捨て、惰性に切り替えるのが正しい選択だ。

 そして――そう生きることを選んだ僕には、この原稿用紙を白紙から変える手段がない。宿題である以上書かなくてはならないのだが、そもそも書くことがないのではどうすることもできないのだ。


       ◇


 ――――結局、僕はそれを白紙で出した。

 担任は怒ったが、僕の言葉を聞くと黙った。おそらくは、子供らしからぬ考えをした僕を気味の悪い存在だと認識したのだろう。


 ……と、思っていたのだが。担任は小さく顔を伏せ、そしてすぐにそれを上げた。その瞳に、見て分かるほど鮮明な憐憫の意を宿して。


「………………」


 彼は何も言わなかった。けれど僕はその目を不思議と忘れられず、胸の奥にずっと宿し続けることとなった。


 ――――そして、今。眼前の少年に向いている目は、きっと当時の彼と同じなのだろう――と、記憶を振り返った僕は何となくそう思った。

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