変なマネキン
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シミュラクラ現象、と言うものがある。
木の模様や壁のシミなどを別のもの――「人の顔」のように誤認してしまう、と言う現象だ。
つまり何が言いたいかと言えば、今俺の目の前に広がる光景はきっとそれと似たようなものなのだと言う話である。
だって、物理的に有り得ないだろう。ついさっきまで普通だった壁がいきなり盛り上がって、人の形になりつつあるなんてことは――――!
◇
事の発端は、今から十分前の話だ。
「あー……引っ越し作業、やっと終わった」
実家を出て初めての一人暮らしをすることになった俺は、職場からほど近いアパートの一室を選んだ。
立地の割にやたら家賃の安いそこは、所謂事故物件であると言う。内容は良く知らないが、この部屋で自殺をした人間がいたらしい。
「希望に沿うので一応紹介しますけど……やめといた方が良いですよ、ここは」
不動産屋にはそう言われたが、俺は幽霊のようなオカルトなどミジンコ程も信じていない。それに過去のことなどどうでも良い、今住めればそれで良いとも考えている人間なので迷うことなくここを選んだ。
そして今、荷解きを終えて――一息つこうかと思った直後のコレである。
いやしかし、そんなことは有り得ない。この世界はすべて科学で説明がつく、コレだって何か見間違いとかそういうものの筈だうんきっとそうだそうだと言え。
そんな俺の思考も虚しく、壁は言葉無くずももと盛り上がり続け――とうとう、人の形になってしまった。
顔などは無い。本当に真っ白な壁が人の形になっただけで、人よりマネキンらしく思えた。
それは、きょろきょろと部屋を見渡すような動作をして――そして、俺の姿を見つけ歩み寄って来る。
「く――来るな、来るなぁ!」
叫んで後退るが、マネキンの動きは止まらない。ゆっくりと、静かに歩み寄ってきて――そして、目の前で止まった。
襲って来ないのか――そう考えた直後、マネキンは大きく腕を振り上げる。やられると思い頭を腕で隠したが、衝撃が来ることは一向に無かった。
どうなったか、と恐る恐る腕をどける。するとマネキンは、なぜかロボットダンスを踊っていた。
「……何してんだ、コイツ」
あまりに理解不能な動きに、俺は混乱することしかできなかった。
取り敢えず、今のところは無害そうだから良いか――でもそのうち引っ越そう、と俺は心に決めた。




