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それは、人であって人でないもの

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「理由などありません。まぁ、強いて挙げるなら「好奇心」でしょうか」


 私の問いに対し、彼はさも当然のようにそう言った。


 数日前。私は取材の為、ある刑務所を訪れた。理由は勿論、そこに収監されている「少年」に会う為である。


 便宜上、彼のことは「A」と呼称させて貰う。しかし、隠すことに然程の意味はないのではないだろうか。

 「A」の本名は、既にネットでは知られたものとなっている。恐らく、これを読む人の殆どは彼の名前を知っているだろう。


 未だ記憶に新しい彼の起こした事件は、その鮮烈さと残酷さで強く社会を震撼させた。

 九月一日――始業式の日。全校集会の為に体育館に集まっていた、教師と生徒合わせて七百三十名。

 

 彼は、その全員を惨殺した。


 齢十二の少年が、学校の備品で作成した手製の爆弾を体育館に仕掛け、学校の全員が体育館に揃ったタイミングで爆破。現場には爆音だけが響き、阿鼻叫喚すら存在していなかったと言う。


 その残虐性と被害数、そして反省の色が一切見られない態度――それらを加味し、異例の死刑判決を下された十二歳の少年。私はその日、そんな彼に取材をする為に刑務所を訪れていたのだ。


 正直な話、この日まで私は彼のことを憐れんでいた。

 年齢に対する先入観もあり、恐らく何かしら事情……虐めや暴行のようなそれを決断させるに至る止むに止まれぬ事情があると考えていたのだ。


 しかしこの日、彼と対面した瞬間。私の中にあったそんな甘い思考は、ただの一瞬で消え失せた。

 初めて見た彼の瞳は、異様な程純粋な「伽藍洞」であった。それと目を合わせた直後、私の本能が警鐘を鳴らしたことで気付くことができたのだ。


 ――――彼は、私とは存在として違うのだと。


 冒頭の言葉は、私が面会時間の最後に辛うじて絞り出した「最初の質問」に対する彼の返答である。


「何故、あんなことを」


 用意していた中で、その質問が最も無意味であることは理解していた。しかし私には、それを聞かないことができなかったのだ。

 人の見た目をしているのに、人ではない何か別の生き物。そんなものが存在している、と言う事実を脳が受け入れられなかったのだろう。


 恐らく私はこの先一生、あの目を忘れることができない。それだけが、私が彼と会って得ることができたたった一つの結論である。


           

   ――フリーライター・Fの遺した下書きより――

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