寂しさ、或いは清々しさ。
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――部屋を見渡す。とても静かだ。
テレビを点けると、ほんの少しだけ賑やかになった。けれど、それでも物足りなく感じてしまう。
彼女が出て行ったのが、今朝の話である。
部屋には持ち出されなかった同棲の残骸が幾らか残されていて、ふとそれに目が行く度に残滓のような記憶がぽつりと頭に浮かんだ。
何故出て行ってしまったのか、それは知らない。
浮気したこともなければ、浪費癖がある訳でもない。記念日を忘れたこともないし、望まれたことには可能な範囲で応えているつもりだった。
だが、それでも。今朝彼女は起き抜けに僕を強く責め立て、荷物を纏めて家を出て行ってしまった。
そのことを悲しむ以上に、困惑している。
考えてみれば、今朝の罵倒は今一つ要領を得ないと言うか言いがかり紛いの文句が殆どだったような気がする。用意された朝食が好みじゃないとか、少し上司からの電話に出ただけで休みなのに彼女より仕事を優先するなとか……思い返すほど、納得行かない理由ばかりだ。
そも、僕は女性経験が彼女以外に一度もなく、女心を理解し切れているとは言い難い。
だから、思わぬところで不況を買った可能性もあるにはあるのだ。そうだとすれば申し訳ない、とは思う。
けれど正直、少し安堵している自分も居るのだ。
理由も語らず怒りだけを一方的にぶつけ、相手に反論や話し合いの余地さえ与えない。はっきり言って、そんな人間とこの先良い関係で居られるとは思えなかった。
だから今、僕はこの静けさを寂しく思うと同時に――ほんの少し、清々しいとも思っている。
……類のようで対な、複雑な思いを抱えながら。僕は正面で鈍く光るテレビ画面を、呆然と眺め続けていた。