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可惜夜の夢

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 八月十六日、午前二時。

 夜中にふと目を覚ました私は、ほんの気紛れに外を散歩することにした。

 肌が灼けてしまいそうな程に暑い季節だが、夜の時間帯なら多少は涼しいだろう――そんな楽観を持って外出したことを今は少々後悔している。


 確かに、日がない分暑さは昼より幾らかましだ。しかし、湿気た空気が熱を宿したまま残留しているせいでサウナに居るかの如くじっとりと蒸し暑い。

 たまの気紛れ、と言うものは良し悪しの差が非常に大きいものだ。今回はハズレか、と沈んだ気持ちで家に戻ろうとした、その時――


 ――――不意に、目の前を何かが横切った。


 虫だろうか。いや、それにしては少し大きい。

 ならば獣か。いや、にしては野生を感じない。

 ならば人か。いや、そう呼ぶには些か奇妙だ。


「………………?」


 目の前に現れたもの――それは、見たこともない「何か」だった。

 体は甲虫よりやや大きい程度、形は人のようでもあるが同時に獣のようでもある。その背には金色の翅が伸びており、それがハチドリのように忙しく震えている。


 妖精……とでも言うのだろうか。何か違うような気もするが、それ以上に「これ」と類似する存在は私の知識の中にはない。

 「妖精らしきもの」は怪訝そうな表情を浮かべて小さく首を傾げた後、何処か楽しげにくるりと舞い上がって私の頭上に位置付けた。


 何のつもりか――そう思っていると、それは私の真上でプロペラのようにくるりくるりと回り出す。


「………………♪」


 そして、金色の鱗粉をその翅から撒き散らした。

 不思議と厭な感じはしない。寧ろ髪に降り掛かるその一粒一粒が奇妙な程に心地良くて、その穏やかさに思わず微睡み……そして、短い夢を見た。


 それは、甘い明晰夢のようなもの。

 踊るように夏の夜空を星と歩き、宇宙の彼方へとその歩みを進めていく。道中視界に映る世界は泣き出したいほど美しくて、思わず何度も立ち止まった。


 終わりたくない、と強く願う。けれど夢である以上、終わりは必ずやってくる。


       ◇


 気が付くと、私は自室で眠っていた。

 いつ帰って来たのか、それとも全てが夢でしかなかったのか――それは分からないし、分かる気もない。

 ただ、確かにあったのだと信じ……私は、あの素晴らしき可惜夜に深く思いを馳せた。

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