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「いつも通り」になっていく

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「いらっしゃいま……あぁ、どうも」


 ある日の夕方。最近よく訪れる喫茶店に足を踏み入れると、店主がにこやかに笑んでそんな挨拶をした。

 普段と異なる接客態度に首を傾げながら、私は窓際の席に座る。そしてメニューを広げるのと殆ど同時、店主が水の入ったコップを持って来た。


「こちら、お冷でございます」

「どうも」


 簡素な対話。いつもならこの後、店主は「ご注文がお決まりになりましたらお声がけください」と言い残してその場から立ち去って行く。

 けれど、この日は少し違った。


「ご注文は「いつもと同じ」で宜しいですか?」

「…………え?」

「ブレンドとたまごサンド。ブレンドは濃いめでミルクや砂糖は不要、食後にはチョコレートケーキ……いつも同じものをご注文なされるので、覚えてしまいました」


 ……成程、入店時の反応が普段と違ったことに漸く得心が行った。あれは「馴染みの客が来た」と言う意味合いでの反応だった訳だ。

 顔を覚えられたことは少々気恥ずかしいが、同時にむず痒い心地良さも存在する。頬が微かに紅潮するのを感じながら、私は「それでお願いします」と笑って答えた。


「畏まりました」


 そう言って去って行く店主の背を眺める。

 そこで気付いたのだが、私は何故かその背に奇妙な安心感を覚えていた。

 どうやら、店主が私の姿や注文に馴染んだのと同じように私自身も彼女に馴染んでいたようだ。ならばこの安心感は、ある種「いつも通り」に対する感覚と言ったところだろうか。


 同じ枕でしか眠れない人間がいるのと同じように、いつも通りの展開に安心を覚える人間もいる。それはとても退屈だが、しかしとても幸福なことだと私は思う。


「お待たせいたしました。「いつもの」でございます」


 そんな風にぼんやりとしていた時、目の前に料理が並べられる。私はいつもの手順でそれを口に運びながら、「いつも通りの味」の幸福をただ緩やかに噛み締めた。

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