腐った林檎の味比べ
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「一つ、問答をしないか?」
ある日の放課後。部室で課題をしていた時、珍しく姿を現した顧問がいきなりそんなことを言い出した。
「何です、突然」
「なに、ほんの気紛れだ。君は思うままに答えてくれればそれで良い」
……出たよ、いつもの。内心でそう呆れながら僕はノートを閉じ、顧問の方へと目を向ける。
「それで、今回の問いは?」
「おや、案外乗り気だね」
「違います。貴女が断ると余計面倒臭い人だってことを既に知っているから、もう諦めてるんですよ」
そう返して顧問を軽く睨むが、当の本人は「生徒からの理解度が高いのは嬉しいね」などとへらへらしている。
気付いていないのか……いや、多分分かっていて気にしていないだけだろうな。
「で?結局、何が聞きたいんですか」
「ああ、そうそう。今回聞きたいのは『団栗の背比べ』ならぬ『腐った林檎の味比べ』だ」
「『腐った林檎の味比べ』?」
何だろうか、それは。話の流れからして、恐らく『団栗の背比べ』と似た意ではあると思うが……
「目の前に腐った林檎が二つ。そして、二つの林檎には一人ずつそれを勧める人間が付いている。
片方は九割九分腐った林檎、しかし残りの一分はとても美味しく食べられると言う。対してもう片方は九割九分が普通に食べられるが、残り一分が腐った林檎だ。
さて、君はどっちを食べたいと思う?あ、もちろん完食して貰うよ」
問われて、少し考える。しかし――
「――――いや、どっちも食べたくないですよ」
「ほう、それは何故?」
「いや、何故も何もどっちも腐ってるのは同じじゃないですか。それが一分だろうが九割九分であろうが、腐ってるものなんて食べたくないです」
僕がそう答えると、彼女は何処か満足げに頷き――そして、ふわりと微笑んだ。
「うん、正解」
「え?正解って……これ、そんなものがある問題だったんですか?」
「いや、別に?人それぞれだと思うよ」
「ええ……じゃあ、何が正解なんですか」
「まぁ、私の好みだ。敢えて言うなら「人間として」正解ってところかな?
あくまでも、私の感覚としてね」
「人間として……?」
意味が分からない。聞いてみようと思ったが、彼女はそう考えた時点で既に居なくなっていた。
「……どういう意図だったんだ、あの質問」
考えてみるが、答えは出ない。
……全く、あの人は厄介だ。毎度悩ませるだけ悩ませて、姿を消してしまうのだから――――




