思い出の木
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家の庭には、楓の木が植えられている。
私の名前と同じ名前の木。母曰く、私の名前はこの木から貰ったものなのだと言う。
私が現在住む家は、かつて祖母の実家だった場所である。この木はその当時、まだ母の祖父母が健在だった頃に植えられたものらしい。
幾度か時代に合わせて改築を繰り返しながらも、不思議とこの楓の木を排除しようと言う者は現れなかったそうだ。事実として、私もこの木に対してそんな気持ちになったことは一度もない。
母は何故、私の名前をこの木から取ったのか。尋ねると、母は笑いながら答えてくれた。
「とても素敵な話を聞いたのよ。私のおじいちゃんとおばあちゃん……貴方のひいおじいちゃん、ひいおばあちゃんからね」
何処か懐かしむような表情で、母はゆっくりと語り始める。
「二人が若い頃は……まぁ、色々と良くないことが続いた時期だったそうでね。二人の結婚は、そんな時期だからこそ急がれた政略的なものだったんだって。
しかも、家同士の仲が良かった訳でもなく本当に「家同士の繋がりを作る」為だけの結婚。だからお互いに大事な後継ぎは渡せないってことで、勝手に選ばれたのが冷遇されてた当時の二人だったそうよ」
……聞いているだけでも、良い気分のしない話だ。
冷遇して、行く先を勝手に決めて……なんて、まるで道具か何かじゃないか。
そんな私の憤りをよそに、母はそのまま話を続ける。
「でもね、互いにそういう立場に居た二人だからこそ打ち解けるのは早かったらしいわ。
同じ辛さを共有できる相手にお互い惹かれて、そのうちすぐに子供ができて……そんな時に、ひいおじいちゃんがこの木の苗を持ってきたの。
当時仕事で付き合いのあった人から面白い話を聞いたから、ってひいおじいちゃんが言ってたわね。
楓の木の、花言葉。それで、ひいおじいちゃんがひいおばあちゃんにこう言ったそうよ。
「この木には「大切な思い出」と言う意味があるのだと聞いた。辛い記憶を精算し、これから良い思い出を積み重ねる私達には似合いの木だろう」……って。
案外ロマンチストな人なんだな、って吃驚したわ」
そこまで言い切ってから一息吐き、母は話の締めに入る。
「貴方の名前は、そういう由来。大切な思い出を積み重ねて、いつか二人みたいな幸せを……ってね」
その言葉を聞き、私は思わず涙を流した。
……邪魔だなんて、思える訳が無かったのだ。
これ程までに愛に満ちた、この愛おしい楓の木を――――。




