人が神に求めるは
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始業式の日の朝、教室は俄かに色めき立っていた。
「今日、転校生が来る」
担任がそう話していたという情報を、廊下で偶然聞いてしまった口の軽いクラスメイトがうっかり漏らした為である。それを知った生徒達は、これからやって来る新しい仲間の姿や性別を口々に予想し始めた。
美少女、美男子、昔別れた幼馴染……現実的なものに加えてそんな物語じみた理想が並ぶのを聞いていると、転校生が少し不憫に思えてきた。
良く知らない場所に飛び込んだら、良く知らないうちにハードルが限界突破しているなんて私であれば絶対に嫌だ。不安に満ちた心情でそんな環境に飛び込んだら、私はほぼ間違いなく不登校になる。
とは言え、クラスメイト達を諌めるような権限はクラス中層の私には無い。私はまだ見ぬ転校生に内心で謝罪しつつ、ホームルームが始まるのを待った。
そして、数分後。始業のチャイムとほぼ同時、担任が緩慢な動作で教室に入ってくる。
「今日は皆に新しい仲間が増える」。そんな誰もが既に知っている情報を担任は自慢げに開示して、外で待っているらしい転校生を呼び寄せた。
その声に応じ、がらと音を立てて扉が開いたその瞬間。
――――教室内から、音が消えた。
隣のクラスの笑い声や話し声は聞こえてくるから、全ての音が消えた訳ではない。
ただ、この教室と言う狭く小さな世界の中。たったそれだけの世界の中は、話し声どころか息を吐く音ですらも完全に消失している。
その美しさは、この世のものではなかった。
金色に光る陽光の髪。
真白く淡い陶器の肌。
蒼玉が如き宝石の瞳。
「女神」と呼ばれる存在をここまで鮮明に連想できる容姿を、私は今まで見たことがない。
彼女を隣に立たせながらも平然と話せている担任を、私は入学以来初めて心底尊敬した。
私があそこに立っていたら、恐らく何も話せない――いや。恐らくは、彼女を紹介する言葉の代わりにプロポーズの言葉が口をついて出ただろう。そう思わせるほどに圧倒的な「美」。
……彼女の名前はまだ知らない。自己紹介はしていたのだろうが、見惚れるうちに聞き逃した。
恐らく、教室中の誰もが同じ状況だろう。男も女も関係なく、その場に居た全ての生徒は――――
――――象徴たる美しさ以外、何一つとして彼女に求めようとは思わなかったのだから。




