旅の終わり
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ながい、ながい、たびだった。
靴底が無くなったのはいつだっただろうか。はじめは石を踏む度激痛が走った足裏の皮も気付けば石のように硬くなっていて、今はもう何も感じない。
歩き始めた理由は忘れた。とても大切なことだったような気もするし、呆れるほどくだらないことだったような気もしている。
どちらかなんて考えたこともないし、多分どちらであれ足は止めなかっただろうなとは思う。
目的地も知らない旅。それは永遠のように思えたが、終わりはとても呆気ないものだった。
ある日、道すがらふと立ち止まった場所。
何のことはない、ごく平凡な道だ。大きな町から小さな集落までを繋ぐ、草原に伸びた真っ直ぐな道。
時間は丁度夕暮れ時だった。一面緑で覆い尽くされた風景を陽光が赤く照らし、爽やかな風がそれらを淡く揺らす美しい光景が目の前に広がる。
しかし、こんな光景は何度も見てきた。何なら、これより遥かに美しい光景だって見たことがある。
飽きるほどに見た風景。そんなものに心を動かされる筈も無く、殆ど惰性のような気分でそれを眺めた。
やがて、緩やかに日は沈む。緑と赤は黒に呑まれて、鮮やかだった世界が単色の無機質な世界に切り替わる。
その光景は美しい、と言うよりも恐ろしい。けれど、不思議と目を離すことはできなかった。
「妖しさ」と言うのだろうか。何処か蠱惑的で独特なその世界観はそんな魅力を抱えていて、幾度見ても飽きることなく強烈に惹きつけられてしまう。
ただ、今回は少し違った。
魅せられた私は歩みを止め、ぼうとその場に立ち尽くす。
そしてそのまま、身体を動かせなくなった。
重い、と言うより固い。奇妙な感覚に慌て、どうしたのかと思考を混乱させてしまう。
けれど、すぐに冷静になった。そして、気付く。
――――「動かない」のではなく「動きたくない」のだ、と。
ただ、この時間が愛しかった。
長い長い旅路の果てを知るよりも、ここを果てにしたくなってしまったのだ。
本当の果てがどこかは知らない。けれど、きっとそれで良いのだろう。
旅の終わりなど、自分で勝手に決めるものだ。私はこの結末に満足しながら、心地良い黒の中に意識の全てを溶かしていった――――。




