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かまいたちの朝

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 ある、夏の朝の話だ。

 

 その日は一週間降り続いた豪雨が突然ぱたりと止み、嫌気が差す程暑い朝になったことを覚えている。

 あまりの暑さにうんざりしながらも、私は日課である朝の散歩をすることにした。

 

 これは、私がまだ幼い頃からの習慣だ。

 生来然程身体の強くない私にとって、歩くことは私でも可能な数少ない運動の手段であった。

 故に運動不足にならないよう始めたのがこの散歩である。今となっては虚弱体質も改善され、他の運動をすることも可能なのだが……なんとなく、今更これ以外の運動をする気にはあまりなれなかった。


 朝の街は不思議ととても静謐な感じがして、歩いている内に自然と心が穏やかになる。

 実際のところ、かなりの都会であるこの街は朝も夜も変わりない程度には喧しいのだが――何処かぴんと張った糸にも似た独特な空気感の所為だろうか、朝だけはその喧しさが鳴りを潜めているように思えるのだ。


 そんなことを考えながら歩いていた時、不意に隣をほのかに冷たい感覚が通り抜けた。

 ごく自然な風である。吹く風何熱を蓄えた皮膚に浮いた汗をほんの僅かに冷やし、体温を少し下げてくれた。その感覚は何故か、普段よりずっと心地良い。


 しかし同時に、ぴりと痺れるような痛みを覚えた。

 見ると腕の皮膚が薄らと裂け、赤く血が滲んでいる。思わずそっと触れてみると、血液のそれとは些か異なるぬるりとした感触があった。

 恐る恐る、傷を撫でた指に鼻を近付ける。その匂いはすうと抜けるような爽やかさで、嫌な気持ちは全くと言っていいほど感じなかった。


       ◇


 ……それが「かまいたち」と言う妖怪の仕業であることを知ったのは、つい先日の話だ。

 非現実的だと思うだろう。私自身もそう思ってはいるが、存外不自然にも思えてはいないのだ。


 朝の、ぴんと張った糸のような空気。思えばあの空気は、刃に似ているようにも感じられる。

 だから、と言うのも変な話だが、私の中でそれがなんとなくしっくりと来てしまった。

 恐らくは、彼らにとってもあの空気は心地良いのだろう。

 

 今日もまた、私は朝の街を歩く。その途中に吹く一陣の風に、私は微かな親近感を覚えていた。

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