美を残す為の手記
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その日、街に青い雨が降った。
それは決して有害ではない。ただひたすらに青く、鮮やかで美しいだけの奇妙な雨だ。
私はこの日、些細な用事で外出していた。雨が降り出したのは、それを終えて帰ろうとした間際である。
頬に触れた水滴に気付き空を見上げた瞬間、私はそこに純粋なサファイアが如き輝きを見た。
晴れた空から降り注ぐ青い雫。その一粒一粒が陽光を受けて虹色の光を放ち、顔の横を通り抜けていく。それを見た時の感覚はさながら、美術館でモナ・リザを初めて見た際の感動に似ているような気がした。
何故、そんな現象が起きたのか――それについては未だに判明していない。
ほんの数分で雨が止んでしまった後、青い水溜りの水を掬い上げて調べ上げたが水を染色するような成分は検出されなかったらしい。それどころか、不思議なことに不純物が一切混じっていない「完全な純水」であったのだそうだ。砂場やアスファルト、側溝……どこから掬い上げようと、それは変化がなかったと言う。
奇妙なことではあるが、美しいものに貴賎はない。私は然程「それが何であったか」には興味を持たず、ただあの日の光景に思いを馳せた。
あまりに非現実的で、幻想的。しかし空想などではなく、確かに現実であるのだと主張するような冷たさと肌を緩やかに伝うあの感触。
宝石よりも遥かに価値を感じさせるような美に、私の心は囚われていた。
しかし不思議と「あの光景をもう一度見たい」とは思えず、寧ろ「二度と見たくない」と考えてすらいる自分が心の内に存在している。
理論も、理屈も、何もかもが不要だと感じられるほどの美しさがそこに在ったが故だろうか。或いは、私が見目ではなく刹那的な美しさの方に心惹かれたからかも知れない。
私は恐らく、他の何を忘れようとあの光景だけは永遠に記憶に宿し続けるだろう――とは語りつつも、脳には限界と言うものがある。いつか抗いようのない何かによって、それを忘却してしまうこともあるだろう。
そんな時、あの日の美しさだけは必ず思い出せるように。ただこれだけの文章を、ここに書き記しておくとしよう――――




