人間らしい感情
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その感情は、今までに経験の無いものだった。
胸が高鳴り、全身が高熱を持つ。脳内の全てが特定の個人に直結し、それ以外の結末を迎えられない。
この感情の名には覚えがあった。
経験は無いが、知識としては理解できる。恐らく、この感情は恋と呼ばれるものなのだろう。
私は驚愕した。まさか自分がそんな感情を持つなど、一度として考えたことが無かったからだ。
共感性の欠如、とでも言うのだろうか。私には、他人の心に寄り添う能力が生まれながらに欠けていた。
幼い頃から、感動できたことが一度も無い。
感動大作、と銘打たれた映画や本を観ても涙の一粒すら流れたことが無く、感じられるのはせいぜい「面白いな」と言う程度。あまりにも反応が薄いから、人と映画を見ると時折「冷血」や「機械的」と言われることもあった。
そんな自分が、恋。傍目から見た時の服を着せられたペットが如くあまりにも不似合いで、最早笑いさえ込み上げて来る。
まぁ、納得できる部分も無いではない。確かに不似合いではあるが、それが「屈折している」と言う面だけはある意味自分らしいと感じる。
機械のような人間だからだろうか。私はどうやら、自分の性質に近しい無機質な存在に心惹かれるようだ。
熱のない体。
固い表皮。
凍りついた表情。
それを見た時、初めて胸が高鳴った。
白く冷たい皮膚に赤みが差し、かちかちと言う歯車のような音だと思っていた心臓の音が初めてどくん、どくんという血が流れる音に聞こえた。
もしかすると私はこの時、初めて「人間」になったと言えるのかも知れない。いや、間違いなくそうだろうと私は強く確信した。
◇
……「私は人間になったのだ」。男は私にそう言った。
確かに、感情は人を人たらしめる上で重要な要素であると言えるだろう。無論人以外に感情が無い訳ではないが、流石に人ほど鮮明ではない。
しかし、私は思うのだ。
倫理なき感情は、果たして人が持つものなのか。それを宿す者を、人間は自分達の同種では無く――――
――――「怪物」と呼ぶのではないだろうか、と。




