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退屈よりも空虚なこと

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 青年の人生は、酷く退屈なものだった。

 何をとっても平均値程度の能力しか持たず、特筆すべき点が何もない。強いて挙げるのであれば、能力のみならず苗字と名前すらもこの国で一番ありふれたものであることぐらいだろうか。


 そんな彼の人生を振り返れば、やはり「退屈」と言わざるを得ない。どの程度退屈かと言えば「人生全てを使用しても、五分アニメぐらいしか作れない」程度だ。

 彼自身にそう言う能力でもあるのではないか、と疑ってしまうほどに彼とその周囲を取り巻く環境は平凡の一言に尽きる。


 基本、どんな人間にも「山」や「谷」と呼ばれる浮き沈みは存在するものだ。葛藤や混乱、決断……様々な要素によって幾度もの起承転結が形作られ、人生と言う物語は完成する。

 しかし、彼の人生は平坦そのものでしかなかった。


 無論完全に平坦と言う訳ではないが、それも「山」や「谷」と呼ぶには貧弱な凹凸程度のものである。その揺らぎの少ない在り方は、人間と言うより植物のそれに類似しているように思えた。


 ふと気になり、青年に問いかける。


「これで良かったのか」


 青年は答えた。


「これ以外を知りません」


 知りたくもない、と青年は言う。

 彼は、人生と言うものを悔いていない。けれど、満たされてもいなかった。

 もしも自分以外の人生を知ってしまったのならば、自分は必ず生に不足を覚えるだろう。

 だから、それ以外など知らない。知らなくても良い。知ってはいけない。


 青年は羨まなかった。青年は妬まなかった。ただ当然に、自分という人生を平凡に生きた。


「羨むことを悪意だとは思わない。けれど手に入らぬものを妬み嫉むことは、平凡と言う退屈よりも遥かに空虚なものだと思うのです」


 青年は、静かな声でそう言った。

 そんな彼に、私は問う。


「なら、この後お前は何処へ行く?」


 青年は答えた。


「退屈であれ、空虚ではない場所へ。それが生命として正しい在り方だと、私は考えていますから」


 青年は去る。きっと、以前のように退屈な生へ。

 それを、ほんの少し羨んでしまったことは――彼に続くその日まで、胸に秘めておくことにした。

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