天使と悪魔
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――――これは、ある深い夜の話。
沈み込むような黒に誘われた一匹の悪魔がぶらりぶらりと散歩をしていると、不意に彼の眼前に目が眩む程の光が現れた。
何事かと思い、咄嗟に両目をを腕で覆う。けれど、悪魔はすぐにその腕を退けた。
悪魔にとって、光は忌むべきものである。しかしその光は彼にも不思議と苦を感じさせず、どころか暗中にいる時のように心安らぐ気さえした。
見惚れるように眺めていると、その光は自ずから揺らめきヒトに似た形を成して行く。
そうして彼の前に現れたのは、金色と白に彩られた見目悍ましい天使であった。
金と白。「光」と「純粋」を示す、最も醜悪な色である。
しかし、何故だろうか。暗闇の中で煌々と輝くその色を、彼は嫌悪できなかった。
特段、彼は悪魔として心澄んだ存在ではない。それどころか穢れ濁った黒に全てを満たされた、悪魔の中でも更に悪魔らしい存在であるとさえ言えよう。
であれば何故、彼はその存在を嫌悪できなかったのだろうか。それを知る者は、並行世界を億回巡ったとしても見つかることが無いだろう。
当然、彼自身にもその理由は分からない。
困惑、或いは慕情。そんな感情に縛られ呆けていた彼に、天使は甘く安らかな声で囁いた。
「貴方の黒は美しい。夜闇に溶けたその姿は、まるでこの世に存在していないかのようだ」
ともすれば、嘲りのようですらあるその言葉。しかし彼はそれにさえ嫌悪を抱かず、ただ見惚れることしかできずに居た。
果たして、何の目的で現れたのか。奇妙な言葉だけを残し、天使は空へと消えて行く。
その日を境に、悪魔の心は天使に囚われた。とは言っても、心が清くなった訳ではない。
ただ、美の感覚が変化した。
黒を醜く、白や金を美しく。闇を恐れ、光を愛する。
それは最早、悪魔ではなかった。けれど、天使にもなり得なかった。
白と黒は混じり合えど、決して染まることがない。
混じるだけ混じり、灰に歪んだその存在を――ある悪魔が、嘲るようにこう呼んだ。
――――「人間」と。




