泣く者、嗤う者
投稿しました!
良ければ評価、感想よろしくお願いします!
瞼を下ろすと、いつも同じ声を聞く。
遠い、けれど近い。恐らくは女性の、悲痛な涙交じりの声。
それは夢のようでもあるが、どちらかと言えば走馬灯に似ているように思える。遥か遠い記憶を脳が強制的に掘り返しているような、そんな奇妙で虚ろな感覚。
当然だが、私にそんな記憶は無い。女性を泣かせるような色男では無いし、そもそも女性と関わる機会自体が全くと言って良いほど皆無だ。
まぁ、どこかで見た映像作品の記憶が脳の深層に残留しているのだろう。そんな風に考え、特段気に留めてもいなかった。
しかし、ある日のことだ。仕事からの帰路、疲れた身体を軽く伸ばしている時だった。
覚えのある泣き声が聞こえて、足を止める。瞼を閉じて開いても、その声が無くなることはない。
使命感――いや、好奇心だろうか。私はそんな軽い気持ちで、声のする方へと歩み寄って行った。
声を追って入り込んだのは、古い路地だった。
ゲームや漫画で見るような、典型的な路地裏。怯えながらも高揚してしまうのは恐らく、現実に見ることの少ない風景だからだろう。
迷路のようなそこを歩いて行くと、最奥で一人の少女を見つけた。
歳はせいぜい十一、二歳だろうか。もしかすると、それより大分幼いかも知れない。
それ程までに歳若い少女がこんな薄暗い夜の路地裏に居ると言う時点でかなり不気味だが、それ以上に奇妙なのは自分の耳だ。
少女は泣いている。しかしそれは、広く届くような号泣ではなく淡く微かな啜り泣きだ。
随分歩いて辿り着いた筈の場所で啜り泣く小さな少女の声を、一体どうすれば聞き取れると言うのだろうか。
恐ろしくなり、慌てて逃げ出そうとする。しかし、それも最早遅かった。
記憶通りに路地を辿っても、元の道に戻れない。次第に自分の足音すら消えて、啜り泣く声だけが耳に届くようになる。
走れど、走れど暗い闇。そのうち、自分が走っているのか止まっているのかさえも分からなくなった。
……やがて、私の意識は闇に溶ける。その直前、ずっと聞こえていた少女の啜り泣く声が――嘲り嗤う、悪魔の声に姿を変えたような気がした。




