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過去が持つ価値

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 実家に戻る度、嫌になる程目についた。


 日焼けした紙に描かれた、幼い子供の拙い絵。私が幼少の頃、小学校の課題で描いた魚の絵だ。

 

 その姿は魚と呼ぶにはあまりに歪で、矢鱈カラフルに色付けされている。その非現実的かつ無駄ばかりの見た目は、まさに子供の妄想と言った風だ。


 …………この絵を見る度、複雑な気持ちになる。


 以前――描いた当時は、それを最高傑作だと思っていたように思う。しかし、大人になった今となっては拙く不恰好な黒歴史の象徴のようなものだ。


 人間と言う生き物は、歳を重ねれば重ねる程過去を嫌悪すべき対象と認識するようになる。

 「成長」の表れ……と言えば聞こえは良いが、要は今の自分より劣る存在を否定したいだけだろう。


 そんな自分の情けなさや、幼少期の絵をいつまでも飾られる気恥ずかしさなどの気持ちが混ざり、酷く微妙な気分にさせられてしまうのだ。

 正直剥がしてしまいたいところだが、そうできない理由がこの家に住む祖母である。


 祖母は軽度の認知症で、数年前から両親と共にこの家で暮らしている。

 様々な記憶を失っている祖母の中で、私はどうやらこの絵を描いた当時のままのようだ。暇さえあればこの絵の前に座り、「上手だねぇ」なんて笑顔で呟いている。


 以前母に言ってこの絵を剥がそうとした時、普段は物静かな祖母が強く抵抗したのだそうだ。


「折角あの子が頑張って描いた絵を剥がすなんて酷い」


 そう言って泣き出したらしい。そうなると母も何も言えず、結局貼ったままと言う訳だ。


 今日も祖母は、壁に貼られた古い絵を穏やかな目で眺めている。心から愛おしむように、幼子を慈しむような瞳で。

 その姿を見ていると、なんとなしに思うのだ。


 過去の羞恥も――他者を幸福にするのなら、それは無価値では無いのでは無いか、と。

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