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記憶と言う呪い

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 …………未だ、忘れられぬ記憶がある。


 目が覚めると、周囲は暗黒に包まれていた。

 深い闇と空腹は孤独感を増幅させ、背筋がひやりと冷たくなる。幾度も経験している筈だが、この感覚には未だ慣れることができない。


 孤独と空腹を満たす為、私はいつものように母を呼んだ。しかし奇妙なことに、普段なら一分もすれば駆け付けてくる母は暫く待っても姿を見せない。

 動く力を持たず、呼ぶことしかできない私は必死に母を呼び続けた。しかしやはり、何度呼び掛けても駆け付けるどころか反応の一つすら寄越さない。


 無情に響く自分の声を聞いているうち、無性に腹が立ち始めた。

 いつもと違う状況。喚き過ぎて痛む喉。それらの違和感に煽られるように、私は一際大きな声を上げた。


 ――――と、その時だ。


 がた、と何かが動く音がした。漸く気付いたのか、と私は安堵し、声を少し小さくする。

 待っていると、音がだんだん大きくなってきた。しかし、心穏やかに待っていた私の前に現れたのは…………


 …………まるで知らぬ、何者かだった。

 

 暗闇で姿は良く見えない。だが、その影は母のものよりも幾分か大きく見える。

 強烈な悪臭。だが、以前にも似たような臭いを嗅いだことがあるような気がした。


 それはぬろりと私を舐めるように眺め、奇妙な形をした腕を振り上げる。カーテンの隙間から覗く月光を受けたその先端は、微かに輝いているように見えた。


 私は自分でも気付かぬうち、声を上げることを止め眠りについた振りをしていた。

 初めて覚える感情に戸惑いながらも、本能で正しく今の状況を認識していたからだろう。


 ――――声を出せば死ぬ、と。


 狸寝入りが幸いしたのか、人影は振り上げた腕を緩やかに下ろしその場を立ち去って行った。私は静かに胸を撫で下ろし、そのまま再度眠りにつく。

 ……ただの夢。そんな期待を、頭の中で叫びながら。


       〜


 再び目を覚ますと、そこには父の顔があった。しかしその表情は深い絶望に満たされ、いつもの朗らかで明るい気色など微塵も感じられない。

 そこで私は理解した。

 ――――あの光景は、夢ではないのだと。 


       ◇


 ……未だ、忘却できない記憶。それがあまりに衝撃的な光景だったせいか、幼児期健忘などと言う機能は微塵も働いていない。

 物心の無い、赤子の頃。今も私は、当時のことを夢に見る――――

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