真夏の桜
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その日、普段は通らない帰路を選んだ。
特に理由は無い。ただ今夜は夏とは思えないほど涼しくて、だからたまには遠回りでもしてみるかと気紛れに思っただけだ。
見慣れない道は閑散としていて、風の音くらいしか耳に触れるものは無い。その何処かもの悲しい雰囲気が、私には不思議と心地良く思えた。
道中、小さな公園を通りがかった。
もう随分、人が来ていないのだろう。遊具はどれも酷く錆び付いており、その全てに「安全の為、使用禁止」と書かれた紙が貼り付けられている。
……時代の変化、と言うやつだろうか。そんな寂しさと、微かな懐かしさに浸っていた時――
「こんばんは。今、お帰りですか?」
不意に、何処からか声を掛けられる。見渡すと、声の主はジャングルジムの上で静かに座っていた。
暗闇で姿は良く見えない。けれど鈴の音のような美しい声と、暗闇でも良く目立つ鮮やかな桜色の長髪から察するに恐らくは女性……なのだろう。
彼女は私に目を向けぬまま、優しい声で問い掛ける。
「貴方は、この公園をどう思いますか?」
私は迷うこと無く、思ったままを答えとした。少し寂しい、けれど同時に懐かしい、と。
私の答えを聞いた彼女は、不思議そうな声で聞き返して来る。
「……懐かしい、と言うのは何故ですか?
変化とは未来に進むもの、しかし懐かしさとは過去に抱くものでしょう。それは、一つの矛盾では?」
言われて少し考えて、けれど答えは明白だった。
――未来に触れるからこそ、過去は鮮やかに色付く。思い出が最も輝くのは、変化を目の当たりにした時だ。
そう答えて見上げた先には、既に誰も居なくなっていた。その代わりのように桜の花弁が一片、風に吹かれて踊っている。
……私が見たものは、一体何だったのか。それは、今も分かっていない。
幽霊か、或いは幻か。答えを求めてはいないが、私の足は今日もあの公園へと向かっている。
あの日見た、桜の美しさに。私はきっと、魅せられてしまったのだろう――――――