廻るは歌、そして……【後編】
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それからの時間は、とても穏やかなものであった。
少女は鈴の音に合わせて歌い、聞いた守護者はそれに賛辞の拍手を送る。そればかりを永遠にも思える時間の間繰り返したが、双方まるで飽きなど覚えなかった。
会話をしない二人にとって、その音だけの応酬は言葉よりも雄弁な意思疎通の手段だと言える。事実互いに言葉を交わすことは無くとも、相手が自身をどのように思っているのかは鮮明に理解できていた。
本来雌雄の区別すらない人形である守護者だが、この時守護者の心は自然と「雄」に寄っていた。
無論、守護者自身は自覚していない。何故ならそれは己が存在理由からかけ離れた「愛しさ」と言う感情に端を発するものだったのだから。
……それは、守護者にとって致命であった。
千変万化の思考回路を持つ人でさえ、一種の「固定された思考法則」と言うものを持つ。例えば「怒り」が「発散欲」に変換されるように、多くの感情は心の内で「欲」に変換されるものなのだ。
ならば、愛しさは――一体、何に変わるだろうか。
「……………………ッ!」
答えは……「守護欲」である。
守る為に生まれた存在。それが、本来の守護対象以外に「それ」を抱いてしまったら……その結末は、明白だ。
鈴と少女。二者択一を迫られた守護者は欲のままに少女を庇った。
結果、鈴は破壊され――致命傷を負った守護者は、その機能を停止した。
「あ……あっ……!」
盲目の少女はその事実を知り、嘆いた。
愛しいものの死。もう二度と、あの優しい拍手は聞かせて貰えないのだと。
「かみさま、どうか――――」
祈るように、少女は願った。
私の命は差し上げます。ですから、どうか。
「彼」に、今一度の永遠を……と。
――――りぃん。
そう願った途端、守護者の残骸が音を放つ。
停止した残骸は粒子となり、小さく纏まって――
――そして、新たな鈴となった。
…
目を覚ました彼が見たのは、動かなくなった少女の骸だった。
悲しむことはない。ただ、深く絶望した。
しかし、己の変化に気付いた直後――彼は、優しく歌い出す。
――――りぃん、りぃん、りぃん。
その音色が持つ意味を、彼は知っていた。
歌ううち、新たな守護者が現れる。それが外敵を払う姿を眺めながら、彼はひたすら歌い続ける。
それは、永遠を願う歌。少女の歌声、姿――あらゆる全てを忘却しない為に。
そして、いつか。
「だれか、いるの?」
その歌でまた、輪廻転生を廻す為に――――
〈終〉




