廻るは歌、そして……【中編】
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過ぎた時間は、最早誰も記憶していない。
ただ、互い自然な空気同士として過ごす時間が永遠に近い感覚で流れ続けていた。
あれ以降、相変わらず二人の間に会話は無い。守護者が他者と語らうなどと言う思考を持たぬことも原因の一つだろうが、同時に少女が生来寡黙な性格であることも沈黙を産む原因の一つだと言えるだろう。
しかし、それ以上に。双方存在を認識していないながらも孤独では無いこの空気に、いつしか互い心地良さを感じていたことこそ二人から言葉を奪う理由の根源だったのかも知れない。最も、真実は二人しか――いや、二人すら知らぬことであるのかも知れぬが。
だが、関係性が心地良くなっていく程に相手のことを知りたくなるのが人間と言う生き物の性である。
ある日、少女は久しく守護者に声を投げかけた。
「……あなたは、だぁれ?」
守護者は答えない。戦うことこそ前提であり、対話など不必要なものである守護者にとってそれは「在り方として正しい対応」と言える。
少女自身、初めてこの場所を訪れた際に殺気を向けられたことで相手が「そういうもの」であることはなんとなく理解していた。故に一度語りかけて駄目なら、繰り返さないと決めている。
その代わり、少女は静かに立ち上がった。
急な相手の動作に、守護者は警戒体制を取る。しかし直後、その必要が無かったことを理解した。
居心地の良い相手を知りたくなるのが人間の性。しかし同時に、相手に自己を教えたくなるのもある種人間の性なのだ。
「……♪………♫…………♪……」
少女は歌う。響く鈴の音に合わせ、ささやかな希望溢れる甘い歌を。
その、優しく切ない歌声を聞いた守護者は自身でも無意識のうち、手を静かに叩き合わせていた。
それは、紛れもない賞賛。言葉無き守護者が唯一可能な、最大級の賛辞の表明。
その音を聞き、少女は笑った。鈴の音よりも、遥かに優しく穏やかな声で。
こうして、二人は遂に――「空気同士」では、無くなったのだった。
〈続く〉




